2019年5月号 [Vol.30 No.2] 通巻第341号 201905_341006
最近の研究成果 温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)から得られた水蒸気のバイアス補正法の評価
主要な温室効果ガスである二酸化炭素とメタンの全球濃度分布を明らかにするために、2009年に温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)が打ち上げられ、現在も継続して観測運用中である。「いぶき」に搭載された温室効果ガス観測センサの短波長赤外領域スペクトルから[1]、二酸化炭素やメタンのカラム平均濃度、更に自然起源の温室効果ガスである水蒸気も同時推定[2]されている。これまで、二酸化炭素やメタンについて、地上設置フーリエ変換分光計観測網(TCCON[3])のデータを用いて「いぶき」データの全球で一様なバイアス(全球バイアス)と同時に推定するパラメータに依存するバイアスを明らかにし、TCCONデータを真値として重回帰分析(あるデータを他の2つ以上のデータによって説明するための関係式を作る分析法)を用いてこれらのバイアスを経験的に補正する手法を開発した[4]。本研究では、TCCONデータを用いて、「いぶき」による水蒸気データのバイアスを補正する方法を評価した。水蒸気は、高度や時空間の違いによる濃度変動が非常に大きく衛星観測データのバラツキも大きくなり、衛星観測データのバイアスを評価することは容易ではない。先ず、「いぶき」とTCCONによって観測された空気塊が、同じ時空間に存在すると仮定する(マッチング)範囲の大小が「いぶき」水蒸気データのバラツキにどう影響があるかを調べた。その結果マッチング範囲を極力小さくした方が、バラツキが小さいことが分かった。しかし、マッチング範囲が小さすぎると「いぶき」データの補正に用いるデータセット数が足りなくなるため、TCCON観測地点を中心に緯度・経度0.5度以内の「いぶき」データをマッチングすることにした。つぎに、TCCONと「いぶき」のそれぞれの観測地点の高度差による影響を補正する高度補正、上記の経験的補正法、及び両補正を組み合わせた3つの補正方法について比較し、その結果、本研究の解析条件では、高度補正のみを用いる方法が最も有効であることが分かった。高度補正前後の結果を図に示す。「いぶき」とTCCONデータの一致度とそれを示す相関係数(R)が改善していることが分かる。本研究の結果を基に、「いぶき」の水蒸気データの利用が進むことを期待したい。
脚注
- 吉田幸生「長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介— [4] 避けては通れない雲とエアロゾル:宇宙から温室効果ガス濃度を推定するTANSO-FTS」地球環境研究センターニュース2012年12月号
- Eric Dupuy・森野勇・吉田幸生・内野修・松永恒雄・横田達也ほか「『いぶき』は水蒸気も測っています!—温室効果ガス観測技術衛星による水蒸気の観測と地上観測との比較—」地球環境研究センターニュース2016年8月号
- 森野勇「長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介— [9] 空を見上げて温室効果ガス濃度を測る組織—TCCON—」地球環境研究センターニュース2015年3月号
- 井上誠・森野勇・内野修・中津留高広・吉田幸生・横田達也・町田敏暢ほか「衛星『いぶき』(GOSAT)から得られた温室効果ガス濃度の高精度化に向けたバイアス補正手法の開発」地球環境研究センターニュース2016年10月号
本研究の論文情報
- Evaluation of Bias Correction Methods for GOSAT SWIR XH2O Using TCCON data
- 著者: Tran T. N. T., Morino I., Ohyama H., Uchino O., Sussmann R., Warneke T., Petri C., Kivi R., Hase F., Pollard D. F., Deutscher N. M., Velazco V. A., Iraci L. T., Podolske J. R., Dubey M. K.
- 掲載誌: Remote Sens., (2019) 11(3), 290
*英語版も掲載しています。
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