2017年6月号 [Vol.28 No.3] 通巻第318号 201706_318002
わが国の2015年度(平成27年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量13億2,500万トン、二年連続の排出量減少〜
1. はじめに
わが国は国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change 以下、UNFCCC)のもと、国際的な責務として日本国の温室効果ガスの排出・吸収量の算定を行っています。国立環境研究所地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan 以下、GIO)では、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガス排出・吸収量を算定し、それをとりまとめた目録(インベントリ)を作成しています。GIOと環境省は2017年4月13日に、2015年度の排出量を「2015年度(平成27年度)わが国の温室効果ガス排出量」として公表しました。その概要を簡単に紹介します。
2. 温室効果ガスの総排出量
1990年度から2015年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を表に示しました。2015年度の温室効果ガス総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数[1]を乗じ、CO2換算したものを合算した量)は13億2,500万トン(CO2換算、以下省略)となりました。これは前年度排出量と比べて2.9%の減少、2013年度排出量[2]と比べて6.0%の減少となり、二年連続の減少でした。その要因は、電力消費量の減少や電力の排出原単位の改善に伴い電力由来のCO2排出量が減少し、エネルギー起源CO2の排出量が減少したことなどが挙げられます。また、2005年度排出量[2]と比べて5.3%の減少でした。その要因としては、オゾン層破壊物質からの代替に伴い冷媒分野からのハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の排出量が増加した一方、産業部門や運輸部門におけるエネルギー起源のCO2排出量が減少したことなどが挙げられます。
3. 2015年度の各温室効果ガスの排出量
次にガスの種類別に前年度、2013年度及び2005年度と比較した排出量増減の詳細を紹介します。
(1) 二酸化炭素(CO2)
2015年度のCO2排出量は12億2,700万トンであり、前年度と比べて3.3%(4,130万トン)の減少、2013年度と比べて6.7%(8,850万トン)の減少、2005年度と比べて6.4%(8,340万トン)の減少となりました。
部門別(電気・熱配分後)[3]に見ていきます。
産業部門からの排出量[4]は、前年度比で3.1%の減少、2013年度比で4.8%の減少、2005年度比で10.0%の減少となりました(図1)。前年度からの減少は、製造業(主に鉄鋼・非鉄・金属製品製造業)における排出量が減少(前年度比3.9%減少、780万トン減少)したこと等によります。2005年度からの排出量の減少は、製造業(主に化学工業)において排出量が減少したためです。
運輸部門からの排出量は前年度比で1.7%の減少、2013年度比で5.0%の減少、2005年度比で11.0%の減少となりました。前年度からの減少は、貨物輸送(貨物自動車/トラック等)と旅客輸送(乗用車等)において排出量が減少したことによります。2005年度からの排出量の減少は、旅客輸送における自動車の燃費改善と貨物輸送における輸送量の減少等によります。
業務その他部門[5]からの排出量は前年度比で3.1%の減少、2013年度比で4.6%の減少でしたが、2005年度比で11.1%の増加となりました。前年度からの減少は、電力消費量が減少したことと電力の排出原単位の回復により電力消費に伴う排出量が減少したこと等によります。2005年度からの排出量の増加は、火力発電の増加により電力の排出原単位が悪化したことや、事務所や商業施設などの延床面積が増加したためです。
家庭部門からの排出量は前年度比で5.1%の減少、2013年度比で10.9%の減少、2005年度比で0.2%の減少となりました。前年度からの減少は、電力消費量が減少したことと電力の排出原単位の回復により電力消費に伴う排出量が減少したこと等によります。2005年度からの排出量の減少は、エネルギー消費量が減少したためです。
非エネルギー起源CO2排出量[6]は、前年度比で1.1%の減少、2013年度比で3.0%の減少、2005年度比で14.5%の減少となりました。2005年度からの排出量の減少は、セメント生産量の減少等により工業プロセス及び製品の使用分野等からの排出量が減少したためです。
(2) メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3)
2015年度のCH4排出量は3,130万トンで、前年度比で2.4%の減少、2013年度比で4.2%の減少、2005年度比で11.3%の減少となりました。2005年度からの減少は、廃棄物埋立量が減少し廃棄物分野からの排出量が減少(2005年度比35.4%減少)したこと、家畜頭数の減少等により農業分野において排出量が減少(2005年度比4.3%減少)したこと等によるものです。
2015年度のN2O排出量は2,080万トンで、前年度比で0.6%の減少、2013年度比で2.7%の減少、2005年度比で16.1%の減少となりました。2005年度からの減少は、化学工業製品の生産量の減少等により工業プロセス及び製品の使用分野における排出量が減少し(2005年度比47.9%減少)、同時に、ガソリン自動車に対する大気汚染物質の排出ガス規制に伴い燃料の燃焼・漏出分野において排出量が減少(2005年度比15.9%減少)したことによります。
