2018年7月号 [Vol.29 No.4] 通巻第331号 201807_331004

わが国の2016年度(平成28年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量13億700万トン、三年連続の排出量減少〜

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 林敦子
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 連携研究グループ長 野尻幸宏

【連載】わが国の温室効果ガス排出量

1. はじめに

わが国は国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change 以下、UNFCCC)のもと、国際的な責務として日本国の温室効果ガスの排出吸収量の算定を行っています。国立環境研究所地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan 以下、GIO)では、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガス排出吸収量を算定し、それをとりまとめた目録(インベントリ)を作成しています。GIOと環境省は2018年4月24日に、2016年度の排出量を公表しました。その概要を紹介します。

2. 温室効果ガスの総排出量

1990年度から2016年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を表1に示しました。2016年度の温室効果ガス総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数[1]を乗じ、CO2換算したものを合算した量)は13億700万トン(CO2換算、以下省略)となりました。これは前年度排出量と比べて1.2%減少、2013年度排出量[2]と比べて7.3%の減少となりました。その要因は、省エネへの取り組み等によるエネルギー消費量の減少とともに、再生可能エネルギーの導入拡大や原子力発電の一部の再稼働等による電力のCO2排出原単位の改善に伴い、エネルギー起源CO2の排出量が減少したことなどが挙げられます。また、2005年度排出量[2]と比べて5.2%の減少でした。その要因としては、オゾン層破壊物質からの代替に伴い冷媒分野からのハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の排出量が増加した一方で、省エネ等によりエネルギー起源のCO2排出量が減少したことなどが挙げられます。

表1各温室効果ガス排出量の推移(1990〜2016年度、単位:百万トン)

※土地利用、土地利用変化及び林業(Land Use, Land-Use Change and Forestry: LULUCF)分野の排出・吸収量は除く。
※エネルギー転換部門には電気熱配分統計誤差を含む。

3. 2016年度の各温室効果ガスの排出量

次にガスの種類別に前年度、2013年度及び2005年度と比較した排出量増減の詳細を紹介します。

(1) 二酸化炭素(CO2

2016年度のCO2排出量は12億600万トンであり、前年度と比べて1.6%(1,930万トン)の減少、2013年度と比べて8.3%(1億980万トン)の減少、2005年度と比べて6.5%(8,350万トン)の減少となりました。

部門別(電気・熱配分後)[3]に見ていきます。

産業部門からの排出量[4]は、前年度比で3.5%の減少、2013年度比で10.5%の減少、2005年度比で10.4%の減少となりました(図1)。前年度及び2013年度からの減少は、産業部門下の「製造業」(主に鉄鋼業)における排出量が減少(前年度比3.6%減、1,440万トン減少、2013年度比11.2%減、4,930万トン減少)したことなどによります。これは製造業における省エネへの取り組み等によるエネルギー消費量(主に燃料消費量)の減少及び電力のCO2排出原単位が向上したことなどによります。2005年度からの排出量の減少は、省エネ及び生産活動の減少等にともない、製造業(主に化学工業)において排出量が減少したためです。

図1二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移(1990〜2016年度)

運輸部門からの排出量は前年度比で0.9%の減少、2013年度比で3.8%の減少、2005年度比で11.9%の減少となりました。前年度、2013年度及び2005年度からの減少は、いずれも、貨物輸送では主に「貨物自動車/トラック」において、旅客輸送では主に「マイカー」において排出量が減少したことによります。それぞれの減少について見ていくと、貨物輸送について2013年度及び2005年度と比べて、主に輸送量の減少が排出量の減少に寄与していると考えられます。前年度と比べると、輸送量は増加したのですが、エネルギー消費原単位(ここでは輸送量当たりのエネルギー消費量)の改善がより大きく影響して排出量は減少となりました。旅客輸送について前年度、2013年度及び2005年度と比較してみると、自動車の燃費改善が排出量の減少に効いていることがわかりました。

