2017年5月号 [Vol.28 No.2] 通巻第317号 201705_317003

オフィス活動紹介:グローバルカーボンプロジェクトつくば国際オフィス ボトムアップアプローチとトップダウンアプローチのマリアージュ—都市の温室効果ガス排出量を測定するために—

  • GCPつくば国際オフィス 事務局長 Ayyoob Sharifi
  • GCPつくば国際オフィス 代表(地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 主席研究員)山形与志樹

地球全体で都市化が進むにつれ、気候変動問題解決に向けた都市の役割がますます重要になっています。GCPつくば国際オフィスは2年前からさまざまな分野の研究者とともに、都市からの温室効果ガス排出量の測定のため、ボトムアップとトップダウンアプローチを統合した戦略策定に取り組んでいます。急速な都市化の進展と現在の都市が抱える問題を踏まえ、都市内の状況変化と影響を効率よく把握できる新たなリアルタイム手法が今後10年の間に確立されることが必要です。この手法は、全球の温室効果ガス排出シナリオのなかで都市化の方向性によるシナリオの差異の原因を明らかにし、都市の温室効果ガスの排出管理のための都市計画シナリオがもたらす影響について理解を深めます。

ボトムアップアプローチとトップダウンアプローチは都市の温室効果ガス排出量を測定する2種の重要な手法ですが、処理方法や解像度はまったく異なります。そこで、両者をうまく調和させるために、整合的なシステムによるやり方が必要です。都市の温室効果ガスの測定は喫緊の課題で、現在、世界中でさまざまなセクターによるボトムアップアプローチとトップダウンアプローチを調和させるための多様な取り組みが進められていますが、問題は調整役がいないことです。NGO、学界、民間企業、公的機関は、この新しい研究分野について議論し協働していくためのフォーラムを必要としています。こうしたグループが協力して、政策担当者や市民などのステークホルダーに情報提供し、彼らを教育していくことが重要なのです。

研究者や都市計画担当者などのグループが都市の温室効果ガス排出量を測定するボトムアップとトップダウンアプローチを統合するメカニズムを構築するため、GCPつくば国際オフィスは、WUDAPT​(World Urban Database and Access Portal Tools)やC40[1]などと協力し、グループをまとめるプラットフォームを作ることを目指しています。このグループは、都市のネットワークや協力関係、温室効果ガス排出量データを社会経済のデータに統合するための戦略についても議論することになっています。

こうした活動は、現在進めている都市レベルの排出データマッピングに関するGCP-WUDAPTプロジェクトのなかで進められます。GCP-WUDAPTプロジェクトは、都市の特徴付けや都市システムのマッピング、人の居住環境の情報を提供します(WUDAPTのウェブサイト参照:www.wudapt.org/)。また、世界中の都市の地図を作成し、さまざまな研究活動が展開されるプラットフォームとして利用できるような分野横断的な全球の成果を提供することも目指しています。さらに、都市スケールの気候変動シミュレーション、個々の都市の炭素収支の解明、より持続可能な発展を実現するための都市計画担当者と市民との情報交換も進めます。

ボトムアップアプローチとトップダウンアプローチがうまく結合できれば、新しい手法となり、より詳細な情報を提供できるでしょう。GCP-WUDAPTプロジェクトの目的は、建物や地区、都市における人の居住に関する全球のデータベースを構築することと、マッピングプロジェクトの一環として、全球スケールの研究を地域コミュニティに結びつけたり、逆に地域の研究者などが全球レベルの科学に貢献する機会を推進したりすることです。また、気候の安定化という目標を達成する際に、都市や地方自治体が果たす役割を明確にするために必要な知識を提供します。全球スケールでの取り組みにおける都市の重要な役割を明らかにすることで、地域や国ごとの活動がさらに活発になるでしょう。ボトムアップアプローチによる成果から、地域が直面する現実的な課題や、都市が低炭素な発展を実現するための戦略が理解しやすくなるでしょう。

私たちは、都市の排出量を測定するしっかりした手法の開発を見込んでいます。それは、迅速でタイムリー、かつ都市における排出量の定期的な報告ができ、ボトムアップとトップダウンアプローチを結合し、排出データを物理データや社会経済データに組み込むことができるものです。

プロジェクトでは、生活の質を向上させ、都市のレジリエンス(回復力)を強化し、気候変動の緩和と適応に対応した、統合された都市計画と政策を採用し実行するネットワークを都市が構築できるようなメカニズムと戦略に重点的に取り組みます。この活動の一環として展開される戦略によって、持続可能でレジリエントな(気候変動に対して回復力のある)社会に向けた変革を推し進めていくこともできるでしょう。世界の主要都市において、統合的で参加型の都市計画を策定する能力を強化するアイデアを提供するというこの活動の成果は、持続可能な開発目標[2]11「都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」を達成することにも貢献します。また、プロジェクトの活動と成果は、持続可能な開発目標7「すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」や12「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」にも関連しています。

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図1持続可能な開発目標

かなり前から、都市の温室効果ガス排出量に関するデータベースをGlobal Carbon Atlas(人為・自然起源の炭素フラックスに関する国レベルの最新のデータを可視化し、公表するプラットフォーム)に統合することが期待されています。統合することで、個人や研究者、企業、地域コミュニティなどが地球上のどこからでも全球スケールの研究活動に貢献でき、また、地球システムの速い変化のなかで、持続可能でレジリエントな社会を目指して地域コミュニティを変革していくために重要となる情報を地球上のどこでも受け取れるようなしっかりした枠組みを、Future Earthの知と実践のネットワーク(KAN)に提供できると、GCPは考えています。この活動に重点的に取り組むことは、専門家とステークホルダーとの協働企画(研究活動の設計)、協働生産(研究知見の創出)、協働実施というFuture Earthのイニシアティブとぴったり合っています。初期設計はすでにFuture Earth Urban KANと協議されており、脱炭素化と資金と経済のKANへのリンクを進めています。この活動に関する最初のワークショップが、2016年にスイスで開催されたFuture Earthの関係者から構成される関与委員会に引き続き行われました。さらに、2017年8月24〜26日にストックホルム(スウェーデン)で開催予定のICSS会議の期間中にワークショップを開催する予定です。

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図2Global Carbon Atlasによる国レベルの炭素排出量比較

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写真2017年2月12〜14日に東京大学で開催されたUrban KANスコーピングミーティングでは、トップダウンアプローチとボトムアップアプローチの統合がテーマとして議論された

GCPの活動に関する詳しい情報は、http://www.cger.nies.go.jp/gcp/を参照してください。

脚注

  1. 気候変動対策に取り組む都市のネットワークである世界大都市気候先導グループ。
  2. 2000年9月に開催された国連ミレニアムサミットにおいて21世紀の国際社会の目標としてミレニアム開発目標が採択された。その後継として、持続可能な開発目標は2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な開発のための2030アジェンダのなかに盛り込まれている。貧困を撲滅し、持続可能な世界を実現するための17のゴール、169のターゲットからなり、発展途上国のみならず、先進国自身も取り組む。

*本稿は編集局で和訳したものです。原文(英語)も掲載しています。

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