2014年12月号 [Vol.25 No.9] 通巻第289号 201412_289005

熱帯林地域が吸収しているCO2量を知るために

  • 地球環境研究センター 炭素循環研究室 特別研究員 野村渉平

国立環境研究所は、アジアで熱帯林が分布する地域にCO2濃度を測定する複数の機器を設置して垂直方向のCO2濃度分布を測定し、得られた各地点の濃度分布の違いから熱帯林のCO2吸収量を推計する方法の開発を行っています。この目的を達成するため、まずは国内の森林が広範囲に分布し、かつ人為影響が極めて少ない地域において測定(実証研究)を行いました(2012年北海道天塩地域、2013年沖縄県西表島)。

これらの実証研究により地域的な森林のCO2吸収量の推定手法が定まったことから、2014年にマレーシアのマレー半島中央部とボルネオ島北東部に分布する熱帯林を研究対象地域に選定し、この10月にこれら調査地点のうち、3地点にCO2計を設置しました。

マレー半島の熱帯林での設置地点は、本研究所が土壌呼吸の観測等の長期的な研究を実施しているパソ森林保護区としました。この森林には52mの観測用タワーと機器を設置可能な小屋があります。タワー最上部に空気を採取するチューブをとりつけ、そのふもとにある小屋にCO2計を設置しました。タワーまで自動車で入ることはできないので、手前で必要な道具を担ぎ熱帯林の中を進みます。目に入る植物の姿かたち、耳に入る動物・昆虫の鳴き声は、どれも日本で生活している私が育った環境とは異なっており、熱帯林の世界が展開していました。タワー最上部から見る森は、そこで生きるものたちが作る空気と水蒸気が混ざり、遠くがぼやけ、生命の奥深さと儚さが感じられました。

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写真1パソ森林保護区の観測用タワーふもとにある小屋に荷物を運ぶ

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写真2観測用タワー最上部からみたパソ研究林

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写真3大気中CO2濃度を計測するシステム一式

この対照地点(海風を受け、森林によるCO2吸収の影響を受けていない空気が流入する地点)であるクアラルンプール国際空港観測所にもマレーシア気象局の協力のもとCO2計を設置しました。同様にボルネオ島北部において森林によるCO2吸収の影響を受けていない空気を捉えられるマレーシア気象局コタキナバル観測所にも設置しました。

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写真4協力していただいたクアラルンプール国際空港観測所の職員

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写真5コタキナバル観測所と南シナ海

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写真6協力していただいたコタキナバル観測所の職員

ボルネオ島の熱帯林での設置地点は、本研究所が温室効果ガス測定用に大気の採取を行っているダナンバレー原生林になりました。2015年1月にこの原生林とその周辺にCO2計を設置し、垂直方向のCO2濃度を計測し、対象とした熱帯林のCO2吸収量の推計を行います。

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