業務その他部門[5]からの排出量は前年度比で1.7%の減少、2013年度比で10.4%の減少、2005年度比で1.2%の減少となりました。前年度及び2013年度からの減少は、省エネへの取り組み等により、エネルギー消費量が減少したことによります。2005年度からの減少は、火力発電の増加により電力の排出原単位が悪化した一方で、省エネへの取り組み等により、エネルギー消費量が減少したことによります。

家庭部門からの排出量は前年度比で0.6%の増加、2013年度比で8.3%の減少、2005年度比で8.2%の増加となりました。前年度からの微増は、電力及び灯油等の消費量の増加によります。2013年度からの減少は、電力消費量の減少と電力の排出原単位の回復により電力消費に伴う排出量が減少したことなどによります。2005年度からの排出量の増加は、灯油及び電力の消費量が減少したものの、業務その他部門でも触れましたように電力の排出原単位の悪化により電力消費に伴う排出量が増加したことなどによります。これら電力や灯油等のエネルギー消費量の増減には省エネ努力、冬季夏季の気温、世帯数の増減等が影響しています。

非エネルギー起源CO2排出量[6]は、前年度比で0.4%の増加、2013年度比で2.9%の減少、2005年度比で14.4%の減少となりました。前年度からの増加は、廃棄物分野における排出量が増加したことなどによります。2013年度及び2005年度からの排出量の減少は、セメント生産量の減少等により工業プロセス及び製品の使用分野からの排出量が減少したことなどによります。

(2) メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3

2016年度のCH4排出量は3,080万トンで、前年度比で1.1%の減少、2013年度比で5.3%の減少、2005年度比で13.4%の減少となりました。2005年度からの減少は、廃棄物埋立量が減少し廃棄物分野からの排出量が減少(2005年度比38.0%減少)したこと、家畜頭数の減少等により農業分野において排出量が減少(2005年度比4.7%減少)したことなどによるものです。

2016年度のN2O排出量は2,070万トンで、前年度比で1.4%の減少、2013年度比で4.8%の減少、2005年度比で17.5%の減少となりました。2005年度からの減少は、化学工業製品の生産量の減少等により工業プロセス及び製品の使用分野における排出量が減り(2005年度比57.9%減)、同時に、ガソリン自動車に対する大気汚染物質の排出ガス規制に伴い燃料の燃焼・漏出分野において排出量が減少(2005年度比17.7%減少)したことによります。

2016年のHFCs、PFCs、SF6、NF3のそれぞれの排出量は4,250万トン、340万トン、230万トン、60万トンとなりました。前年比でそれぞれ8.3%の増加、2.0%の増加、4.7%の増加、11.1%の増加、2013年比でそれぞれ32.5%の増加、2.9%の増加、7.2%の増加、60.8%の減少、2005年比でそれぞれ233%の増加、60.9%の減少、55.4%の減少、56.9%の減少となりました。2005年からのHFCsの増加は、オゾン層破壊物質であるハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)からHFCsへの代替に伴い冷媒からの排出量が増加したことによるものです。また、2005年からのPFCs、SF6及びNF3の減少は、それぞれ半導体製造時のPFC使用量の減少等による排出量の減少、半導体・液晶製造分野やSF6製造時の漏出分野における排出量の減少、燃焼分解設備等を活用した排出削減取り組み等によるNF3製造時の漏出分野における排出量の減少によります。

4. 吸収源活動の排出・吸収量

わが国は京都議定書に基づく吸収源活動の排出・吸収量についても算定を行い、インベントリの補足情報としてUNFCCC事務局に提出しています。第二約束期間(2013〜2020年度)においては、京都議定書で規定される以下の吸収源活動、「新規植林・再植林」「森林減少」「森林経営」「農地管理」「牧草地管理」及び「植生回復」について報告しており、「新規植林・再植林」「森林減少」及び「森林経営」における吸収源活動を「森林吸収源対策」と、「植生回復」における吸収源活動を「都市緑化活動」と呼称しています。

