2016年9月号 [Vol.27 No.6] 通巻第309号 201609_309002

ビッグデータを活用した都市レジリエンス研究に向けて —12-th International Urban Planning and Environmental Association Symposium (UPE 12) 参加報告—

  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 特別研究員 村上大輔
  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 主席研究員 山形与志樹

1. ワークショップの背景

2016年6月1〜3日にリスボン大学(ポルトガル)で標記シンポジウムが開催され、山形と村上が参加しました。このシンポジウムの目的は都市・環境計画、持続可能な都市開発に関する研究者間の対話を促すとともに、持続可能な都市成長に向けた実用的な方法論・ツールの開発を支援することであり、都市、環境、その他、都市・地域科学に関係する幅広い研究者が参加しました。本年度で12回目の開催です。都市の郊外化を抑制するとともに中心市街地を活性化することで、住みやすくまた環境にやさしい都市を実現しようという、コンパクトシティーの概念が初めて詳しく議論された学会としても有名です。

photo

写真開催地のリスボン市のトラム。リスボン市は公共交通機関が網の目のように張り巡らされており、それらを活用したコンパクトシティー化への関心が高まっています。また、リスボン市は震災や津波のリスクの高さでも知られており、災害に対するレジリエンスを高めることが喫緊の課題となっています

2. 参加者による発表

本シンポジウムでは、レジリエンスやアーバンメタボリズム(都市におけるエネルギーや水、物質等の循環を意味する概念)、生態系サービスといった都市の持続可能性に関連した数多くの研究が報告されました。具体的には上記キーコンセプトの体系化や定量化、それらの結果を踏まえた都市デザインの検討や将来成長シナリオの分析、都市計画担当者や政策決定者が方針を決定する際に貢献できるようなツールや視覚化手法の開発などです。

特に今回はkeynote speakerのSimin Davoudi氏(Newcastle Univ.)の発表に代表されるように、異常気象、エネルギー、食糧などに着目した都市レジリエンスについての報告が多く、気候変動リスクの上昇やそれに伴う諸問題への関心が高まっていることを確認しました。また、モバイルセンシングデータや高解像度リモートセンシングデータ(例えば3次元都市モデル)といったビッグデータを活用した研究の報告も多く、近年のセンサー技術の発展が都市レジリエンスに関する研究の進展に大きく寄与しているとの印象を受けました。本学会のプログラムの詳細については、下記のウェブサイトをご覧ください。
http://iupea2016lisbon.wix.com/upe12symposium

3. 国立環境研究所からの参加者による発表

国環研からは山形、村上、及び共同研究者の吉田崇紘氏(筑波大学社会システムマネジメント専攻)が発表しました。まずは村上が、気温の高い日(例えば最高気温が35°C以上の日)が連続する現象である熱波のリアルタイムでの面的モニタリングに向けた、ビッグデータの活用について講演しました。本講演では次の点に着目した分析を報告しました:多種多様な時空間データ(例えばアメダスデータや衛星観測データ、人々の位置情報データ)をどのように統合すればリアルタイムな熱波状況の面的な推計が実現できるのか;推計した熱波情報をどのように一般に公開するか;アプリとの連携;街区レベルの熱波状況を解析する上での課題。その後の質疑の際には、3次元の都市構造を考慮することが必要である点や、都市デザインへの活用の可能性についての議論が行われました。

続いて「面的に推計された熱波状況と3次元都市モデルとの連携」について吉田氏から発表がありました。本発表は、熱波状況をいかに視覚化するか、建物の配置や高さがどのように熱波に影響しうるかなどを検討するものであり、街区レベルでの都市の将来シナリオを検討する上での基礎となる、注目に値するものでした。

最後に山形が「3次元都市モデルを活用した都市の賢い縮退(wise shrink)に向けたシナリオ分析」について講演を行いました。山形は東京大都市圏の将来成長シナリオ(緩和シナリオ、緩和 + 適応シナリオ、現状維持シナリオ)の違いが持続可能性に関する諸要因(異常気象リスク、環境負荷、居住性等)に及ぼす影響を定量評価しました。その結果として、従来望ましいとされてきた都市のコンパクト化だけでなく緩和策とも連携させることが、東京大都市圏の都市レジリエンスを高めるうえで不可欠という興味深い知見が得られました。また、マクロ(東京大都市圏;1kmグリッドごと)を対象とした将来シナリオと、ミクロ(都心;0.5mグリッドごと)を対象とした3次元都市モデルとの連携についての新規的な分析も報告しました。

以上に加え、Perry Yang教授(Georgia Institute of Technology)と山形との国際共同研究についての報告がありました。本報告は3次元都市モデル、エネルギーモデル、及び気候モデルを連携することで、次のような都市の環境・エネルギー指数を推計・視覚化しようというものです:エネルギー消費量(建物ごと)、CO2排出(建物ごと)、建物や路上からの眺望、路上のミクロな(例えば0.5mグリッドごとの)熱環境。対象都市は東京とニューヨークです。この報告では、異常気象リスクの高まる両都市における将来の都市設計を検討するうえでの重要課題に関連する研究提案について議論しました。

4. シンポジウムの成果と今後の計画

様々な分野の研究者間の議論から、2つの大きな研究動向を確認することができました:都市レジリエンス(特に環境とエネルギー)に対する関心が高まっていること;都市レジリエンス研究におけるビッグデータの利用が活発化していること。また我々の研究成果についての報告・意見交換と、主要共同研究者であるPerry氏との3日にわたる意見交換により、3次元都市モデル(個別建物データやミクロな土地被覆データ、人の動きデータ等を元に構築)を活用することで、例えば人々の日々の都市活動とそれに伴うエネルギー排出(建物排出 + 交通排出)や熱波リスクなどをシミュレートし、その結果をもとに都市のレジリエンスを高めるためのシナリオ分析を進めるという、同氏との共同研究の方針を固めることができました。ここで扱うシナリオは、例えば建物に対する環境認証システムを導入シナリオや、緑化推進シナリオ、建物の配置や規模を変化させるシナリオ、ロードプライシング(課金による交通量の抑制)を行うシナリオなど、多岐にわたります。

なお、今回のシンポジウムを通して得られた情報や意見は、GCPがURCM(都市と地域の炭素管理)研究を発展させて気候変動適応研究との連携を検討している都市レジリエンスに関する国際関連研究の推進に活用する予定です。

ご意見、ご感想をお待ちしています。メール、またはFAXでお送りください。

地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

個人情報の取り扱いについては 国立環境研究所のプライバシーポリシー に従います。

TOP