2017年10月号 [Vol.28 No.7] 通巻第322号 201710_322002

アジアからの排出の網羅に向けて 「第15回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ」(WGIA15)の報告

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)高度技能専門員 伊藤洋

1. はじめに

2017年7月11日から13日の3日間にわたり、ミャンマー・ネピドーにおいて第15回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA15)を開催しました。WGIA15には、メンバー15か国(ブルネイ、カンボジア、中国、インド、インドネシア、韓国、ラオス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムおよび日本)のうち、シンガポールを除く14か国から温室効果ガス(GHG)インベントリに関連する政策決定者、編纂者および研究者の総勢120名が参加し、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局、気候変動に関する政府間パネル・インベントリタスクフォース・技術支援ユニット(IPCC TFI-TSU)など関係する国際機関の参加も得て、活発な議論が行われました。

自国のGHG排出吸収量や気候変動対策の情報をタイムリーに把握・報告することは、適切な削減策構築などに重要であるため、2011年、南アフリカ・ダーバンで開催されたUNFCCCの第17回締約国会議(COP17)で、途上国が隔年更新報告書(BUR)を2年ごとにCOPに提出することが義務づけられました。また、2015年末のCOP21で採択されたパリ協定において、GHG排出量の透明性の向上がすべての締約国に求められています。

環境省と国立環境研究所は、気候変動政策に関する日本の途上国支援活動の一つとして、2003年度から毎年、アジア地域諸国のGHGインベントリの作成能力向上に資することを目的としたWGIAを開催しています。2008年度のWGIA6からは「測定・報告・検証(MRV)可能な温室効果ガス排出削減活動」に関する途上国の能力向上支援も開催意義に含まれています。温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)は2003年度の初回会合から事務局として、COP決定等の国際的な課題、参加者のニーズを踏まえた議題と発表者の選定、参加者招聘などWGIAの企画および運営にあたっています。

2. WGIA15の概要と結果

プログラム1日目は、2か国でセクターごとにペアを組み、それぞれのインベントリ担当者同士が、互いのインベントリを詳細に学習して意見交換(相互学習)を行いました。2日目、3日目午前は、国別報告書(NC)やBURの報告状況などを扱う全体会合、3日目午後は、最新の知見を紹介するポスターセッション、最後に議論の結果をとりまとめる全体会合を行いました。

(1) 相互学習

まず、GIOが中心となり各分野の組み合わせ(2か国のペアリング)を行います。それに基づき、参加国のインベントリ担当者同士は、事前に2か月余りの時間をかけ、互いのインベントリや国内体制の整備について意見交換を行ったうえでWGIAでの議論に臨みます。

今次会合では、エネルギー分野(モンゴル-ベトナム)、廃棄物分野(中国-フィリピン)、LULUCF(土地利用、土地利用変化および林業)分野(ラオス-ミャンマー)で実施しました。相手国の統計システムなどの基礎的な背景情報に加え、算定項目の細分化や国独自の排出係数の構築といったさらなる精緻化に関する課題について学習が行われました。

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写真1中国とフィリピンによる廃棄物分野の相互学習の様子

(2) 全体会合

2日目、冒頭、ミャンマー国天然資源・環境保全省大臣と日本国環境省からの挨拶が行われました。2016年3月のミャンマーの新政権発足後、天然資源・環境保全省として初めての国際的な会合であり、マスメディアも多く訪れ、GIOメンバーもミャンマーのテレビ局の取材を受けました。ミャンマー国の気候変動対策にかける意気込みが感じられました。

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写真2全体会合でマレーシアの報告を熱心に聞く参加者

その後、GIOからWGIA概要、日本国環境省より、パリ協定を踏まえた日本の気候変動政策が説明され、ホスト国であるミャンマーより、持続可能な開発目標のための行動計画の説明が行われました。炭素税収を財源とする補助金の民間への研究開発投資の有効性、地球温暖化対策と他の国家計画の連携の大切さが共有されました。

続いて、ブルネイ、フィリピン、カンボジア、中国から、NCや第1回BURの紹介が行われ、最新の基礎情報や排出量、緩和策が報告されました。非附属書I国の報告規定では、インベントリの作成にあたり、1996年改訂IPCCガイドラインを使用することになっていますが、インベントリの精度向上のためには、最新の知見や2006年IPCCガイドライン(2006GLs)を適用することが有効であると確認されました。

