2019年10月号 [Vol.30 No.7] 通巻第346号 201910_346005

国立環境研究所夏の大公開報告(その2) 展示、体験、施設公開を通して楽しく学んでいただきました

  • 地球環境研究センター 交流推進係

夏休み最初の土曜日となる7月20日に開催した国立環境研究所「夏の大公開」での地球環境研究センターや関連するユニットの展示、体験イベント、施設公開について各担当者からの報告をもとに紹介いたします。なお、「Dr.***ンジャーと考える防災と地球温暖化」の詳細は9月号をご覧ください。また、「研究者と話そう『温暖化が進むと何が困るかみんなで考える会』」の報告は来月号に掲載します。

1. 展示

(1)メタンを知ろう、測ろう

この展示は地球環境研究センターと環境計測研究センターのメンバーが共同で企画しました。

この企画では(1)メタンの温室効果ガスとしての重要性や全球収支、国立環境研究所(以下、国環研)の最新研究成果の一般市民向け解説、(2)身近な場所で採取したサンプル(雑木林の土壌、池の近くの泥、カブトムシなど)が発生するメタンと二酸化炭素を最新のレーザー分光型分析で測定するデモ実験、(3)「次のなかでメタンが出てくるところはどこ?」など小学生も楽しみながらメタンについて考えられる「メタンクイズ」の3つの展示を行いました。いずれも温室効果ガスとしてのメタンと一般市民の生活との関連性をわかりやすくイメージできるようにしたものです。それぞれの展示において、来場者とメタンに関する様々なレベルでの対話を行いました。対話を通じて、小学校高学年より上の年代は気候変動や地球温暖化問題へのある程度の理解はあるものの、メタンについては名前は知っていても温室効果ガスとしての重要性や発生源などの知識はほとんどないことを実感しました。

二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスとしての寄与を持つメタンは、将来の気候変動の予測や持続可能社会実現に向けた気候変動緩和技術の検討において極めて重要な研究対象であり、国環研においても多くの研究が実施されています。一方で、メタンについての一般市民の認知度は十分ではなく、その科学リテラシーを高めることも必要です。

一般市民の不安や疑問に対して、地球温暖化研究の最前線にいる研究者の言葉は特別な説得力を持っているはずです。一方、研究者としては自身の研究の価値や意義について違う視点からのヒントを得る貴重な機会となりました。

写真1 メタンクイズに挑戦する子どもたち。全問正解できたかな?

(2)地球環境モニタリング(空から民間航空機を利用して測る)

地球大気中の温室効果ガスの濃度分布は、その排出源・吸収源や分解過程、また、大気輸送の効果等により、刻一刻と変化しています。その様子をダイナミックに捉えるのに効果的なのが航空機観測です。2005年から気象研究所等と共同で、日本航空(JAL)の旅客機に観測装置を搭載して世界初となる観測を始めた「CONTRAIL」プロジェクトでは、航空機搭載測定機器の実物や、装置を機体に搭載する様子を映した動画を展示し、観測の仕組みや、データから何がわかるのかをわかりやすく説明しました。多くの方が、身近な民間旅客機を利用して観測が行われていることに驚き、興味深そうに説明に耳を傾けていました。装置の搭載場所や空気の取り入れ方、搭載機器の見分け方、CONRAILロゴ入の機体がある等の情報には皆さん関心が高かったようです。今年は特に、上空の濃度分布がどのように役立つか、というような、本質的な質問をして下さる方が多く、航空機観測の利点を十分にお伝えすることができました。

写真2 航空機に実際に搭載されている測定装置を展示し、観測の仕組みなどを説明しました

(3)人工衛星から温室効果ガスを観測する:GOSATとGOSAT-2

地球温暖化の原因となる温室効果ガス濃度は地上観測だけではなく、宇宙から人工衛星による観測も行われています。

夏の大公開では、日本の温室効果ガス観測技術衛星GOSAT(いぶき、2009年打上げ)とその後継機であるGOSAT-2(いぶき2号、2018年打上げ)についての概要やGOSATによる10年の観測から得られた成果をポスターや動画で紹介しました。また、ポスターの説明をよく読まないと分からないような難しめのクイズを用意し、正解者にはオリジナルの缶バッチなどを差し上げました。人工衛星とロケットに目を輝かせる小さな男の子から、温暖化問題に関心の深い年配の方まで、幅広い年齢層、興味の方がいらっしゃり、いろいろな方に宇宙からの温室効果ガス観測をアピールする良い機会になったと思います。

写真3 人工衛星やロケットに興味津々の子どもたち

(4)様々な土地における二酸化炭素の排出やメタンの吸収・排出を測ってみよう

地球温暖化の原因を理解するためには、様々な生態系で起こっている二酸化炭素やメタンの吸収・排出を正しく知ることが重要です。森林、草地、農地などの陸域生態系においては、植物の光合成によって二酸化炭素が吸収されています。その一方で、微生物による有機物分解や、植物の根の呼吸によって、土壌からは昼夜を問わず二酸化炭素が排出されています。さらに、森林などにおける好気的な土壌はメタンを吸収しますが、水田や湿地などの嫌気的な環境からは、多量のメタンが排出されます。その実態を確かめるために、野菜畑、土壌のみ、水田の3つの陸域生態系を模したサンプルを作製し、チャンバー(箱)を用いて、二酸化炭素やメタンの吸収・排出の実態をリアルタイムで紹介しました。

