2017年12月号 [Vol.28 No.9] 通巻第324号 201712_324006

フィリピンTCCONプロジェクトの紹介 —観測サイト決定から観測の立ち上げまで—

  • 地球環境研究センター 衛星観測研究室 主任研究員 森野勇

*2017年10月5日に開催された第110回低炭素研究プログラム・地球環境研究センター合同セミナー[1]より

温室効果ガス観測技術衛星GOSATデータの検証には、地上に設置されたフーリエ変換分光計(FTS)のネットワークである全量炭素カラム観測ネットワークとCONTRAIL[2]を含む航空機観測のデータを使っています。これらは、2018年度に打ち上げが予定されているGOSAT-2の検証の手法の中心にもなります(TCCONについては、森野勇「長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介— [9] 空を見上げて温室効果ガス濃度を測る組織—TCCON—」地球環境研究センターニュース2015年3月号を参照)。

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図1GOSAT、GOSAT-2の検証に使われるTCCONと航空機観測の概要図(GOSATプロジェクトパンフレットより)

TCCONは現在25サイトになりました。日本でのTCCONのサイトは、つくば、佐賀、陸別の3カ所です。GOSAT-2の検証にはTCCONのデータも使いますが、現在のTCCONのサイトは北半球の先進国に偏っているため、日本にはすでに3カ所も運用されていますので、GOSAT-2プロジェクトではフィリピンに新しいサイトを設置することになりました。

フィリピンでのTCCONプロジェクトの経緯について説明します。

私たちGOSAT関係者が本格的に検討を始めたのは2013年ですが、2012年からすでにフィリピン出身のウーロンゴン大学の研究者と、フィリピンでのTCCONサイトの設置を議論し、GOSAT-2の検証で設置できないかと話題になりました。その後環境省の委託業務により、新しいTCCONサイトをフィリピンで進めることが相応しいということになり、2014年11月と2015年4月にレイテ島、ネグロス島、ルソン島のTCCONサイトの候補となるところをTCCONおよびJPL関係者とチームを組んで訪問しました。候補地の一つが今回設置することになったルソン島北部のBurgosです。Burgosは周辺に人為的な汚染源がないという好条件のうえ、近隣に風力発電所を建設中でした。このサイトの所有者はEDC(Energy Development Cooperation)というフィリピンのクリーンエネルギー電力会社で、社会貢献活動に非常に積極的な会社です。このサイトへの設置は、こういう背景があって実現しました。

GOSAT関連の事業ですから、観測の好条件(良好な晴天率)も備えた立地であるべきです。そこで、GOSATの雲・エアロゾルセンサ(Cloud and Aerosol Imager: CAI)のデータなどを使って0.1度 × 0.1度の範囲の晴天確率の確認もしました。今までTCCONサイトがなかった東南アジアへ設置できること、候補地のなかで晴天確率が一番高いこと、炭素循環の研究にも使用するデータを取得できるなどで、Burgosが最適と考えました。上記のような経緯を踏まえて、TCCONミーティングやGOSAT-2サイエンスチームミーティングで議論し、2015年9月に最終的にBurgosに設置することが決定されました。

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写真1, 2国立環境研究所で開発したTCCON FTSシステムを搭載したコンテナが、コンテナ製造会社を経由して、横浜港に向かいます(2016年10月)

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写真3TCCONコンテナを設置したEDCの風力発電サイト(2016年12月)

サイトの選定と並行して、国立環境研究所で2年にわたりTCCON FTSシステムの立ち上げを進めていました。日本で立ち上げてFTSの試験観測を行った後、2016年10月に撤収し、必要な輸出等の手続きをして、このTCCON FTSシステムは同年11月末に横浜港を出港、12月7日にはマニラ港(フィリピン)に着きました。フィリピンでの手続き後Burgosサイトに装置が到着し、12月21日に設置しました。2017年1月と2月に観測装置を立ち上げ調整し、3月に観測を開始しました。同時にライダーの観測もできるようになっており、すべての観測がリモートコントロールで実施できるようになっています。TCCONミーティングは毎年世界各地で順繰りで開催されており、2017年6月にフランスのパリで行われました。そこで観測状況を報告し、BurgosサイトがTCCONサイトとして認められました。

※観測結果と今後の計画については次の機会に紹介致します。

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写真4BurgosのサイトでTCCON FTSの立ち上げを行っています(2017年1月)

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写真5BurgosのサイトでGOSAT-2エアロゾルライダーの立ち上げを行っています(2017年1月)

略語一覧

  • 温室効果ガス観測技術衛星(Greenhouse gases Observing SATellite: GOSAT)
  • フーリエ変換分光計(Fourier Transform Spectrometer: FTS)
  • 全量炭素カラム観測ネットワーク(Total Carbon Column Observing Network: TCCON)

脚注

  1. 低炭素研究プログラム・地球環境研究センター合同セミナーは、地球温暖化、地球環境にかかわる幅広いテーマを横断した、研究活動の相互理解、知識や視点の共有、議論を行うため、原則として毎月一回開催されている。
  2. CONTRAILは日本航空が運航する旅客機に二酸化炭素濃度連続測定装置と自動大気サンプリング装置を搭載して、上空における温室効果ガスの分布や時間変動を高頻度・広範囲で観測するプロジェクト。

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