2016年4月号 [Vol.27 No.1] 通巻第304号 201604_304005

バングラデシュの温室効果ガス濃度を長期モニタリングするために

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 特別研究員 野村渉平

私たちは海洋研究開発機構(JAMSTEC)のPrabir Patraさんと協力し、2012年6月からバングラデシュのComilla(コミラ)にあるコミラ観測所(バングラデシュ気象局)において毎週1回、ガラスボトルに空気を採取しています。ボトルは国立環境研究所内の分析室に送られ、温室効果ガス等(CO2、CH4、CO、H2、N2O、SF6)の濃度、さらに二酸化炭素(CO2)分子内の炭素と酸素の同位体比の測定を行っています。

今回2016年1月に、2015年度から始まった環境省環境研究総合推進費課題2-1502「GOSAT等を応用した南アジア域におけるメタンの放出量推定の精緻化と削減手法の評価」において私たちが担当している「南アジアを中心とした大気メタン濃度計測」を滞りなく行うために、コミラ観測所を訪れ、大気採取装置のメンテナンスと、新たにCO2連続計(CO2濃度を連続的に計測する機器)の設置を行いました。

出張初日、バングラデシュの玄関口であるDhaka(ダッカ)の空港を出ると、多くの車から様々なクラクションの音が鳴り響き、もうもうと埃が舞う中でたくさんの人が出入りする喧騒の空間を目の当たりにしました。空港から初日の宿舎へ向かう車窓から見たダッカの街は、混沌の中にも一定のリズムで駆動する1つの生き物のように見えました。

翌朝、コミラ観測所での空気採取に協力いただいているUniversity of Dhaka(ダッカ大学)のKawser教授グループと合流し、まずバングラデシュ気象局の本部を訪問し局長と面会しました(写真1)。20分程度の面会でしたが、局長は私たちの研究活動内容と今回の大気採取装置の修繕ならびに新機器の設置に理解をいただき、これからも全面的に協力するとのお言葉をいただきました。その後、Kawser教授と共にまだ建設途中の高速道路にのり、逆走する車やリキシャたちや突然横断する歩行者を軽快にかわしながら、コミラまでの道のり約100kmを3時間かけて移動しました。途中、大小さまざまな無数の川に架かる頼りない橋を渡りながら、情報としてのみ知っていた河口国バングラデシュというものを体感できました。

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写真1Kawser教授(左)と共にバングラデシュ気象局長(中央)と面会

コミラ観測所は市街地の外れに位置し、周囲には水田が広がっていました(写真2)。CO2連続計を設置する場所には、電源となるコンセントの数が足りない状態でした。そのことを現地のスタッフに伝えたところ、別の壁のコンセントの電線を、ブレーカーを落とさない状態でいきなり引き抜き、ばちばちと音をさせながら慣れた手つきで電線を二股に分け新たなコンセントを作ってくれました。現地のスタッフは「大丈夫、こういうことは慣れているから」みたいなことをベンガル語で話しながら爽やかに笑っていました(写真3)。屋上に設置された6mの鉄塔の先端に空気の取り口(インレット)を取り付ける際、風の音に混じって鳥の声も耳に入ってきました。その時、これまでバングラデシュを訪れてから数日間、車のクラクションや大音量の音楽に慣れてしまったため、その他の音が聞こえていなかったことに気づきました。この観測所周辺の道路に車はほとんど走っておらず、一帯は昔ながらの生活を営む農家の方たちが作るゆったりとした雰囲気に包まれています。

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写真2コミラ観測所屋上から見たコミラの水田地帯の風景

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写真3コミラ観測所に新たに設置したCO2連続計

Kawser教授は日本に数年滞在していたことから、とても日本語が上手です。設置し終えたCO2連続計の使用方法を私が日本語と英語を交えてKawser教授に説明すると、Kawser教授が現地のスタッフの方にベンガル語で説明してくれました(写真4)。

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写真4装置の使用方法を現地スタッフに説明する

コミラ観測所での仕事を終え、ダッカに戻り帰国する日、Kawser教授はダッカ大学のAAMS Arefin Siddique学長との面会機会を用意していただきました。大きな庭園の中にある西洋風の白い学長棟に伺い、学長にこれまでのコミラ観測所での活動と今回新たにCO2連続計を設置したことを説明しました(写真5)。学長からは、温室効果ガスのモニタリングはとても重要な仕事であり、今後とも長く続けられることを願うとのお言葉をいただきました。

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写真5Kawser教授と共にダッカ大学学長(中央)と面会

ダッカ大学から空港に向かう帰路では、ひどい渋滞に巻き込まれ、目的の飛行機の出発時刻1時間前にかろうじて空港に到着し、慌ただしく手続きの後、なんとか飛行機に搭乗しました。今回の出張で最も印象に残ったことは、活字で得た情報をもとに私の中で抱いていたバングラデシュと、今回滞在して体感したバングラデシュは大きく異なっていたことです。街のすみずみから「勢い」を感じ、街を走る車はどれも日本車で、住む人々は皆穏やかな表情で良く笑い、現地で食べた食事はどれもおいしかったです。1時間ほど予定より遅れて離陸した飛行機の窓から見えたダッカの夜景を見ながら、またいつかこの国を訪れたいと思いました。

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