NEWS2020年8月号 Vol. 31 No. 5(通巻356号)

気象衛星データの社会応用第4回宇宙開発利用大賞国土交通大臣賞を受賞して

  • 中島映至 (NPO太陽放射コンソーシアム 代表理事/国立環境研究所衛星観測センター シニアアドバイザー)

この度、NPO太陽放射コンソーシアム・情報通信研究機構(NICT・株式会社ウェザーニューズが共同開発した「先端情報通信技術によるリアルタイムひまわりデータ可視化アプリ」が、第4回宇宙開発利用大賞国土交通大臣賞*1を共同受賞しましたのでご報告します。

毎日、テレビの天気予報で見る静止気象衛星「ひまわり8号」の雲画像は、ひまわり衛星シリーズの中でも格段に高い質・量の気象データを提供している。16波長の画像を最頻2.5分間隔で取得することができ、しかも470(青、510(緑、639 nm(赤)の可視光のバンドを備えているため、陸面・海色・大気中の黄砂プリュームなどの微妙な色合いを検知できる。白黒画像がカラー画像になったと気象庁が時々紹介しているのも、言い得て妙である。

そのために、そのデータは気象予報以外にも色々と利用できる。例えば、私が代表理事を務めているNPO法人太陽放射コンソーシアム*2では、大学で長く培ってきたリモートセンシング技術を使って、地表面日射量データを準リアルタイムで生成し、太陽光エネルギー利用などで必要としている企業や研究者に提供している。

この解析システムは、その主要部分を作った竹中栄晶氏(現千葉大学環境リモートセンシング研究センター(CEReS)によってAMATERASSと名付けられているが、放射伝達理論に基づいた逆推計法を用いて、衛星受信輝度から雲とエアロゾルの微物理特性(粒子数や粒子サイズ、そして、それらに支配されている地球放射エネルギー収支を求めている。

物理法則に即した理論計算なので、様々なデータが作れるが、現在では地表面下向き日射量、直達日射量、散乱日射量、太陽光発電出力解析値を日本付近では1 km格子サイズ、30分間隔(ひまわり観測時間から10分以内の遅延、アジア・オセアニア領域では4 km格子サイズで提供している(図1。2020年5月1日時点において6,881万ダウンロードの実績がある。

図1 太陽放射コンソーシアムが提供する様々な成果物。気象衛星「ひまわり」のデータから推定した地表面での全天日射量(Global flux、散乱日射量(Diffuse、直達日射量(Direct、および大気上端での上向き散乱日射量(TOA up

その研究は2003年から始まり、文部科学省四大学連携プロジェクト「地球気候の診断に関わるバーチャルラボラトリーの形成、気候診断VLプロジェクト、経済産業省新エネルギー等共通基盤整備促進事業「中高温太陽熱利用調査及び各種システム評価法開発」等によって基盤となる技術が開発された。

最近では2015年度〜2019年度に研究が行われたJST/CREST研究領域「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開(研究総括:東工大 藤田政之氏)における「分散協調型EMSにおける地球科学情報の可用性向上とエネルギー需要モデルの開発(研究代表:東海大 中島孝氏)においても実施され、現在では太陽光発電に関する技術を研究する研究者も広く利用している。

いま、この技術が情報通信技術と出会うことによって、新しい情報発信アプリ*3が、本コンソーシアム・情報通信研究機構(NICT・株式会社ウェザーニューズの共同開発で実現した(図2

このアプリでは、NICTの村田健史氏のグループが開発した*3、HpFP(High-performance and Flexible Protocol)を軸とした高速データ伝送・並列分散処理・スケーラブル時系列可視化などの先端的情報通信技術システムに、AMATERASSデータを投入して、携帯電話などを利用して、ユーザが見たい場所の発電量などを任意の地図スケールでリアルタイムに表示することができる(図3

台風時には10万ページビューを超え、気象予報・報道・教育・インターネットイベント等で幅広く利用されている。年々利用件数は増加(2019年は300万ページビュー以上)しており、NICTでは東南アジアの3か所へのミラーサイト設置も行っている。

図2 先端情報通信技術によるリアルタイムひまわりデータ可視化アプリ。
図3 リアルタイムひまわりデータ可視化アプリの応用例。

今後は、本システムを利用して、衛星データを社会データと組み合わせる新しい情報発信が生まれるとよいなあと考えている。おそらく、思いもつかないような応用法が考えられると思うので、みなさんからアイデアを頂ければありがたいです。