2013年2月号 [Vol.23 No.11] 通巻第267号 201302_267001

気候変動枠組条約第18回締約国会議(COP18)および京都議定書第8回締約国会合(CMP8)報告 政府代表団メンバーからの報告 (1):第二約束期間スタート、将来枠組みに向けた作業の骨格も明らかに

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 畠中エルザ
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 ホワイト雅子

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)報告 一覧ページへ

2012年11月26日〜12月8日に、カタール・ドーハにおいて国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第18回締約国会議(COP18)および京都議定書第8回締約国会合(CMP8)が開催された。これと並行して、強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)第1回会合(第2部)、気候変動枠組条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(AWG-LCA)第15回会合(第2部)、京都議定書の下での附属書I国の更なる約束に関する特別作業部会(AWG-KP)第17回会合(第2部)および第37回補助機関会合(科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合:SBSTA37、実施に関する補助機関会合:SBI37)が開催された。国立環境研究所からは、日本政府代表団(交渉)、サイドイベント(発表)、ブース(展示)という三つの立場で参加した。以下、政府代表団による交渉とサイドイベントについて概要を報告する。展示ブースについては、国立環境研究所ウェブサイト(http://www.nies.go.jp/event/kaigi/cop18/index.html)に掲載。

photo. 開会全体会合

COP18開会全体会合で挨拶するアティーヤ議長

1. AWG-KP終了、第二約束期間開始へ

今次カタール会合では、いくつかの重要なCOP、CMP決定を合わせてドーハ気候ゲートウェイという合意事項のパッケージが取りまとめられた。なかでも最大の成果は、京都議定書の第二約束期間設定のための議定書の改正案が採択されたことだろう。2005年のCMP1会合においてポスト2012年の附属書I国のさらなる約束の検討を目指しAWG-KPが立ち上がってから7年、3度の作業期限延長を経てようやく一つの合意に辿り着いたことになる。その主な内容は、まず第二約束期間の長さを2013年1月1日から2020年12月31日の8年とすること、そして各国の削減目標について、2014年までに再検討を行うということだった。低いレベルの削減目標に長期間しばられないようにと、特に小島嶼国連合(AOSIS)が支持していた5年の約束期間では合意は得られなかったが、代わりに約束期間の早いうちに削減目標を見直すということになったものである。主要参加国は、EU、豪州等、参加しない主な国は、もともと京都議定書を批准していない米、2011年末に脱退した加、そして第二約束期間において削減目標をもたないことにした露、日本、ニュージーランドである。

なお、削減約束をもたない国のクリーン開発メカニズム(CDM)、共同実施(JI)、国際排出量取引によるクレジットの獲得・移転は、原則としてできないこととなった。(ただし、第二約束期間において削減目標をもたない国もCDMプロジェクトに参加して2013年以降のCDMクレジットを原始取得(自国に転送)することは可能)また、第一約束期間において生じた余剰排出枠は、その多くが市場経済移行国の経済の低迷によって生じたものであり、真の削減努力を反映しているとは言い難いことから、一定の制限が設けられ第二約束期間に繰り越されることとなり、併せて日本をはじめ、EU、豪州、スイス等がこれを購入しないことを宣言することとなった。

こうして、AWG-KPはその役目をまっとうしたとして、終了することとなった。

2. AWG-LCAも作業を完了

AWG-LCAは、2007年のCOP13会合において長期的な事項について検討する場として条約の下に立ち上げられ(バリ・アクションプラン)、共有のビジョン[注]、緩和、適応、技術、資金等について取り扱うマンデートが課せられた。そして、3度の作業期限延長を経てこれらバリ・アクションプラン事項の検討が完了し、一部の事項については、今後継続して議論される場がSB等において与えられることとなった。先進国の緩和については、SBSTAの下で削減目標の内容を明確にするための作業プログラム(2013年〜2014年)が開始されることとなり、途上国の緩和については、SBIの下で途上国による適切な緩和行動の多様性に関する理解を深めるための作業プログラム(2013年〜2014年)が開始されることとなった。また、適応に関しては適応委員会、技術については技術執行委員会・気候技術センター、資金については緑の気候基金・常設委員会等がすでに立ち上がっている。その他、長期的資金の提供に関する作業プログラムを2013年末まで1年延長するCOP決定等も今次会合で採択された。

