2013年5月号 [Vol.24 No.2] 通巻第270号 201305_270005

地球温暖化への緩和・適応とレジリエンスを考えた都市発展は可能か:GCP国際ワークショップ報告

  • 地球環境研究センター 主席研究員 山形与志樹
  • 地球環境研究センター 特別研究員 瀬谷創

1. はじめに

季節外れの暖かさに春を感じる東京からのフライトであったものの、バンコク空港でタラップを降り立った瞬間の、体が膨張するような感じの暑さは、まさに真夏である。当初、このグローバルカーボンプロジェクト(GCP)国際ワークショップは、一昨年にバンコクでの開催を予定したものであったが、大洪水のため延期となり、また、GCPつくば国際オフィス代表のソバカル・ダカールがアジア工科大学(AIT)の准教授に着任するという展開もあった。折しも、GCPが所属していた地球システム科学パートナーシップ(ESSP)が解体し、Future Earthという新たな国際プログラムへの模様替えを模索している中、主に炭素管理に取り組んできたGCPを、新たな社会のニーズにマッチした形でどのように方向付けるかについての議論が必要である。そこで、今回の会議は、今後の10年間の新たなGCPの研究方向を議論することをテーマとして、ワークショップ形式で開催した。

地球温暖化の影響が徐々に顕在化し始めている昨今、気候変動を産業革命以前の水準から2℃以内に抑える継続的な緩和努力と、4℃以上の変動への適応という、二層(dual)のアプローチが不可欠になっている。このため、持続可能な都市システムの実現にむけて、都市域の「内部」および「外部」における温室効果ガスの削減と、水害、熱波などの気候変動リスクへの適応を考える必要がある。また、この考えをさらに一歩進めて、温暖化リスクに限らず各種の災害リスクを総合的に考えて、被害の最小化や、災害からの回復力の強化を考えるレジリエンス(Resilience)が重要となってきている。特に、総合的なリスク管理の視点から都市のレジリエンスを考えることが、特に東日本大震災以降、喫緊の論点となっている。

国立環境研究所(NIES)に国際オフィスを設置しているGCPでは、このような緩和と適応を両立しながら都市を発展させてゆくアプローチを「Climate Compatible Urban Development(以下、CCUD)」(気候と調和した都市の発展)と名付けた。緩和・適応を考慮した統一的視点の重要性は、都市気候変動研究ネットワーク(UCCRN)がまとめた『the First Assessment Report on Climate Change and Cities(ARC3)』においても強く認識されており、フレームワークの整理・高度化や、評価システムの開発が主な研究課題となっている。このような背景の下、本GCP国際ワークショップ「気候変動対策に適した都市発展—都市の評価フレームワークの構築に向けて」は、GCPつくば国際オフィス、AIT、NIESの共催で、第一線の研究者を交えつつ、次の三点をキーポイントにCCUDに関するブレインストーミングを行った。(1) フレームとしての構成要素、スコープ、空間・時間次元、(2) 定性的・定量的評価指標、(3) 将来シナリオ。

2. ワークショップの概要

ワークショップは、2013年3月12–13日、タイのバンコク(Novotel Hotel on Siam Square)で行われた。参加人数は23人(アメリカ2名、インド2名、オーストラリア3名、オーストリア3名、日本5名、タイ8名)である。

photo. 参会者

参会者集合写真

ワークショップは、1.5日の日程であり、1日目の前半は、CCUDに関連して、参加者による8件の報告が行われた。

  1. Challenges of climate compatible urban development: Towards assessment and scenario framework (Dr. Shobhakar Dhakal, アジア工科大学)
  2. Building sustainable and resilient cities: A social-ecological-infrastructural systems (SEIS) framework (Professor Anu Ramaswami, ミネソタ大学)
  3. Opportunities and barriers to an integrated approach to climate compatible urban development: an adaptation perspective (Professor Darryn McEvoy, ロイヤルメルボルン工科大学)
  4. Scenario framework for mitigation and adaptation challenges and opportunities of urban development (Professor PR Shukla, CEPT大学)
  5. Second assessment report on cities and climate change (ARC2) and needs for an assessment framework and indicators for mitigation, adaptation and urban development (Dr. David C Major, コロンビア大学)
  6. Vulnerability and adaptation of coastal cities in Southeast Asia (Dr. Vilas Nitivattananon, アジア工科大学)
  7. Cities and adaptation challenges and responses, framework and indicators for BANGKOK (Dr. Wijitbusaba Ann Marome, タンマサート大学)
  8. Mitigation and/or adaptation challenges of Tokyo for different urban forms (Dr. Yoshiki Yamagata, 国立環境研究所)

