2012年8月号 [Vol.23 No.5] 通巻第261号 201208_261001

気候変動枠組条約および京都議定書の特別作業部会会合(AWG-ADP1、AWG-LCA15、AWG-KP17)並びに補助機関会合(SB36)報告

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 畠中エルザ
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 玉井暁大

2012年5月14日〜25日に、ドイツ・ボンにおいて、「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会」第1回会合(ADP1)、「国連気候変動枠組条約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会」第15回会合(AWG-LCA15)、「京都議定書の下での附属書I国の更なる約束に関する特別作業部会」第17回会合(AWG-KP17)および「科学上及び技術上の助言に関する補助機関会合」並びに「実施に関する補助機関会合」第36回会合(SBSTA36、SBI36)が開催され、日本政府代表団の一員として国立環境研究所から温室効果ガスインベントリオフィスの畠中、玉井らが参加した。以下に測定・報告・検証(MRV、地球環境豆知識 [18] 参照)、温室効果ガスインベントリ、国別報告書関連事項を中心に、会合の概要を報告する。

1. ADP1

今次会合の中で最も重要だったのは、昨年末に開催されたダーバンのCOP17で設置が決定されたADPがいよいよ開始されたことだろう。本作業部会は、野心レベルの向上、すなわち世界全体で現在目指されているレベルを上回る排出削減の達成に資するような、先進国・途上国を問わずすべての国に適用される法的性質を有する合意文書を2015年までに作成することを目的としている。今次会合はその初回会合となったわけだが、その政治的な重要性を反映して、議論はなかなか進まなかった。会合前からの交渉を経て、ボンでの二週間の最終日まで、ほとんどすべてが議長等の選出に費やされ、それ以外はかろうじて議題を採択したに留まった。

気候変動枠組条約における意思決定はコンセンサス方式が原則である。しかし今回の議長選出については、3人の候補のうち2人がG77+中国[注]から挙げられ、中でも温暖化対策に積極的な小島嶼国連合がトリニダード・トバゴのクマールシン氏を推したことで、一時は選挙を実施するという話がでたほどもめることとなった。最終的には、年末のCOP18における承認を要するが、本年から来年半ばまではインドのマウスカル氏(環境森林省特別次官)、ノルウェーのドヴランド氏(元AWG-KP議長)が共同議長を務めることとなった。2013年後半から2014年までは、前述のクマールシン氏が附属書I国からの選出者とともに共同議長を務め、2015年には、非附属書I国の共同議長をアフリカグループから選出することが決定した。議題としては、一旦 (1) 2020年以降の新たな枠組みの構築、(2) 2020年以前の緩和に関する野心レベルの向上、の二つについて議論を進めてゆくことが決定した。(2) をADP下で議論することは、途上国の緩和に関する野心レベルの向上も議論の対象に含まれることを意味するので、中国等の一部途上国が反対したが、COP17での議論を蒸し返さずADP下で議論することを他の多くの国が支持してこのような結果になった。

その他、COP17で決定されていた、緩和に関する野心レベルの向上についてのワークショップが会合期間中に開催され、各国・国際機関・NGO等からプレゼンがなされ質疑応答が行われた。

photo. マウスカル氏

ADPの共同議長に就任するマウスカル氏(インド)

2. AWG-LCA15、AWG-KP17

AWG-LCA、AWG-KPとも、会期2日目、5月15日から始まった。AWG-LCAについては、今年中の作業完了がCOP17で決定している。しかし、議論の進め方について、バリでAWG-LCAの立ち上げが決まった際のマンデート(委任事項)がすべて網羅されるよう、バリ行動計画に立ち返りそれぞれの項目について議論が尽くされたことが確認されてから作業を完了させるべきとする一部途上国と、バリ以降の議論の進捗、とくにカンクンやダーバンで合意に達した点に注力して議論を進めてゆくべきとする先進国とが対立した。最終的には、議題によってはカンクンやダーバンにおいて決定がなされ、進捗しているものもあり、これに鑑み、AWG-LCA下で追加作業を要しないものもありうるという注が議事次第案に付された。