2015年のHFCs、PFCs、SF6、NF3のそれぞれの排出量は3,920万トン、330万トン、210万トン、60万トンとなりました。前年比でそれぞれ9.6%の増加、1.6%の減少、2.7%の増加、49.1%の減少、2013年比でそれぞれ22.1%の増加、0.9%の増加、1.0%の増加、64.7%の減少、2005年比でそれぞれ207%の増加、61.6%の減少、58.0%の減少、61.2%の減少となりました。2005年からのHFCsの増加は、オゾン層破壊物質であるハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)からHFCsへの代替に伴い冷媒からの排出量が増加したことによるものです。また、2005年からのPFCs、SF6及びNF3の減少は、それぞれ半導体製造時のPFC使用量の減少等による排出量の減少、SF6製造時の漏出分野や半導体・液晶製造分野における排出量の減少等、燃焼分解設備等を活用して排出削減に取り組む等によるNF3製造時の漏出分野における排出量の減少によります。
4. 吸収源活動の排出・吸収量
わが国は京都議定書に基づく吸収源活動の排出・吸収量についても算定を行い、インベントリの補足情報としてUNFCCC事務局に提出しています。第二約束期間(2013〜2020年度)においては、京都議定書で規定されるすべての吸収源活動(「新規植林」「再植林」「森林減少」「森林経営」「農地管理」「牧草地管理」及び「植生回復」)について報告しており、「新規植林」「再植林」「森林減少」及び「森林経営」における吸収源活動を「森林吸収源対策」と、「植生回復」における吸収源活動を「都市緑化活動」と呼称しています。
2015年度の吸収源活動の排出・吸収量は5,880万トンの吸収(森林吸収源対策による吸収量5,010万トン、農地管理・牧草地管理・都市緑化活動による吸収量860万トン)となっており、2005年度総排出量の4.2%に相当します(うち森林吸収源対策による吸収量は3.6%に相当)。
5. おわりに
2015年末パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では、2020年以降の地球温暖化防止の国際枠組みである「パリ協定」が採択され、わずか11か月で発効しました。パリ協定は「自国が決定する貢献」(Nationally Determined Contribution: NDC)を、途上国を含むすべての国が国連に提出し、5年ごとにそれをブラッシュアップしていく仕組みです。産業革命以降の平均気温上昇を2°C未満に抑えるという目標を達成するため、各国の排出量や削減策の評価などの透明性のさらなる向上が求められており、温室効果ガスインベントリ報告書の重要性が増しています。
わが国は、温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比26%(2005年度比25.4%)削減する目標を国連に提出しました。この度の算定によると、2015年度の温室効果ガス排出量は二年連続の減少となり、前年(2014年)度比では2.9%、2005年度比では5.3%下回りました(図2)。これは、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入拡大、火力発電内の燃料転換・高効率化等の効果も見られますが、暖冬冷夏に伴い空調用途のエネルギー消費が抑えられるなど気象の要因も含まれていると考えられます。そのほか、排出量はさまざまな社会的・経済的要因によって増減します。今後もより正確な温室効果ガス排出量の推計を目指し、算定方法は継続的に改善されることとなっています。
本稿に使用した2015年度の温室効果ガス排出吸収量に関する情報をGIOのウェブサイト〈http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html〉にて公開しております。GIOでは、今後もウェブサイトや報告書において、より情報を利用しやすくするなどの公開情報の改善を図っていく予定です。
参考文献
- 日本国温室効果ガスインベントリ報告書(2017年提出版)
- GIO「日本の温室効果ガス排出量データ(1990〜2015年度確報値)」〈http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html〉
- 国立環境研究所「2015年度(平成27年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について」〈http://www.nies.go.jp/whatsnew/20170413/20170413.html〉
脚注
- 地球温暖化係数(Global Warming Potentials: GWP):温室効果ガスが一定時間内に地球の温暖化をもたらす程度を、二酸化炭素の当該程度に対する比で示した係数。2015年提出インベントリよりIPCC第四次評価報告書(2007)での値を用いる。CO2 = 1、CH4 = 25、N2O = 298、HFC-134a = 1,430、PFC-14 = 7,390、SF6 = 22,800、NF3=17,200などである。
- わが国はカンクン合意に基づき、温室効果ガス排出量を2020年度に2005年度比3.8%削減、パリ協定に基づき2030年度に2013年度比26%(2005年度比25.4%)削減の目標を掲げており、これらの削減目標の基準としている2013年度及び2005年度を比較対象としている。なお、インベントリの基準年は1990年度である。
- 発電および熱発生に伴うエネルギー起源のCO2排出量は、電力・熱消費量に応じて各最終消費部門に配分されている。また、廃棄物のうち、エネルギー利用分の排出量についても廃棄物分野で計上している。わが国がUNFCCC事務局に提出している「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」では、2006年IPCCガイドラインに従い、これらの排出量をエネルギー転換部門などに計上している。
- 産業部門(工場等。工業プロセスを除く)からの排出量は、製造業(工場)、農林水産業、鉱業および建設業におけるエネルギー消費に伴う排出量を表し、第三次産業における排出量は含んでいない。また、製造業の企業であっても、本社ビル等の部分は業務その他部門(オフィスビル等)に計上されている。特殊自動車(ブルドーザー、トラクターなど)は運輸部門ではなく産業部門に含まれる。
- 業務その他部門(オフィスビル等)には、事務所、商業施設等が含まれる。
- ここでいう非エネルギー起源CO2排出量は、工業プロセス及び製品の使用分野、廃棄物分野、その他の排出量を合わせた値である。