2013年3月号 [Vol.23 No.12] 通巻第268号 201303_268005

2012年度ブループラネット賞受賞者による記念講演会 3 所得ではなく豊かさで—バイオキャパシティがもたらす新しい視点—

Dr. Mathis Wakernagel(マティス・ワケナゲル)さん
(グローバル・フットプリント・ネットワーク代表)

2012年11月2日に国立環境研究所地球温暖化研究棟交流会議室で開催された2012年度ブループラネット賞受賞者講演会におけるウィリアム・E・リース教授(ブリティッシュ・コロンビア大学教授、カナダ王立協会[FRSC]フェロー)とマティス・ワケナゲル博士(グローバル・フットプリント・ネットワーク代表)の講演内容(要約)を紹介します。なお、同時に受賞されたトーマス・E・ラブジョイ博士(ジョージ・メイソン大学環境科学・政策専攻教授)の講演要約は地球環境研究センターニュース2月号に掲載しています。

ブループラネット賞および受賞者の略歴については旭硝子財団のウェブサイト(http://www.af-info.or.jp)を参照してください。

はじめに—問題の本質を理解するために必要なこと—

私たちは、人間の需要や地球上で利用可能な物は何かを測ろうとしています。そして、このことの経済への帰結が何かを理解しようとしています。私は皆さんにその手助けをお願いしたいのです。グローバル・フットプリント・ネットワークでは、資源制約をどのように示すことが可能か、ということに注目することから活動を始めました。しかし、上手に示すだけでは実際の行動につながらないことを知りました。そこで、資源制約が私たちにどのように影響するのか知る必要があります。

photo. Dr. Mathis Wakernagel

自然界で実際に起きている問題に対して「この問題の答えは何か」という問いかけではなく、「何がそもそも問題なのか? そして私たちは何を知る必要があるのか?」という問いかけが大切です。つまり「将来にわたり、安全に人間活動を維持するために本当に大事なことは何か?」が重要な問いかけになります。資源が限られたこの惑星で暮らす上で本当に知らなければならないのは、どのくらいの資源があって、どのくらい使っても良いのか、ということです。

非常に直接的な計測方法があります。すべての生き物は地球上で空間を得るために争っています。なぜ、私たちはバイオキャパシティを考えるのでしょうか? エネルギー(厳密には商用エネルギーですが)は、制限要因と考えられています。商用エネルギーの大部分は化石燃料です。しかし化石燃料は制限要因であり、その廃棄物の問題に対応するためにどれだけのバイオキャパシティが必要でしょうか? 私は、中長期的に見てバイオキャパシティが究極的な制限要因であると考えています。

バイオキャパシティの測定方法

バイオキャパシティを通して、地球全体の容量を把握するというのは最初の推定方法としては良いと思います。では、どのように測るべきでしょうか? エネルギーに着目することも良いですが、難しい点はエネルギーが異なる質をもっていることです。私たちは、太陽から17万5000TW(テラワット、1TW = 1012W)のエネルギーを得ています。そのエネルギーは、バイオマスの蓄積過程を通じて150–400TWに転換されます。どこの段階で測るかにより1TWの質が異なるため、比較対象としてエネルギーを用いることが難しくなります。

私たちは、生態学において純一次生産力(Net Primary Production: NPP)と呼ばれるアプローチを使っています。しかし厳密にNPPを考えることは難しいのです。例えば、森林伐採により失われるNPPを考えるとき、土壌や木の葉まで計算に含めますか? 森林の成長時は、根や葉を計算に含めますか? また、どのような時間スケールを考えますか? このようにNPPの使用量と所有量を比較することは難しいのです。そこで、このアプローチのより基本を考えるならば、「どれだけの林産物が供給されているのか、そしてどれだけの林産物が除去されているのか」ということが問題になります。これにより土地タイプごとに比較することができます。このアプローチは、私たちが得ているエネルギーフローの質と量を捉える際に役立ち、供給と需要を比較できます。

この計算方法では、需要のみ、供給のみといった勘定方法の一面だけ知ることはあまり役に立ちません。例えば収入だけわかっていて、支出がわからないなら、その情報は非常に限定的です。ですから、さまざまなスケールで両面を見るためのフレームワークにする必要があります。

