2017年12月号 [Vol.28 No.9] 通巻第324号 201712_324008

最近の研究成果 シベリアのカラマツ林で、トップダウン法とボトムアップ法による正味の二酸化炭素交換量が一致 —CO2収支解明の研究指針となることを目指した多手法比較の試み—

  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 特別研究員 髙田久美子

二酸化炭素(CO2)の正味の交換量は、全球スケールから領域スケール(数100〜数1000km)、局地スケール(数10kmまで)まで様々な手法で推定されているが、推定結果に大きなばらつきがある。ばらつきの原因の一つに、各手法が代表する水平スケール[1]が異なることが挙げられる。シベリアのヤクーツク周辺はカラマツ林が一様に広がる平坦な地域で、水平スケールの違いによる差が小さいと期待されることから、本論文ではヤクーツクのカラマツ林の観測サイトを中心とする領域で、3つのボトムアップ法(タワー観測、データ駆動型モデル[2]、複数の陸域プロセスモデル[3])とトップダウン法(複数の大気逆解析モデル[4])によるCO2交換量の推定結果を比較した。その結果、ヤクーツク周辺ではいずれの手法でも年間交換量はCO2吸収を示す結果となった(図1右端、タワー観測で10.9g-C m−2 month−1、陸域プロセスモデルで4.28g-C m−2 month−1、データ駆動モデルで5.62g-C m−2 month−1(観測サイトスケール)または0.863g-C m−2 month−1(広域スケール)、大気逆解析モデルで4.89g-C m−2 month−1)。

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図1ヤクーツクにおける手法別の年間CO2交換量(右端)、冬季(12–2月)/夏季(6–8月)平均のCO2交換量(右から2–3列目)、3–11月の正味のCO2交換量(左から9列目まで)。正の値が大気から陸への吸収、負の値は陸から大気への放出を示す。黒がタワー観測(Obs)、赤が陸域プロセスモデル(GTMIP)、茶が観測スケールのデータ駆動型モデル(SVR(3km))、緑が広域スケールのデータ駆動型モデル(500km × 500kmの平均:SVR)、青が大気逆解析モデル(Inversion)。陸域プロセスモデルと大気逆解析モデルは複数のモデルの最大値/最小値をエラーバーで示した

吸収が最も大きいのは夏季(6–8月)で、トップダウン法(223.6g-C m−2 month−1)のほうがボトムアップ法(88.1〜191.8g-C m−2 month−1)よりも大きく(図1右から3列目)、季節振幅が大きかった。季節変化パターンは4つの手法で概ね一致し(図1左側3月〜11月)、陸域プロセスモデルや大気逆解析モデルのばらつきの範囲内だった。吸収の大きい夏季の年々変動を見ると、大気逆解析モデルと観測サイトスケールのデータ駆動型モデルはタワー観測と同程度の変動幅を示した(図2)。タワー観測では2008年以降、森林土壌の過剰な湿潤状態によってカラマツが衰弱し、CO2吸収が減少したことが報告されている[5]が、大気逆解析モデルでも同様な傾向が見られた。一方、陸域プロセスモデルと広域スケールのデータ駆動型モデルは変動幅がタワー観測よりも小さかった。陸域プロセスモデルは各モデルの年々変動の様相がばらばらで、モデル平均を取ることによって変動が打ち消し合っていた。今後、CO2交換量の各成分(総一次生産量や呼吸量など)に分けた解析や、観測サイトスケールと広域スケールでCO2交換量が推定できるデータ駆動型モデルを用いた空間スケールの違いに関する解析を進めることで、CO2収支のメカニズム解明や高精度での推定が可能になると期待される。

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図2ヤクーツクにおける夏季(7月)のCO2交換量の年々変動。大気から陸面への吸収を正とする。a) 陸域プロセスモデルの平均値(赤実線)とタワー観測(灰色実線)。点線は各陸域プロセスモデルの値。b) 大気逆解析モデルの平均値(青実線)とタワー観測(灰色実線)。点線は各大気逆解析モデルの値。c) データ駆動型モデル(赤茶実線が観測サイトスケール、緑実線/点線が広域スケールの計算結果を緯度経度0.25度、5度、10度で平均した結果)とタワー観測(灰色実線)

脚注

  1. 水平スケール:タワー観測とそのデータを用いた陸域プロセスモデルは通常は数100m(ヤクーツクの観測サイトでは1〜数km程度)。データ駆動型モデルは2種類のスケールで算定を行っていて、観測サイトスケールでは約3km、解像度25kmの広域スケールでは数10km以上(解像度以上の任意のスケールでの評価が可能)。大気逆解析モデルは通常は1000〜数1000km(本研究ではボトムアップと比較するために500km)。
  2. データ駆動型モデル:タワー観測によるCO2交換量をもとに、衛星データや気象データを用いて、統計的手法によりCO2交換量を推定するモデル。
  3. 陸域プロセスモデル:生態系のプロセス(光合成、呼吸、分解など)を組み合わせてモデルを構築し、CO2交換量を推定するモデル。
  4. 大気逆解析モデル:大気輸送モデルと大気中CO2濃度観測データを用いた逆解析により、大気と地表面のCO2交換量を推定する手法。
  5. 参考文献:Ohta, T., A. Kotani, Y. Iijima, T. C. Maximov, S. Ito, M. Hanamura, A. V. Kononov, and A. P. Maximov (2014), Effects of waterlogging on water and carbon dioxide fluxes and environmental variables in a Siberian larch forest, 1998–2011, Agric. Forest Meteorol., 188, 64-75, doi:10.1016/j.agrformet.2013.12.012.

本研究の論文情報

Reconciliation of top-down and bottom-up CO2 fluxes in Siberia larch forest
著者: Takata K., Patra P. K., Kotani A., Mori J., Belikov D., Ichii K., Saeki T., Ohta T., Saito K., Ueyama M., Ito A., Maksyutov S., Miyazaki S., Burke E. J., Ganshin A., Iijima Y., Ise T., Machiya H., Maximov T. C., Niwa Y., O'ishi R., Park H., Sasai T., Sato H., Tei S., Zhuravlev R., Machida T., Sugimoto A., Aoki S.
掲載誌: Environ. Res. Lett., doi.org/10.1088/1748-9326/aa926d.

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