次にインドネシア、マレーシア、タイから、国際的協議・分析(ICA)の経験、UNFCCC事務局から透明性強化の支援やパリ協定における透明性枠組の国際交渉の現況が紹介されました。

続いて、GIOからWGIA参加国のFガス(HFCs、PFCs、SF6等)排出量の報告状況が紹介され、日本国環境省からキガリ改正[注]及び日本のフロンガス全般に対する政策が紹介されました。IPCC/TFIからはFガス排出量算定方法論が説明され、インド、中国、韓国からは各国のFガスの排出状況が報告されました。冷凍空調機器からのFガス排出量把握の重要性が確認され、2006GLsを適用することで排出量算定の正確性が向上することが共有されました。

3日目、国立環境研究所より、アジア太平洋統合評価モデル(AIM)によるフロンガスの削減策、将来予測が、オーストラリアよりインベントリ作成等の国内体制が紹介されました。続いてIPCC TFI-TSUよりIPCCガイドライン改良等の最近の動向等、UNEPよりインベントリ、将来予測、緩和行動を実施するうえで陥りがちな失敗例の紹介が行われました。さらにFガスの算定における実排出量・潜在排出量等の違いが議論され、引き続きインベントリの精度向上に最新のガイドラインの紹介等の技術支援の必要性が確認されました。

(3) ポスターセッション

最新の研究内容をWGIA内で共有するため、ポスターセッションを実施しました。ミャンマー国内で実施されている途上国における森林減少・劣化からの排出の削減(REDD)プロジェクトの発表などが行われ、参加者からは、「参考になった。今後も実施してほしい」、「テーマの設定に工夫が欲しい」といった意見をいただきました。

(4) まとめ

今次会合では、相互学習において分野ごとに、統計システムなどの基礎的な背景情報に加え、さらなる精緻化に関する課題について深く学習が行われました。

また、全体会合を通し、すでに多くの国がBURもしくはNCの提出を行っており、次の提出ではより良いインベントリを作成しようと2006GLsの適用や途上国の報告義務とされていないFガスの排出量の報告を努力している様子が伺え、その重要性が共有されました。

3. 次回会合について

来年度の第16回会合(WGIA16)の開催地は調整中ですが、引き続き相互学習等を進めることや、BURとそれに含まれるインベントリの改善のための議論を行うという方向性等が確認されました。

4. おわりに

会合の最後に、WGIAが気候変動対策の土台であるインベントリの作成・精緻化に大いに役立っていると謝辞が示されました。特に相互学習は十分な時間と手間をかけているからこそ、自国や他国の状況を理解する良いきっかけになり、インベントリの改善につながっていると評価され、引き続きの開催を求められました。より透明で正確なインベントリを作成する能力構築を支援するため、今後もWGIAに取り組んでまいります。

第1回からの報告はhttp://www-gio.nies.go.jp/wgia/wgiaindex-j.htmlに掲載しています。WGIA15の詳細も、同Webサイトで公開される予定です。また、今会合の結果について報道発表を行いました。http://www.nies.go.jp/whatsnew/20170720/20170720.htmlも参照ください。

脚注

  • キガリ改正:地球温暖化対策の観点から、2016年10月にルワンダ・キガリで開催されたMOP28(第28回締約国会合)で採択されたモントリオール議定書に新たに代替フロンを規制対象とする改正

略語一覧

  • アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(Workshop on Greenhouse Gas Inventories in Asia: WGIA)
  • 温室効果ガス(Greenhouse gas: GHG)
  • 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)
  • 気候変動に関する政府間パネル・インベントリタスクフォース・技術支援ユニット(Technical Support Unit of the IPCC Task Force on National Greenhouse Gas Inventories: IPCC TFI-TSU)
  • 第17回締約国会議(Conference of the Parties on its seventeenth session: COP17)
  • 隔年更新報告書(Biennial Update Report: BUR)
  • 測定・報告・検証(Measurement, Reporting and Verification: MRV)
  • 温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan: GIO)
  • 国別報告書(National Communication: NC)
  • 土地利用、土地利用変化および林業(Land Use, Land-Use Change and Forestry: LULUCF)
  • 国際協議・分析(International Consultation and Analysis: ICA)
  • アジア太平洋統合評価モデル(Asia-Pacific Integrated Model: AIM)
  • 国連環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP)
  • 途上国における森林減少・劣化からの排出の削減(Reducing Emissions from Deforestation and forest Degradation in developing countries: REDD)

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