2013年8月号 [Vol.24 No.5] 通巻第273号 201308_273005
新しくなった国立環境研究所スーパーコンピュータシステム
国立環境研究所スーパーコンピュータシステムが更新され、平成25年6月3日から運用を開始しました。6月3日運用開始前に、新ベクトル処理用計算機の稼働式が執り行われました。岸部和美環境情報部長による新ベクトル処理用計算機を含むスーパーコンピュータシステムの概要紹介(写真1)および、山崎学係長による各システムの機器紹介がありました。最後に、住明正理事長による「火入れ」(写真2)が行われました。

写真1岸部和美環境情報部長による概要紹介

写真2稼働スイッチを入れる(住明正理事長)
新しいスーパーコンピュータシステムは、前システムと同様、多様な計算ニーズ・膨大な演算結果の保存に対応ができる構成となっています(図)。

スーパーコンピュータシステム概念図
多様な計算ニーズへの対応にはベクトル処理用計算機、スカラ処理用計算機、フロントエンドサーバ(ベクトル処理用、スカラ処理用)がその役割を担います。また、膨大な演算結果の保存には大容量ファイルシステムが用意されています。
ベクトル処理用計算機(NEC SX-9/A (ECO)、写真3)は、前システム(NEC SX-8)と同じアーキテクチャ(科学の国の「はて、な」のコトバ参照)を有し、前システムで利用されていたプログラム・データを、基本的にそのまま利用することができます。
ベクトル処理用計算機の仕様および特長は次のとおりです。
分類 | 項目 | 性能値 |
---|---|---|
トータル性能 | ノード数 | 8 |
総CPU数 | 128 | |
総ベクトル演算性能 | 13.1 TFLOPS | |
総メモリ容量 | 4 TB | |
単体ノード | CPU数 | 16 |
総ベクトル演算性能 | 1.64 TFLOPS | |
メモリ容量 | 512 GB | |
単体CPU | CPUコア数 | 1 |
ベクトル演算性能 | 102.4 GFLOPS | |
ノード間ネットワーク | 転送速度 | 64 GB/s (双方向) |
- 単一CPUコア演算性能では世界最高クラスの性能を実現しています。
- 単一CPUコアで動作させるプログラムはベクトル処理用計算機で高速に処理させることができます。
- 単一CPUコアで動作させているプログラムを基にNEC製コンパイラの自動並列化機能を使うことにより、1ノード最大16CPUを利用して、より高速な並列処理を容易に行わせることもできます。

写真3ベクトル処理用計算機
今回の導入にあたり、2段階調達による契約を行いました。2〜3年後、より高性能なベクトル処理用計算機に入れ替えを行います。その際の演算性能は1段階目の現システムより約7.5倍の演算性能(98TFLOPS)を有するものを予定しています。
スカラ処理用計算機(SGI UV20、写真4)の仕様および特長は以下になります。
分類 | 項目 | 性能値 |
---|---|---|
トータル性能 | ノード数 | 32 |
総CPU数 | 1024 | |
総演算性能 | 19.6 TFLOPS | |
総メモリ容量 | 2 TB | |
単体ノード | CPU数 | 4 |
CPUコア数 | 32 | |
総演算性能 | 614.4 GFLOPS | |
メモリ容量 | 64 GB | |
単体CPU | CPUコア数 | 8 |
単体CPUコア演算性能 | 19.2 GFLOPS | |
単体CPU演算性能 | 153.6 GFLOPS | |
ノード間ネットワーク | 転送速度 | 13.56 GB/s (双方向) |
- スカラ処理用計算機は、より高並列化されたプログラムの実行環境を提供します。
- ベクトル処理用計算機と比較し、8倍のCPU(コア)数を搭載しています。
- ノード内CPUコア数、総CPUコア数ともベクトル処理用計算機を上回り、総演算性能も現時点ではベクトル処理用計算機の能力を超えています(2〜3年後に予定している2段階調達時には逆転します)。[1]

写真4スカラ処理用計算機
スカラ処理用計算機はこの他にノード間でのプログラムの並列実行性能には欠かせない、高速なノード間ネットワークを備えています。また、ベクトル処理用計算機と同様に2段階調達を行っています。 3年後には計算機の追加(複数ノード(CPUコア合計500以上))を行う予定です。
参考情報ですが、国立環境研究所のベクトル処理用計算機・スカラ処理用計算機とも、(単純な話ではありませんが)単一CPUコア演算性能では、京[2]の単一CPUコア演算性能を超えています。
ベクトル処理用計算機の単一CPUコア演算性能はもともと群を抜いて世界最高クラスの性能を実現していましたが、スカラ処理計算機も京が構築された後に発表された最新のCPUを搭載しており、その結果、双方の計算機とも、京の単一CPUコア演算性能を上回っています。
大容量ファイルシステム(写真5)は総実効容量1.5PBのディスクを搭載し、膨大な計算結果の保存を可能としています。

写真5大容量ファイルシステム
脚注
- これは「総理論演算性能」の比較であることに注意が必要です。流体力学コードなど特定の構造をもったアプリケーションにおいて、「理論演算性能」に対する「実効性能」の比は、ベクトル処理用計算機がスカラ処理用計算機よりも優れています。
- 京(けい)は、日本の理化学研究所に設置されたスーパーコンピュータの名称(愛称)です。2012年7月に完成、同年9月に共用開始しました。