2012年12月号 [Vol.23 No.9] 通巻第265号 201212_265009
オフィス活動紹介:温室効果ガスインベントリオフィス(GIO) 温室効果ガスインベントリの相互学習ファシリテーターとして
1. 相互学習とは
温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)は、アジアの途上国に対して各国の温室効果ガスインベントリ整備の支援を継続的に実施してきました。代表的な支援活動として、2003年度から毎年度開催している「アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ(WGIA)」[1]があります。WGIAでは、途上国への情報提供や啓発活動の基本スタイルとして講演形式(plenary session)や実地訓練形式(hands-on training)等を取ってきましたが、2011年度からはより実践的な「相互学習」(mutual learning)を取り入れています。
二国間でインベントリ(温室効果ガス排出吸収量算定ファイルおよび算定方法説明文書)を交換し、他国のインベントリを学習し、お互いのインベントリの向上を目指して議論する活動をGIOでは相互学習と呼んでいます。相互学習は2008年度から2010年度まで年一回日韓間で実施してきました[2]。2011年度にWGIAに組み込む形で、WGIA参加国(東アジアおよび東南アジア14カ国)に対象を拡大して実施したところ、参加者から相互学習の継続が支持されたため、2012年度も実施しました(これまでの参加国は表1を参照)。
表1相互学習参加国
年 | 参加国 | 分野 |
---|---|---|
2008–2010 | 韓国、日本 | 廃棄物 |
2011 | インドネシア、モンゴル | エネルギー |
ラオス、日本 | 土地利用、土地利用変化及び林業 | |
カンボジア、韓国、インドネシア | 廃棄物 | |
2012 | インドネシア、ベトナム | 農業 |
中国、韓国 | 廃棄物 | |
カンボジア、タイ | エネルギー | |
インドネシア、日本 | 工業プロセス |
2. 相互学習にかかる準備
相互学習は実施のおよそ半年前から準備が始まります。一例として2012年に開催されたWGIA10の場合を表2に示します。
表2相互学習の準備過程の概略(WGIA10の場合)
2011年11月 | 参加募集開始 |
---|---|
2012年1月 | 参加国組み合わせ決定 |
3〜4月 | GIO経由でインベントリを交換 |
5月 | 参加国は相手国インベントリに対する質問・コメントをまとめ、GIO経由で質問・コメントシートを交換 |
6月 | 参加国は受領した質問・コメントシートに回答をつけ、GIO経由で交換 |
7月 | WGIA10において、対面による質疑応答・意見交換 |
まず、WGIA参加国から相互学習参加の希望をとり、組み合わせを決定します。各国のインベントリ担当者は相互学習に用いる資料を準備します。相互学習で用いる資料は公開されている資料もありますが、一般には公開されない算定ファイルやまだ内部検討段階のファイルといった相手国にとって新鮮な情報が含まれることもあります。
その後、準備した資料を交換し、互いに相手国の資料を熟読し、質問やコメントを所定のシート(図)に記入します。質問・コメントシートには相手国のインベントリの良い点(good practice)や相手国の資料からは読み取れない点に対する質問等を記入します。質問・コメントシートが相手国から自国に送り返されると、各国は相手国からの質問への回答を作成し、相手国に送付します。

図相互学習で交換する質問・コメントシートの例
以上の過程を経て、事前準備完了となります。WGIA当日、非公開の場で両国のインベントリ編集の実務担当者(行政官、研究者、専門家等、国により異なる)が対面し、事前に交換した資料や質問・コメントシートを参照しながら、質疑応答や意見交換を行います(写真)。GIOはファシリテーターとして、また参加国として、事前準備から当日の進行までの全過程にわたって相互学習を運営しています。

写真廃棄物分野の相互学習の様子(2012年、参加国:中国および韓国)
3. 参加国の反応
WGIA10では対面による議論を三時間半に設定していましたが、参加国の中には、「時間が不足した」「改善状況をフォローアップする機会が必要」といった意欲的な意見がありました。こうした意欲的な発言が参加国から出された背景には、双方向の議論を通してさまざまな発見があったためと考えられます。また、実際に使用されているデータを資料に用いたため、今後のインベントリ編集に直結する具体的な議論がなされたと推察します。さらに他国のインベントリを学習することで改めて自国のインベントリに向き合うことになり、インベントリ作成能力向上につながることが期待されます。
脚注
- 平井圭三「『第10回アジアにおける温室効果ガスインベントリ整備に関するワークショップ』の報告」地球環境研究センターニュース2012年9月号
- 尾田武文・小野貴子「オフィス活動紹介:『日韓温室効果ガスインベントリ相互レビュー』開催報告〜インベントリ作成の国際パートナーシップ〜」地球環境研究センターニュース2010年1月号および、早渕百合子「オフィス活動紹介:日韓温室効果ガスインベントリ会議報告—温室効果ガスインベントリ相互学習—」地球環境研究センターニュース2011年1月号
(文責:小坂尚史)