2017年4月号 [Vol.28 No.1] 通巻第316号 201704_316005

謝謝! 气候変化的科研工作者 —日中の学生がセンター訪問で学んだもの—

  • 早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科 吉田徳久納富のうとみ

1. はじめに

2017年1月12日に、早稲田大学と北京大学の学生を率いて、地球環境研究センター(以下、センター)を視察しました。早稲田大学環境・エネルギー研究科と北京大学環境科学与工程学院は、2009年度から修士学生を対象に「日中環境実践研究」と称する授業を共同で実施しています。両大学の学生が交流しながら、双方の国の環境・エネルギー政策や経済・社会動向への理解を深めるのがねらいです。授業は10月から両大学でそれぞれ進め、TV会議を通じて交流もします。最後は、正月休み明けに北京大生と教員が1週間来日し、早稲田の学生と一緒に日本の環境政策や研究事情を視察します。これを “東京ラウンド” と呼んでいます。

2. センター訪問まで

この授業では毎年の “お題” を決めます。今年のお題は『パリ協定採択後の日中両国の気候変動政策』ですから、東京ラウンドにセンターの訪問は欠かせません。昨年の秋から視察の受け入れをお願いし、センターの広兼克憲氏を中心に4時間という長丁場の視察行程の調整を進めてきました。中国側の学生の湖沼汚濁への関心も高かろうと、茨城県霞ケ浦環境科学センターと国立環境研究所の水環境保全再生研究ステーション(霞ヶ浦臨湖実験施設)も見学コースに含めました。

2016年度の東京ラウンドの参加者は早稲田大7人、北京大5人の学生と、両大学の教員3人、助手・TA各1人の計17人でした。センター訪問の前日11日には国環研主席研究員の徐開欽(Joe Kai-Qin)氏を水環境保全再生研究ステーションにお訪ねしました。徐氏が浄化槽研究に注ぐ熱い想いと、連発するジョークに学生たちは大いに惹かれました。水質改善が喫緊の課題である中国で浄化槽が有用なことも理解しました。翌12日の午前に産業技術総合研究所で二酸化炭素回収貯留(CCS)関連研究施設を見学し、午後いよいよセンターの訪問となりました。

3. センター訪問の当日

前半では気候変動リスク評価研究室長の江守正多氏にICA-RUSプロジェクトのご紹介をいただきました。気候変動に伴う広範な分野のリスクを学術統合的に評価し、人類がとりうる選択肢を整理することを目的とする、最先端の温暖化研究です。科学知見の不確実性と気候変動に伴う事象の不連続性(ティッピング・エレメント)が多々存在する中で、“人類はどこまで気候変動リスクを甘受しうるのか? リスク管理にどこまで高い費用便益と社会合理性を求めうるのか?” という政策決定の根幹に係わる重い研究です。また、江守氏は社会にトランスフォーメーションを起こす必要性を、淡々としかしこだわりを持って語ってくださいました。わが国の温暖化対策論が、確たる見込みのない技術革新に下駄を預け、国民の省エネ意識高揚に問題を矮小化し、環境ビジネス論に流れることが多い中で、江守氏の講演は目から鱗が落ちる思いでした。現在も続くICA-RUSプロジェクトの成果が、温暖化議論の惰性を排して、トランスフォーメーションを呼び込む強い駆動力になることを期待しています。

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写真1江守室長から気候変動リスク研究についてうかがう

次いで、炭素循環研究室主任研究員の梁乃申(Liang Naishen)氏から、温暖化に伴う土壌からの二酸化炭素(CO2)放出量増加に関する研究についてうかがいました。参加学生に中国人が多いことを慮って梁氏の説明は大部分が中国語でした。通訳を務めた中国留学生のTA女史は、いつもとは逆向きの翻訳に一瞬は戸惑いながらも流暢にこなしました。その後、野外に出て見学した土壌CO2排出実験装置に、学生から熱心な質問が相次ぎました。

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写真2梁主任研究員の案内で土壌CO2排出実験装置を見学

さらにパネル展示場で、地上・洋上はもとより衛星・航空機観測を加えた全球三次元のCO2モニタリング・システムなどについて広兼氏からご説明をいただき、4時間はあっという間に過ぎました。

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写真3最後にセンター正面玄関で記念撮影

4. おわりに

後日学生から提出されたレポートには、日本の環境研究のレベルの高さへの驚嘆とともに、日本の優れた研究機関で活躍する中国出身の研究者への畏敬の念が多く綴られていました。センター訪問は、日中の架け橋を目指すこの授業にとって絶好の学びの機会になりました。お世話になった皆様方に心から感謝を申し上げ、今後の益々のご発展をお祈りいたします。

承蒙关照,非常感谢! 北京大学师生一同 (大変お世話になり、ありがとうございました。)

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