作業としては、AWG-LCAの下に一つのコンタクトグループを設け、そこで適応、資金等が議論され、その他にスピンオフグループを設けて先進国の緩和、途上国による適切な緩和行動(NAMA、地球環境豆知識 [17] 参照)、新メカニズム等について話し合いが進められたが合意には至っていない。議論は一旦休止され、8月末からのバンコク会合で再開されることとなった。

なお、COP17で決定されていた、持続可能な開発への衡平なアクセス、先進国の緩和、途上国による適切な緩和行動、新メカニズムに関する五つのワークショップが会合期間中に開催され、各国からプレゼンがなされ質疑応答が行われた。

AWG-KPでも、来年からの京都議定書第二約束期間開始を前に、決定を要する事項が多い。今次会合でも第二約束期間参加各国の数値目標の設定、約束期間の長さや、第二約束期間における柔軟性メカニズムの使用継続の如何等の議論が進められたが合意には至っていない。AWG-LCA同様、AWG-KPでの議論も一旦休止され、8月末からのバンコク会合で再開されることとなった。

3. SBSTA36、SBI36

今次SB会合は、珍しく5月14日〜25日の全日程が会合に充てられ、年末のCOP18を前に、なるべく多くのトピックについて技術的な議論を進めておきたいという運営側の意向が反映されていたように思われる。しかし、ふたを開けてみると、さまざまなことが決定されたCOP17を受け、まず今後どのように議論を進めてゆくかを話し合う場になったと言えるだろう。

インベントリ等を含むMRV関連事項では、前回AWG-LCA会合での決定を受け、SBSTAおよびSBIに議論の場が移されたものが多かった。先進国の隔年報告書の共通報告様式は、COP18において採択されることがCOP17で決まっていた。そのため、まだ作業は多く残っているものの、今次会合では他の議題よりも議論の進みがよかったと言えるだろう。夏の間の各国からの意見提出を踏まえ、秋口にワークショップを開催し、COP18での採択を目指す。ここで決定された様式に従い、先進各国は2014年から隔年報告書関連の情報を提出してゆくこととなる。

先進国のインベントリ、国別報告書、隔年報告書の審査ガイドラインの整理・統合に関しては、COP19において新ガイドラインを採択することがCOP17で決まっていた。ワークショップで細部を詰める等の作業は来年に先送りされ、今年はひとまず審査ガイドラインの整理・統合の進め方に関して秋に各国からの意見提出を求めることとなった。途上国の国内MRVに関するガイドラインについては、「議論を継続する」ことのみが決定され実質的な進展はあまり見られなかった。

途上国の隔年報告書の品質担保の役割を担う国際協議・分析(International Consultation and Analysis: ICA)を行う技術専門家チームの構成等については、COP18においてそのあり方を採択することがCOP17で決まっていた。今年の春に提出されていた各国意見を踏まえ、実質的な議論が進んだが、まだCOP採択まで時間があることもあり、各国意見を、折り合いをつけない併記の形でSBSTAの結論文書に記載するに留まった。

筆者らが担当していた議題の一つに「非附属書I国の国別報告書に関する専門家協議グループ(Consultative Group of Experts: CGE)の活動」というものがあった。CGEとは、途上国の国別報告書の作成支援を行う専門家グループであり、期間を区切ってマンデートを定められ、活動している。現在のCGEは2012年一杯でマンデートが切れるため、今後どのような形で支援を行うか、ちょうど見直しのタイミングがきている。上述したICAをCGEの次期マンデートに追加するという意見がブラジル等一部の途上国から出される等したため、SBSTAとSBI、それぞれ議題化されていたものの、内容が連動することから、本議題についても結論は出ず、各国意見を、折り合いをつけない併記の形でSBIの結論文書に記載するに留まった。

