2017年4月号 [Vol.28 No.1] 通巻第316号 201704_316008

最近の研究成果 ライダーによる北東アジアからの高濃度オゾン・エアロゾルの同時観測

  • 地球環境研究センター 衛星観測研究室 高度技能専門員 内野修
  • 地球環境研究センター 衛星観測研究室 主任研究員 森野勇

温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)の検証のために2011年3月から佐賀大学でライダー観測を行っている。

2015年3月20日から31日まで天気の悪い時間を除いてライダーによる連続観測を行ったところ、22日午前3時から午後20時にかけて高度0.5〜1.5kmに高濃度のオゾンとエアロゾルが観測された(図)。オゾン濃度の最大値は110ppbv、また、波長532nmにおけるエアロゾルの消散係数と光学的厚さ[1]の最大値は1.2km−1と2.1であった。

これらの高濃度エアロゾルとオゾンは、後方流跡線解析[2]や数値シミュレーションの結果から、ゴビ砂漠で発生した大きな粒径(>1000nm)のダストと華北平原における高濃度の小さな粒径(<1000nm)の硫酸粒子やオゾンであり、2日程度で佐賀に輸送されたことが分かった。

また、佐賀県が行っている地上観測データも合わせると、日中地面に陽が当たり混合層が発達した時に、これら高濃度のオゾンとエアロゾルが鉛直混合することにより地表に達したため、環境基準を大きく上回るオキシダント(ほぼオゾン濃度と考えてよい)とPM2.5の濃度が観測されたものと推察される。

ライダーと地上観測および数値シミュレーションを用いたこのような研究は、高濃度汚染物質がどこで発生して日本に輸送され、地上の大気質を悪化させるかを明らかにする上で重要である。

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2015年3月20–31日、佐賀大学に設置している国立環境研究所のライダーで観測されたオゾン混合比(上図:単位ppbv)とエアロゾル消散係数(下図:単位km−1)の高度・時間断面図。灰色と黒色の網目状の部分は観測データがないか雲やエアロゾルの影響を受けている部分などを示す。上図の最下層部分に佐賀県環境センターが佐賀市高木町で観測したオキシダント濃度を示す

  • ppbv = parts per billion by volume = 体積混合比で10億分の1
  • nm = 10−9 m

脚注

  1. 光の透過の程度を表す量で、光学的厚さが2.1の場合は exp(−2.1) = 0.12 だけ通す
  2. 大気の塊を質点とみなして、その移動軌跡を気象データを用いて計算すること

本研究の論文情報

Lidar detection of high concentrations of ozone and aerosols transported from North Asia over Saga, Japan
著者: Uchino O., Sakai T., Izumi T., Nagai T., Morino I., Yamazaki A., Deushi M., Yumimoto K., Maki T., Tanaka T. Y., Akaho T., Okumura H., Arai K., Nakatsuru T., Matsunaga T., Yokota T.
掲載誌: Atmospheric Chemistry and Physics, 17, 1865-1879, doi:10.5194/acp-17-1865-2017, 2017.

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