写真4 チャンバ―を用いて二酸化炭素やメタンの吸収・排出の実態を紹介しました

(5)地球の未来を共に考える「フューチャー・アース」プロジェクト

フューチャー・アースとは持続可能な地球社会の実現をめざす国際協働研究プラットフォームです。研究コミュニティーと社会の様々な関係者とが協働して、共に社会に繋がる研究を推進しています。ブースでは、「気候変動について今伝えたい、10の重要なメッセージ」を配布し、そしてAnthropocene(人新世)という雑誌の見本の展示や翻訳サンプルの配布をしました。また、フューチャー・アースの取り組みの一つである「眠っている巨人〜地球科学と金融の対話〜」の内容に沿って作られたオリジナル絵本を展示し、訪れた子どもたちに読み聞かせをしました。この絵本は、地球の安定にとって特に重要な生態系(「眠っている巨人」)について紹介しています。絵本では、その重要な生態系を破壊し、温暖化が進行してしまわないために私たち自身ができることを、子どもたちにも考えてもらえるようにクイズにしました。閲覧用の絵本も展示したほか、多くの親子に読み聞かせを楽しんでいただきました。

写真5 オリジナル絵本を利用して重要な生態系と地球温暖化について読み聞かせをしました

2. 体験イベント

(1)きせかえ絵本を作ろう〜みんなの工作室〜

「みんなの工作室」では、お出かけするクマちゃんを熱中症と有害紫外線から守るための帽子や洋服、持ち物を考える「きせかえ絵本」を作りました。

ご参加の皆様が作ったコーディネートは、その場で等身大の顔はめ着せ替えパネルに反映させ、チェキ(インスタントカメラ)を用いた撮影会で楽しんでいただきました。

写真6 日差しが強くて暑い日のお出かけのコーディネートを考え中。親子の会話もはずみました(上)。コーディネートを決めたら、記念写真を撮影(下)

(2)これから天気はどうなるの? 気候の未来を予測する!

近年すっかり身近に感じられるようになってしまった地球温暖化。動画を使ったコーナーでは、「観測史上最高の気温」に地球温暖化がどのくらい影響していたかを調べる「イベントアトリビューション」の解説や、オゾン層の将来予測、地域別にみる水リスクの紹介などを行いました。「水リスクって何?」「オゾンホールってどうなった?」など様々な質問が寄せられました。一方、子どもたちに人気だったのがピンボールを使った手作りの確率分布作成マシン。斜めに傾けた台の上部からたくさんの球を転がすと、正規分布とよばれる山の形になります。これは、例えば地球の平均気温が毎年同じではなくて、いつもよりも気温が低い年もあれば高くなる年もあることを表しています。しかし温室効果ガスがたくさん排出されると、ピンボールの台は片方だけ底上げされたような形になり…。単純そうに見えて意外と奥が深いと驚かれる方もいらっしゃいました。

写真7 ピンボールを使ってイベントアトリビューションを楽しく学ぶ子どもたち

(3)「自転車発電生活」を体験してみる

毎年恒例の自転車発電、今年度は発電したことの見せ方を工夫し、子ども用自転車1台、大人用自転車1台をバージョンアップして、全部で3種類を楽しめるように用意しました。具体的には、様々なライトや電化製品の点灯を体験いただく小さいお子様向けの企画、10秒間集中的に自転車をこぐと発電量からランキングが表示され順位を知ることができる企画、そして目玉は、自転車での発電によってポンプを動かし、涼しげな滝をつくる夏ならではの企画です。100W程度出力されると、下に設置しているプールの水をポンプがくみ上げ始め、透明のホースを伝って脚立の上の水槽に水が貯まっていきます。一定量貯まると水槽から勢いよく水があふれてプールに落下し、滝ができるという仕掛けです。ポンプを動かし水を上までくみ上げるには、けっこうな体力を使いますが、コツをつかめば小学校高学年ぐらいから滝をつくることができ、親子連れの方々も互いに応援しつつ大変盛り上がっていました。

写真8 準備した3種類の企画に子どもから大人まで挑戦しました

3. 施設公開

(1)最先端研究施設潜入ツアー(航空機モニタリング、スーパーコンピュータ、GOSAT)

最先端研究施設潜入ツアーは、飛行機で測る大気の世界(町田室長)、宇宙から見る大気の世界(森野主任研究員)、温暖化予測の世界(小倉主任研究員)について、研究者より説明を聞きながらクイズに答えるという参加型で行われました。ツアーは全4回の実施でしたが、整理券に行列待ちをしていただくほど大盛況でした。参加者56名は、大人からお子さんまで幅広く、興味を持って説明を聞かれ、なおかつ研究者へ質問をされるなど45分間が短く感じられるほどでした。参加者から「いぶき、いぶき2号の観測に電気を使っていることを知らなかった。」「スーパーコンピュータを使って100年先の温暖化予測する計算が、およそ20日でできることがすごい。」「空気を入れるチタン容器が予想より軽かった。」など、これまで身近でないことが少し身近に感じられるようになったと感想をいただきました。

写真9 地上観測機器に関する研究者の説明を熱心に聞く参加者。この後クイズが出題されました

地球環境研究センターでは、今回も展示を見て、体験して、研究者の説明を聞いて、子どもから大人からまで楽しく学べるような夏の大公開の企画を準備いたしました。当日はたくさんの方にお越しいただきました。暑いなかご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

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