2016年2・3月号 [Vol.26 No.11] 通巻第303号 201602_303013

【最近の研究成果】 準2年周期振動と太陽11年周期が冬季北半球中高緯度の気候に及ぼす影響〜当該過程に対して対流圏の波の果たす役割の理解〜

  • 地球環境研究センター 気候モデリング・解析研究室 特別研究員 山下陽介

本研究では、成層圏準2年周期振動(QBO)[1]や太陽活動などの年々変動が、北半球中高緯度域の成層圏に見られる北極渦に影響する過程を調べた。QBOは約2年の周期を持っていて、西風位相(QBO-W)と東風位相(QBO-E)に分けられる。また太陽活動は11年の周期が卓越し極大期(Smax)と極小期(Smin)に分けられるため、これら2つの現象によって分類を行うと、ある年は4つの位相のうちどれかに分類される。QBO-WかつSmax(QBO-W/Smax)の場合、12月に極渦がこれら4つの位相に属するすべての年の平均よりも強いが、続く2〜3月には逆に平均よりも弱い極渦が現れやすいことが分かっている(図1)(例えばGray et al. 2004)。その理由を本研究では再解析データ[2]と化学気候モデル(CCM)[3]により調べた。

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図1成層圏の極渦強度に相当する50〜70°N平均した1hPa高度における帯状平均東西風の季節変化図(ERA-interim再解析データから作成)。実線と破線はQBO-W/Smax年平均と1979〜2006年の気候値を表す。1:2:1フィルタを60回掛けて平滑化した。12月頃にはQBO-W/Smax時に気候値よりも極渦が強く、2〜3月頃には弱いことがわかる

12月には北極域は極夜である一方、北半球低中緯度域には太陽の光が当たるため、12月のSmax時にはオゾンを介した極渦強化が見られると考えられる。またQBO-Wに伴う影響も極渦周辺に現れる。QBO-Wのときの対流圏からの波動伝播と散逸、それに伴う子午面循環の特徴は、Smaxのときの特徴と類似しているため、両方のプロセスがQBO-W/Smax において極渦を強めるように働くと考えられ、実際に再解析データとCCM実験の両方からそのプロセスを示した。次に2〜3月に弱まるプロセスであるが、QBO-W/Smax における12月の強い極渦は、大西洋域の対流圏で12〜1月にかけて見られる北大西洋振動(NAO)[4]の正位相の発達を伴いやすい(図2)。NAOの構造は対流圏における東西波数1の波の振幅を増大させるようになっていた。これによって1月に対流圏から成層圏への上向き波伝播が増大し、2〜3月に成層圏で弱い極渦がもたらされる可能性があることが分かった。一方、東西波数2の波は、成層圏の極渦変化には直接的に影響を与えないものの、1月に対流圏NAOの正位相を維持するように働いていることを示した。これらの結果により、QBO-W/Smax における北極渦の冬〜春にかけての季節進行メカニズムと、それに関する対流圏の役割が明らかになった。なおQBO-W/Smax時の12月に極渦が強いと、なぜ1月の対流圏でNAOパターンが卓越するのかは分かっておらず、今後の課題である。以上により、NAOパターンと関係して2〜3月に成層圏の極渦が弱まることは分かったが、この結果はQBOと太陽活動の位相によってはオゾン濃度と関係性の大きい春先の極渦強度を推定できる可能性があることを示す。

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図2(a) 12月平均、(b) 1月平均したQBO-W/Smax時におけるERA-interim再解析データの海面更正気圧(SLP)偏差(陰影)とSLPの気候値(等値線)。北大西洋域で南北逆符号のNAO正位相の偏差が見られ、12月から1月にかけて偏差が強まることが分かる

脚注

  1. 成層圏準2年周期振動(Quasi-Biennial Oscillation: QBO)は熱帯成層圏で東風と西風が約2年周期で交代し下降する現象で、北極渦や北極オゾン層は、QBOの位相と同期した変動を示すことが知られている。
  2. 再解析データは、衛星観測、ゾンデ観測や地上観測などで得られた気象場などの観測データを数値モデルに同化することで、実際の観測では得られていない3次元的な空間分布を再現するもので、厳密には観測ではないが本研究では観測データとして扱う。用いた再解析データは、European Centre for Medium-Range Weather Forecasts(ECMWF)で提供されているInterim Re-Analysis(ERA-Interim)である。
  3. 化学気候モデル(Chemistry Climate Model: CCM)は、気候の変動に加えて大気微量成分などの振る舞いやその気候への影響を同時に調べるためのモデルである。CCMは大気の力学などの時間発展を記述する偏微分方程式に加えて、化学反応や輸送による大気微量成分濃度の時間発展方程式や大気微量成分による放射加熱項等も含めることで、現在や将来の大気微量成分濃度の変化や気候への影響を数値的に調べることが可能である。
  4. 北大西洋振動(North Atlantic Oscillation: NAO)は北大西洋域のアイスランド低気圧とアゾレス高気圧の気圧が逆傾向に変化する現象(気圧偏差で見ると南北逆符号の構造)で、ヨーロッパの気候と密接に関係することが知られている。

本研究の論文情報

The combined influences of westerly phase of the Quasi-Biennial Oscillation and 11-year solar maximum conditions on the Northern Hemisphere extratropical winter circulation
著者: Yamashita Y., Akiyoshi H., Shepherd T. G., Takahashi M.
掲載誌: Journal of the Meteorological Society of Japan, 2015, 93(6), 629–644, doi:10.2151/jmsj.2015-054

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