その他、温室効果ガスインベントリの算定において重要な要素である温暖化係数等、温室効果ガスの二酸化炭素換算量を計算するための共通の指標に関するSBSTAの議題においては多少進展があった。その政策的な重要性から、新たな指標に関する研究の進捗等について情報共有がなされるよう、政策と研究の対話の場を継続的に設けることを一部の国が主張し、IPCC第5次評価報告書(AR5)の関連する作業部会の成果が概ね出揃うSBSTA40会合(2014年)においてワークショップが開催されることとなった。

なお、昨年末のCOPと併催された京都議定書第7回締約国会合(CMP7)において土地利用、土地利用変化及び林業分野、柔軟性メカニズム、インベントリの算定に関する方法論等についていくつか重要な決定が出たことが過去の京都議定書の実施手続きに関するCMP決定にどのような影響を及ぼすか、すなわち第二約束期間に向けての手続きの整理もSBSTA下で始まった。これも第二約束期間を前に、COP18までに結論を出さなくてはならないため、今年の秋に各国からの意見提出を求め、COP前にワークショップを開催しCOPに備えることとなる。

筆者らと関係が深いMRV関連事項については、上述のとおりCOP18やCOP19までに結論を出さなくてはならない事項が多い。また、来年春までには附属書I国のインベントリの報告義務を規定する気候変動枠組条約報告ガイドラインの試行作業を行い(経緯は地球環境研究センターニュース2012年2月号参照)、COP19で報告ガイドラインを最終的に採択する必要がある。2014年の年頭には初の隔年報告書提出を控え、その準備作業を行う必要が出てくる。併せて、2013、2014年のどちらかの年には京都議定書第一約束期間中一度は必ず実施されるインベントリの訪問審査が見込まれる。また、2014年は京都議定書第一約束期間中最後のインベントリ提出や、年頭に提出した隔年報告書の国際評価・レビュー(International Assessment and Review)対応、国別報告書の訪問審査対応等を予定している。途上国の国別報告書や隔年報告書、およびそれに含まれるインベントリ関連の作成支援作業や、ICA関連作業等、関係者の作業負荷およびコスト面での負荷については条約事務局をはじめ戦々恐々としているところである。制度が変わる時に技術的作業量が増加するのは当然のこととはいえ、なるべく現実的かつ実効性のある仕組みになることを期待する。

4. おわりに

今回の会合の特徴は、先進国対途上国という図式一辺倒ではなく、いよいよ途上国間で意見が明確に異なる部分が出てきたことである。途上国とひとくくりに言っても、どんどん経済発展していて、そう簡単には義務的な排出削減の責任を負いたくない新興国もいれば、気候変動影響の最前線に曝されていて国としての存続が危ぶまれる島嶼国がいる。その中間にあるような途上国もいれば、日々の生活そのものにあえぐ後発途上国もいて、当然ながらそれぞれのニーズは異なる。ADPという、すべての国の排出削減に対する責任を議論することができる場ができた今、そこで実際にどのような内容を議論するか道筋をつける初期段階でそれぞれの意見の相違が明確になるのは当然のことだろう。議長の選出ではこれが特に明白になったが、筆者らが担当していたような技術的に細かい議題においても同様の傾向が見られ、交渉がますますまとまりにくくなってゆくことが考えられる。

COPには、事務レベルの担当者だけではなく、閣僚級の参加者が増えるため、大きな課題については、結論を出す良い機会になる。その一方で、参加者が多く、非常にせわしいので、細かい議論を前に進めるのが難しい場合もあると言われている。COP18のホスト国カタールには、MRV関連事項を含め、実質的な議論のための時間を確保できるようなうまい議事運営を期待したい。

*玉井暁大は2012年7月末まで在籍・2012年9月よりJICA気候変動対策プロジェクトの長期専門家としてベトナムに赴任予定。

脚注

  • 途上国最大の交渉グループ。中国やインド、ツバル、ジンバブエ、サウジアラビア等が参加している。

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