これらの決定により、AWG-LCAはその役目をまっとうしたとして、今次会合で終了することとなった。

3. ADPは作業計画を策定

2011年のCOP17で立ち上げられたADPは、野心レベルの引き上げ、すなわち世界全体で現在目指しているレベルを上回る排出削減等の達成に資するような、新たな議定書、その他の法的文書、または法的効力を有する合意成果を作成するプロセスと定義づけられている。当該プロセスで作成された成果文書は先進国・途上国を問わずすべての国に適用され、2020年から発効・実施させることとなっており、ADPはそのための作業を2015年までに完了することとされている。

今次会合では、主に今後の作業の進め方が議論された。2013年は会合を3回または4回開催、2014年と2015年は少なくとも2回ずつ開催し、その他ワークショップを実施することとなった。また、2013年の議論は、各国に以下の事項等について意見提出を求め、その内容を踏まえて進めてゆくこととなった。2015年に合意すべき内容に関しては、(1) 条約の諸原則(例えば共通だが差異ある責任の原則)のADPへの適用、(2) 条約下の他のプロセスや、他の多国間プロセスから得られた知見の適用、(3) 2015年合意のスコープ、構造、設計、(4) 強化された行動をどのように定義づけ、反映するかが挙げられる。また2020年以前の緩和に関する野心レベルの引き上げについての作業内容に関しては、(1) 緩和および適応の便益、(2) 障壁およびそれらを克服するための方策、行動のためのインセンティブ、(3) 実施を支援するための資金、技術、キャパシティビルディングがある。

なお、交渉のための文書案については、2015年5月までに準備することを目指し、遅くとも2014年末のCOP20までにその構成要素について検討を行うことを決定した。

4. その他決定事項

ドーハ気候ゲートウェイに含まれる重要なCOP決定の一つに、損失および損害に関する決定がある。これは、気候変動の悪影響に対して特に脆弱な途上国において、気候変動の悪影響に伴い生じる損失および損害に関する対応を行うための、「例えば国際メカニズムのような制度的取り決め」を2013年末のCOP19までに作ることをうたっているものである。国際メカニズムはあくまでも例として挙げられているものの、資金を要するものであるため、拠出をする側の先進国は慎重な姿勢を見せているところだが、この決定によって、適応ではもはや対応できない途上国の気候変動による損失や損害に対処してゆくための第一歩を踏み出したことになる。

SB会合については、筆者らが担当しており、透明性確保の観点から重要なテーマの一つとなっている温室効果ガスインベントリ、国別報告書関連事項について、以下に概要を報告する。

上記関連議題は、その多くがCOP17会合におけるAWG-LCA関連の決定を受けて、SBSTAおよびSBIで議論されることになったものである。2014年1月1日から報告が始まる先進国の隔年報告書の共通報告様式については、新たな市場メカニズム等、他議題の下での議論を受けて取り扱い方の議論が難航し、最終的にはSBSTAの閉会全体会合に間に合わず、閉会後も議論を続けたのち、ようやく採択に至った。先進国のインベントリ、国別報告書、隔年報告書の審査ガイドラインの整理・統合に関しては、COP19において新ガイドラインを採択することがCOP17で決まっていたが、改訂中のインベントリの報告ガイドラインの最終的なCOP採択がCOP19で予定されていることや、関係者の作業負荷の観点から、国別報告書・隔年報告書についてはCOP19にて、インベントリはCOP20にて採択するという、それぞれ異なる作業期限を設けることで最終合意に至った。

途上国の隔年報告書の品質担保の役割を担う国際協議・分析(ICA)を行う技術専門家チームの構成等については、そのあり方をCOP18において採択することがCOP17で決まっていたが、前回SB36会合では結論に至らなかった。その理由は、本来はキャパシティビルディングの機能を担うはずの、途上国の国別報告書の作成支援を行ってきた専門家グループ(CGE)に、上述したICAの一部を担わせようという意見が途上国から出されたためである。今次会合でも上記ICAに関する議題とは別に「非附属書I国の国別報告書に関する専門家協議グループの活動」という議題がSBIで立っており、本専門家グループの2013年以降の存続・マンデートの検討が別途行われるはずであったが、議論の内容が密接に関係することから、両議題ともSBI閉会後も議論を継続したが結論は出ず、各国の意見を併記する形でCOP決定に記載するに留まった。なお、CGEの活動期間は、ひとまず現行マンデートのまま1年間(2013年まで)延長することとなった。