計算方法の原理は簡単で、科学に基づいています。私たちが追究している研究の問いかけは非常に特定のもので、あらゆるものに答えるわけではありません。どれだけのバイオキャパシティをもっていて、そして使用しているのかという問いかけです。このことを計算するためのひとつの重要な式があります。使用しているのはこの式だけです。「あなたは何個のトマトを育てていますか? そしてトマトの畑はどれほどの広さですか?」この比率が単位面積あたりの収量となります。この式を用いて、生産するトマトの数を単位面積あたりの収量で割ると、トマトの生産に必要な農地の面積を計算できます。これが考え方のすべてです。

異なる土地を比較することも私たちは行っています。ある土地はとても生産的で、他の土地はそうでもないといった土地生産性の違いがあるため、グローバルヘクタールという考え方に翻訳する必要があります。グローバルヘクタールは、生産性のためにどれだけの大きさの土地が必要かを単に標準化したものです。これがフットプリントであり、バイオキャパシティの計測単位であり、ある年次におけるすべての地球上の生物学的に生産的な土地と海の平均生産性を表します。非常に生産的な土地は世界平均よりも2倍近く生産的であり、2グローバルヘクタールの価値があります。逆に、あまり生産的でない土地はグローバルヘクタールの半分程度の価値しかありません。

資源の使い方が経済に及ぼす影響

各国が自分の国にはない資源に依存する程、経済ゲームへと完全に移行していきます。資源を欲する程、世界中の資源の総量を競い合うようになるからです。これがグローバルオークションと呼ばれる状態です。オークション状態になると、経済が変化します。いくら稼ぐかではなく、限られた資源を競うために他国と比較してどれだけ多く稼ぐのかということが問題になるからです。私が来年2倍稼いでも、あなたが4倍稼げば、私は資源の取り分を大きくすることは難しくなります。ですから私たちが注目すべきなのは、絶対的な収入ではなく、相対的な収入になります。

過去30年間の各国の変化を見ると、多くの国が資源については不足状態に向かっていることがわかります。人々は絶対的にはより多くの所得を得るようになりましたが、相対的には世界の総計に対するシェアを減らしていきました。この事実は私たちが直面している問題を示しており、世界から資源を得ようとするほど、得るための能力が消えていくのです。

photo. Dr. Mathis Wakernagel

私たちができること

今、私たちは何ができるのでしょうか? 所得ではなく、豊かさに注目する必要があります。つまり所得のフローを生み出すストックを維持する必要があるということです。公共政策は「豊かさを生み出しているか、それとも壊しているか」に焦点を当てるべきです。これが問いかけです。私たちは将来に向けたシナリオを作る必要があります。私たちが作ることができる最も起こり得る豊かなシナリオは何でしょうか? 私は何ができるでしょうか? 私なら非常に単純な考えで人々を競わせます。ビジネスでは、収益で競います。同じように公共政策では、究極的には1円あたりで最も持続可能な発展を生み出す方法をめぐって競うことになるでしょう。

あらゆる人と国に問うべきです。「どれだけの資源でどれだけの発展を作り出すことができるのか? そして、世界全体でどれ程の資源をもっているのか?」資源制約の中で世界的な基準に見合う高度な発展が可能な国は、わずか数か国しかありません。

私たちは日本の環境省と共にエコロジカルフットプリントを考察することから始め、私たちが得た数字が日本の数字とどの程度整合するのかについての結果を得ました。次の問いかけは「このトレンドが日本に対して意味するところは何か?」です。私たちがさまざまな国際的機関と共に行ってきているように、今後日本の皆さんと研究したいと強く思います。

成功のための三つのキーポイント

最後に、成功のための三つのキーポイントを示して終わりたいと思います。

  • 自然にも容量があります。あなたがどれだけのバイオキャパシティを持っているか、そしてどれだけ使っているかを知っていますか?
  • もしバイオキャパシティが21世紀の通貨になるのであれば(私はそうなると信じていますが)、その時は相対的なGDPが重要になります。
  • バイオキャパシティが制限要因であると認識した時に最も大切なことは、国や都市にとって資源の不足を減らすために資金をどこに投入するかを知ることが非常に強い自己利益となる、ということです。

(和訳:社会環境システム研究センター 金森有子)

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