2016年度の吸収源活動の排出・吸収量は5,540万トンの吸収(森林吸収源対策による吸収量4,750万トン、農地管理・牧草地管理・都市緑化活動による吸収量780万トン)となっており、2005年度総排出量の4.0%(うち森林吸収源対策による吸収量は3.4%)、2013年度総排出量の3.9%(うち森林吸収源対策による吸収量は3.4%)に相当します。

5. おわりに

2016年に発効したパリ協定は「自国が決定する貢献」(Nationally Determined Contribution: NDC)を、途上国を含むすべての国が国連に提出し、5年ごとにそれをブラッシュアップしていく仕組みです。産業革命以降の平均気温上昇を2°C未満に抑えるという目標を達成するため、各国の排出量や削減策の評価などの透明性のさらなる向上が求められており、温室効果ガスインベントリ報告書の重要性が増しています。今年12月の採択を目指して、細則に関する交渉が目下進められているところです。

わが国は、温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比26%(2005年度比25.4%)削減する目標を国連に提出しました(うち2013年度総排出量の2.6%に相当する約3,700万トンを吸収源活動による吸収量を用いて削減)。この度の算定によると、2016年度の温室効果ガス排出量は三年連続の減少となり、2013年度比では7.3%、2005年度比では5.2%下回りました(図2)(本結果には吸収源活動による削減を含んでいない)。排出量全体としては、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入拡大、原子力発電の再稼働などが影響していると冒頭で述べましたが、個別部門の排出量は、そのほか、さまざまな社会的・経済的要因、気象的要因などによって増減しています。目標達成のためにはこれらのさまざまな要因の与える影響の大きさ及び動向を一緒にとらえていくことが重要となります。

本稿に使用した2016年度の温室効果ガス排出吸収量に関する情報をGIOのウェブサイト〈http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html〉にて公開しております。GIOでは、今後もより正確な温室効果ガス排出量の推計を目指していくとともに、今後もウェブサイトや報告書において、より情報を利用しやすくするなどの公開情報の改善を図っていく予定です。

図2わが国の温室効果ガス排出量(2016年度確報値)

参考文献

脚注

  1. 地球温暖化係数(Global Warming Potentials: GWP):温室効果ガスが一定時間内に地球の温暖化をもたらす程度を、二酸化炭素の当該程度に対する比で示した係数。2015年提出インベントリよりIPCC第四次評価報告書(2007)での値を用いる。CO2 = 1、CH4 = 25、N2O = 298、HFC-134a = 1,430、PFC-14 = 7,390、SF6 = 22,800、NF3 = 17,200などである。
  2. わが国はカンクン合意に基づき、温室効果ガス排出量を2020年度に2005年度比3.8%削減、パリ協定に基づき2030年度に2013年度比26%(2005年度比25.4%)削減の目標を掲げており、これらの削減目標の基準としている2013年度及び2005年度を比較対象としている。なお、インベントリの基準年は1990年度である。
  3. 発電および熱発生に伴うエネルギー起源のCO2排出量は、電力・熱消費量に応じて各部門に配分されている。また、廃棄物のうち、エネルギー利用分の排出量についても廃棄物分野で計上している。わが国がUNFCCC事務局に提出している「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」では、2006年IPCCガイドラインに従い、これらの排出量をエネルギー転換部門などに計上している。
  4. 産業部門(工場等。工業プロセスを除く)からの排出量は、製造業(工場)、農林水産業、鉱業および建設業におけるエネルギー消費に伴う排出量を表し、第三次産業における排出量は含んでいない。また、製造業の企業であっても、本社ビル等の部分は業務その他部門(オフィスビル等)に計上されている。特殊自動車(ブルドーザー、トラクターなど)は運輸部門ではなく産業部門に含まれる。
  5. 業務その他部門(オフィスビル等)には、事務所、商業施設等が含まれる。
  6. ここでいう非エネルギー起源CO2排出量は、工業プロセス及び製品の使用分野、廃棄物分野、その他の排出量を足し合わせた値である。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP