2017年6月号 [Vol.28 No.3] 通巻第318号 201706_318004

最近の研究成果 インバースモデル解析による全球大気中二酸化炭素の収支推定:観測値の効果

  • 地球環境研究センター 地球環境データ統合解析推進室 主任研究員 白井知子

国立環境研究所で開発されたオイラー型全球大気輸送モデル(NIES-TM)とラグランジュ型粒子拡散モデル(FLEXPART)を組み合わせた結合モデル[1](Global Eulerian-Lagrangian Coupled Atmospheric model: GELCA)を用いたインバースモデル解析[2]により、2002年から2011年までの10年間の全球CO2収支を推定した。全球の計算にはオイラー型モデル、観測点の周辺ではラグランジュ型モデルを用いて高精度の計算を行うことで、観測点近傍の排出源・吸収源からの影響をより精密にフラックスの推定に適用することが可能となった。

インバースモデル解析の精度は、用いる観測情報の質・量・分布に大きく影響を受ける。本研究では、世界各機関から集めた、連続観測値や航空機観測値を含む大気中CO2観測値[3]を基本データセットとし、いくつかの異なるサブセットを用いた場合とのフラックス推定結果の比較を行った(図1)。注目すべき結果として、太平洋上空の航空機観測値を使用した場合には、熱帯アジア地域[4]のフラックス推定の不確定性が大幅に減少し、その季節変化は地上フラックス観測から推定されたもの(図示していない)に近づくことが明らかになった(図2)。このことは、地上観測の少ない熱帯域からのフラックス量の見積もりにおける航空機観測値の有用性を示している。

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図1a) 基本データセットを用いて推定した2002年〜2011年平均の全球の陸域由来CO2フラックス分布[5]。b) 航空機観測値を使わず a) と同様に推定した分布

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図2熱帯アジア域の2002年〜2011年平均月毎CO2フラックス推定値[5]。基本データセットを用いた事後推定値(赤)、航空機観測値を使わなかった場合の事後推定値(緑)、陸域生態系モデルによる事前推定値(灰)。エラーバーは年によるばらつき(標準偏差)を表す

脚注

  1. 一般に、空間に固定した座標系を用いるオイラー型モデルは広域の輸送計算に適しており、物質粒子に固定した座標系を用いるラグランジュ型モデルは局所的な拡散計算に適している。結合モデルは全球をオイラー型モデルで、観測地点の近傍のみラグランジュ型モデルで計算するもので、両方のメリットを兼ね備えている。
  2. ここで言う、インバースモデル解析とは、CO2などの大気中微量成分について、大気中濃度観測値と、大気輸送モデルを用い、その吸収・排出源の分布を統計的に推定する解析手法のことを指す。
  3. 基本データセットは、米国海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA)が提供しているObsPack(Observation Package)を元に作成した。
  4. 世界を64分割した亜大陸スケールで地域フラックスを推定した。熱帯アジア域は、図1 a) で薄い赤色に見えている、インドネシアを中心とした領域を指す。
  5. 正のフラックスは放出、負のフラックスは吸収を表す。

本研究の論文情報

A decadal inversion of CO2 using the Global Eulerian-Lagrangian Coupled Atmospheric model (GELCA): sensitivity to the ground-based observation network
著者: Shirai T., Ishizawa M., Zhuravlev R., Ganshin A., Belikov D., Saito M., Oda T., Valsala V., Gomez-Pelaez A. J., Langenfelds R., Maksyutov S.
掲載誌: Tellus B: Chemical and Physical Meteorology, 69:1, 1291158, DOI: 10.1080/16000889.2017.1291158.

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