5. 今後に向けて

今次COPは、今までとられた決定を淡々と実施に移してゆくといった様相が強かったように思われる。中東で初の開催ということではあったが、参加者も減って、地味なCOPだったと言えるかもしれない。

今回詳細が決定された京都議定書第二約束期間は、世界全体の排出のうち、一部の国の排出のみを法的拘束力のある枠組みでしばることになる。一部でも法的に拘束されることが確保されたことは歓迎すべきことだが、そのカバー範囲をみると、前述の通りわが国を含め、多くの主要排出国が含まれておらず、削減効果において不十分な状態にある。一方で、ADPは、今次会合で、遅くとも2014年末のCOP20までに交渉のための文書案の構成要素について検討を行うことを決定しているが、翌年のCOP21での将来枠組みの採択を目指す中では少し歩みが遅い印象である。2020年までまだ時間があるとはいえ、将来枠組みは、京都議定書の第一約束期間、第二約束期間において削減約束を負うことにした国々よりも広い範囲を網羅することを目指すと考えられ、ステークホルダーが増えることにより調整はさらに難航することが予想されることから、交渉のさらなるスピードアップが望まれるところである。

今次会合では、次回のCOP19の開催地がポーランド・ワルシャワに決定した。また、このまま順調に交渉が進めばADPにおいて大きな成果が見込まれるCOP21に関しては、フランスがホスト国を務めることについて関心を表明した。真に華やかな成果がCOP21で得られるよう、各国が、ワルシャワおよびその後のCOPと、限りある議論の機会を大切にして交渉を進めることを期待する。

脚注

  • 排出削減のための長期目標の設定を含む長期的協力のための行動に関する共有のビジョン。

略語一覧

  • 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change: UNFCCC)
  • 締約国会議(Conference of the Parties: COP)
  • 京都議定書締約国会合(COP serving as the Meeting of the Parties to the Kyoto Protocol: CMP)
  • 強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Durban Platform for Enhanced Action: ADP)
  • 気候変動枠組条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会(Ad Hoc Working Group on Long-term Cooperative Action under the Convention: AWG-LCA)
  • 京都議定書の下での附属書I国の更なる約束に関する特別作業部会(Ad Hoc Working Group on Further Commitments for Annex I Parties under the Kyoto Protocol: AWG-KP)
  • 科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice: SBSTA)
  • 実施に関する補助機関会合(Subsidiary Body for Implementation: SBI)
  • 小島嶼国連合(Alliance of Small Island States: AOSIS)
  • クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM)
  • 共同実施(Joint Implementation: JI)
  • 国際協議・分析(International Consultation and Analysis: ICA)
  • 専門家協議グループ(Consultative Group of Experts: CGE)

PaperSmart!?

ホワイト雅子

紙媒体での配布物のない大規模な国際会議を初めて体験した。ドーハの会合で適用されたPaperSmartは、国連のIntegrated Sustainable PaperSmart initiativeに基づき、紙の浪費の抑制、廃棄物の削減、情報の配布効率性の改善等を含む環境面からの持続可能性の向上を目的として、同機関のIntegrated Sustainable PaperSmart Services(ISPS)事務局が打ち出した新しい取り組みである。2012年6月にリオデジャネイロ(ブラジル)で開催された国連持続可能な開発会議(UNCSD)において実践され、成功を収めたことから、UNFCCC事務局とUN-ISPS事務局の連携の下、COP18/CMP8においても実施された。ペーパーレス化実施のためのアプローチは次の4通り。ISPS Portal(各文書を順次閲覧・ダウンロードできるウェブサイトを開設)、ISPS e-Publish(モバイルデバイス/タブレットでポスターのQRコードを読み取り文書をダウンロード)、ISPS Media(通信機器のついていないPCを持つ参加者等にはUSBメモリで配布)、ISPS Print-on-demand(最後の手段として、一か国に対して5部を上限に文書を紙媒体で配布)。UNFCCCのウェブサイトには、当該アプローチにより節約された紙の枚数・木の本数、前回会合と比較した紙の削減割合を示すCOP18/CMP8 Tree Counterなる情報も公表された。今後もこの取り組みの進捗を注視したい。

photo. ISPS e-Publish

新たな試み「ISPS e-Publish」のQRコード

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