そこでの議論を踏まえ、1日目の後半、2日目の前半では、参加者を10名強の2グループに分け、前者の日程では (1) と (2)、後者では (3) に関して、それぞれグループ内でブレインストーミングを行い、後に全員で結果について再度議論した。

(1) については、緩和・適応・発展の3軸とシナジーとトレードオフを考慮すること、組織・領域の枠を越えた共通のゴールの設定、動的かつ柔軟な適応策、適応能力(adaptive capacity)の閾値、ソーシャルキャピタル等の社会・文化的側面などが重要な点として指摘された。

(2) については、CCUDの具体的な評価手法として、GDPのような経済指標だけでなく、持続可能性指標を活用することの重要性が指摘され、また具体的な評価手法として、ステークホルダーを特定化し、効果を定性的・定量的に示すマトリックス・アプローチや、ケーススタディ・アプローチの有用性などが指摘された。ケーススタディ・アプローチについては、対象地の設定のための、都市の分類等のマクロな視点を考慮することの重要性が指摘された。マクロな視点でのグローバルシナリオのダウンスケーリングによるトップダウンアプローチと、ミクロな視点での住民参加型のボトムアップアプローチの連結の重要性は、CCUDにも当てはまる、古くて新しい課題であろう。

(3) については、現実的な対象年度として2030年が考えられること、シナリオ作成のための、住民参加型のプランニングの重要性、空間を明示したシナリオの重要性等が指摘された。

多様な国、多様な分野の研究者が一堂に会したこのワークショップでは、水、食料、エネルギー、環境問題、社会文化的問題、政策的問題、経済的問題など分野も多岐にわたり、都市による違いを考慮したタイポロジーアプローチの重要性や、都市間で共通の問題について議論が行われた。本ワークショップで構築されたネットワークを通じて提案、研究が行われることが期待される。

3. サイドワークショップ:気候と調和した都市の発展とレジリエンス

2日目の後半は、「気候と調和した都市の発展とレジリエンス(Linking Climate Compatible Urban Development to Resilience)」というタイトルで、筆者らが半日のサイドワークショップをモデレートするかたちで、オーストラリア・オーストリア・日本の研究者より、9件の発表と、本課題に関する国際共同研究の提案に関する議論を実施した。

  1. Reconceptualising peri-urbanisation (Dr. Andrew Millington, フリンダース大学)
  2. Toward a land-use change scenario model for Adelaide (Dr. Simon Benger, フリンダース大学)
  3. Urban ecosystem management (Dr. Florian Kraxner, 国際応用システム分析研究所)
  4. Urban growth strategies under uncertainty (Dr. Sabine Fuss, 国際応用システム分析研究所)
  5. Spatially explicit urban land-use model for managing climate risk (Dr. Hajime Seya, 国立環境研究所)
  6. Evaluation of climate change mitigation and adaptation approach under land-use change scenarios in terms of effect on direct/indirect CO2 emission reduction (Dr. Kumiko Nakamichi, 東京工業大学)
  7. Modeling urban emergencies: Behavioral aspects (Dr. Thomas Brudermann, グラーツ大学)
  8. Electricity information Web-based visualization towards human behavior change for energy conservation (Ms. Kanae Matsui, 国立環境研究所)
  9. Sustainability at the neighborhood scale: Assessment tools and the pursuit of sustainability (Mr. Ayyoob Sharifi, 名古屋大学)

今後の都市発展シナリオの検討では、気候変動の諸側面を考慮しながら、レジリエンスを効率的に達成していくための理論構築や方法論の整備がますます重要になると考える。そのため、本ワークショップでは、環境・文化が大きく異なる3か国の研究者が、それぞれ関連した最新の研究知見を報告し、本トピックに関するブレインストーミングを行った。

前半では特に、土地利用や生態系のモデリングに関連した研究が報告され、後半は、より社会的側面を考慮したアプローチの可能性や具体的な方法論について議論が行われた。われわれの研究チームからは、土地利用モデル(瀬谷)、緩和・適応シナリオ(中道)、エネルギー利用の見える化(松井)について発表した。これらのモデルへの参加者のテストサイトである都市への応用可能性について具体的に議論を実施することができ、国際共同研究に発展するネットワークの構築という意味でも、非常に有意義なワークショップであったと考えている。

なお、本ワークショップに関する詳細なレポートについては、後日に下記のGCPウェブサイトから公開される予定である。(http://www.gcp-urcm.org/

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