2013年2月号 [Vol.23 No.11] 通巻第267号 201302_267009
地球環境研究センタースパコン事務局だより—平成24年度成果報告会を開催しました—
平成24年度スーパーコンピュータ利用研究報告会(以下、報告会)を12月11日(火)に国立環境研究所(以下、研究所)交流会議室で開催した。地球環境研究センター(以下、センター)では、全球規模や地域レベルでの気候変動予測やその影響を評価する地球環境モデルの研究開発や各種予測モデルの精度向上のための基礎研究などを支援する目的で、環境情報部と協力してスーパーコンピュータ(以下、スパコン)を整備し、所内外の地球環境研究者に計算資源を提供し、大気・海洋モデリング、気候変動予測、GOSAT定常処理、地球型惑星流体力学その他数多くの分野で数々の研究成果を生み出してきた。
研究所には、研究所スパコンの利用計画・運用基本方針などを審議する「スーパーコンピュータ研究利用専門委員会」(以下、専門委員会)が設置されており、スパコンの研究利用を希望する所内外のユーザは、年度当初[注]に研究課題を掲げて利用申請を行い、応募された研究課題については、所内のスーパーコンピュータ利用研究審査ワーキンググループ(以下、審査WG)による審査を経て、専門委員会委員の意見を踏まえて、スパコンの研究利用の可否が判定される。また、利用が認められたユーザは、年に一度の報告会で報告を行い、成果発表時には、研究所のスパコンを利用したことを明記することが必須条件となっている。
センターが主催する報告会は、平成18年度末における研究所スパコンの機種更新を機に、位置づけおよび名称が改められ、本年度中間報告、および前年度事後報告の場という位置づけで、原則課題代表者に昨年度の報告会以降の結果報告と今年度申請後の中間報告を行って頂いている。毎年、所内利用だけでなく、所外の利用研究も活発に行われ、平成19年度以降、6回目となる今回は、所内7課題に加えて所外6課題、計13の研究課題の成果発表に対して、所内外合わせて約70名の参加があった(写真1)。

写真1報告会の様子。多くの参加者を集めた
報告会は当日の13時から開催され、まず笹野センター長から、時間を割いて頂いた専門委員会委員、発表者の方々にお礼を述べると共に、本報告会の趣旨の説明として、研究リソースとしてのスパコン利用の説明責任を果たす場であること、および平成25年度以降にスパコンの研究利用を継続するための評価の場であること、さらに、専門委員会委員をはじめとする方々への報告の場であることなどが述べられた。
以下、事務局からの連絡に続いて、各課題の報告者から、平成23年度の研究成果ならびに、平成24年度の中間結果についての報告があった。報告の順序は内容に共通点が見出される課題ごとに分けられ、評価しやすい並びにしてある(表)。発表者からは、最新の研究成果ならびに今後の展望を報告頂くとともに利用研究におけるスパコンの重要性が繰り返し報告された。報告に続く議論も例年になく活発に行われ、専門委員会委員ならびに審査WGの方々からも数々の貴重な意見を頂くことができた(写真2)。私自身も本報告会に2度目の参加となるが、地球温暖化研究におけるスパコン利用の重要性を前回より、より深く再認識できた良い機会になった。
表平成24年度スパコン利用研究報告会の発表者および研究内容一覧
研究課題名 | 課題代表者 (発表者) |
所属 |
---|---|---|
長期気候変動予測と近未来気候変動予測に関わる不確実性の理解と制約 | 塩竈秀夫 (小倉知夫) |
国立環境研究所 |
広域大気汚染物質の発生源別寄与率解析と気候影響評価 | 永島達也 | 国立環境研究所 |
成層圏オゾン層の長期変動とその成層圏—対流圏気候への影響に関する研究 | 秋吉英治 | 国立環境研究所 |
相互比較を通した大気場およびオゾン関連化学種の同化実験 | 柴田清孝 | 気象研究所 |
風波乱流中の気液界面を通しての運動量とスカラの輸送に及ぼす風波と降雨の影響 | 小森悟 (黒瀬良一) |
京都大学大学院 |
系外惑星大気シミュレーションモデルの開発:ダスト過程の実装と火星大気実験 | 石渡正樹 | 北海道大学大学院 |
大気輸送モデルとインバースモデルによる温室効果ガス収支量の推定とその高精度化に関する研究 | Shamil Maksyutov | 国立環境研究所 |
GOSATデータ処理運用システムの定常運用および維持改訂 | 渡辺宏 (幸昭) |
国立環境研究所 |
CAI衛星解析とモデルシミュレーションの統合システムの構築 | 中島映至 (五藤大輔) |
東京大学 国立環境研究所 |
NICAMによる雲降水システムの研究 | 佐藤正樹 (端野典平) |
東京大学 |
全球気候モデルMIROCへの新規陸域モデルの結合とその大気陸域相互作用研究への応用 | 花崎直太 | 国立環境研究所 |
MIROC中解像度版および氷床力学モデルと炭素循環モデルを用いた古気候数値実験と温暖化予測 | 阿部彩子 (吉森正和) |
東京大学 |
全球多媒体モデルを用いた塩素・臭素系有機汚染物質の動態の評価に関する研究 | 河合徹 | 国立環境研究所 |

写真2質疑・応答の風景。活発な議論が行われた
なお、当日報告された内容の詳細については、センターのウェブサイト(http://www.cger.nies.go.jp/ja/activities/supporting/supercomputer/index.html)を参照されたい。上記サイトには、平成24年度分の他、過去の報告会における発表内容に関する情報も掲載されている。
最後に、専門委員会委員長でもある向井副センター長より、今年度調達した新スパコンが平成25年6月に稼働すること、それまで現行システムの運用ならびに今年度の研究課題を継続すること、また、来年度の課題募集は、現在検討中であることなどの事項が伝達され、引き続き、貴重な研究資源としてのスパコンの効率的な運用により、スパコンを有効に活用した、有益な成果の産出が継続的に期待されることなどが述べられ、平成24年度スパコン利用研究報告会の幕は下ろされた。
脚注
- 平成25年度より、「試験的研究利用」(仮称)として、簡易審査のみで利用研究を行うことができる制度を新設する。詳細は、4月以降に改めて周知する予定。