2013年8月号 [Vol.24 No.5] 通巻第273号 201308_273007

人類は食料危機を乗り越えたのか? —専門家によって見解が分かれる問題について理解する—
「食料問題セミナー」ウェブサイト紹介

  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 主任研究員 横畠徳太
  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長 江守正多
  • 社会環境システム研究センター 統合評価モデリング研究室 主任研究員 高橋潔

将来起こり得る問題でも、専門家によって見解の分かれることがあります。たとえば、ある専門家は、その問題は重大な危機を引き起こすと主張するが、別の専門家は、それはたいした問題ではない、と主張する場合です。これを専門家でない人が見ると、何が正しいのかよくわからない、ということになってしまいます。このような問題に関して、討論の際の印象や主張のおもしろさなどで論争の「勝ち負け」を判断するのではなく、専門家ではない人でも、論拠とロジックに基づき、複雑な問題をフォローできることが大切だと、私たちは考えています。

国立環境研究所地球温暖化研究プログラム「地球温暖化に関わる地球規模リスクに関する研究」プロジェクトでは、このような「識者によって見解の分かれる問題」に関する勉強会を行ってきました。問題の本質的な構造、そもそも見解が分かれる理由、問題における大きな不確実要素などについて、研究グループのメンバーが自分たちなりの見解をもち、関連する研究を行う際に活かすことが、大きな目標です。環境省環境研究総合推進費「地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する研究(Integrated Climate Assessment—Risk, Uncertainty and Society: ICA-RUS)」のメンバーを交えて、勉強会を進めています。

世の中で論争となっているさまざまな問題のうち、まずは私たちの専門である地球温暖化の問題とも関係の深い、食料の問題をとりあげることにしました。将来にわたり、世界あるいは日本の食料需要を満たすような食料供給を行うことは可能か、将来を見通すうえでの大きな不確実要素は何か、といった問題が主要なテーマです。関連するトピックについて専門的に研究を行っている研究者を講師として招き、講演をしていただいた後、参加者で議論を行い、毎回、納得できたこと・できなかったことについてまとめる、という作業を行ってきました(表)。そして2012年11月、いわゆる「楽観派」と「悲観派」の主要な論客である川島博之さん(東京大学農学研究科)と柴田明夫さん(資源・食糧問題研究所)をお招きして、第5回食料問題セミナーを開催しました。勉強会のメンバー50人ほどが集まり、お二人にそれぞれ90分ずつ講演をしていただき、講演後に1時間ほど議論を行いました。そして講演していただいた資料とその解説、また講師のお二人と勉強会メンバーの議論の内容を、以下のウェブサイトにまとめました。

http://www.nies.go.jp/ica-rus/foodproblem/seminar_20121108.html

食料問題セミナー これまでの開催内容

第1回
食料問題の全体像
世界は93億人を養うことができるか?—食糧危機はやってくるか?
講師:増冨祐司氏(埼玉県環境科学国際センター)
第2回
食料問題の将来展望
世界食料の将来展望とその方法
講師:小山修氏(国際農林水産業研究センター)
第3回
食料問題と水
5つの報告書に示された世界の灌漑農業の将来展望
講師:花崎直太氏(国立環境研究所)
第4回
食料問題とバイオ燃料
食や農に関する2題:過去の極端現象とバイオ燃料・食料
講師:鼎信次郎氏(東京工業大学)
第5回
食料問題の現状と将来見通し
世界の食料生産とバイオマスエネルギー2012年version
講師:川島博之氏(東京大学)
逼迫する世界食糧市場にどう対応するか
講師:柴田明夫氏(資源・食糧問題研究所)
photo. 灌漑

写真人類は食料危機を乗り越えたのか? 灌漑による水利用や肥料の利用によって、穀物生産量は飛躍的に増加してきた

セミナーでは

  • そもそも「食料危機」とは? 食料に関して現在、将来、何が問題なのか?
  • 食料の需要、供給、そして価格の問題に関する世界の現状は? 飢餓・栄養不足人口とは?
  • 今後の世界の人口増加、食料の需要と供給、今後の見通しは?
  • 近年、食料価格が乱高下しているが、そのメカニズムは? 今後、何が起こるか?
  • バイオエタノールなどの気候変動政策は、食料供給にどのような影響を及ぼすか?

といった、食料問題に関する主要な論点に関して、講師のお二人から主張の論拠となる資料を提示していただき、それに関して、勉強会メンバーからの質問、また参加者での議論を行いました。上記ウェブサイトでは、セミナーを通して得られた共通理解、見解の分かれる点、見解の相違をもたらす不確実要素、そして「食料危機」のような複雑な問題を議論するときのコミュニケーション上の注意点について、まとめを行っています。前述のように、「複雑な問題を専門家ではない人がフォローする」ためには、十分な論拠とロジックに基づいて理解することが重要です。そういった意味で、講師のお二方の講演資料の詳しい解説と勉強会メンバーでの議論をまとめた上記ウェブサイトが、食料問題について皆様の理解のお役にたてればと思います。

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地球環境研究センター ニュース編集局
www-cger(at)nies(dot)go(dot)jp
FAX: 029-858-2645

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