2012年6月号 [Vol.23 No.3] 通巻第259号 201206_259010

平成24年度科学技術週間に伴う一般公開「ココが知りたい温暖化」講演会概要 省エネ製品への買い替え判断〜LCAという考え方〜

田崎智宏 (資源循環・廃棄物研究センター 循環型社会システム研究室 主任研究員)

4月21日(土)に行われた科学技術週間に伴う国立環境研究所一般公開「春の環境講座」において、地球環境研究センターは、講演会「ココが知りたい温暖化」を開催しました。講演内容(概要)をご紹介します。なお、「春の環境講座」の報告は地球環境研究センターニュース2012年5月号に掲載しています。

みなさんは家電製品を買い替えるとき、なにを考慮して選びますか。価格、機能、サイズ、もちろん省エネ性能もあります。本日は、環境のことを考えたら今買い替えすべきかということをお話しさせていただきます。

1. 家庭でのエネルギー消費

photo. 田崎智宏主任研究員

1970年代は家庭で使用されるエネルギーの3割くらいを電気が占めていました。2009年度にはエネルギーの全体量は1.3倍に増え、電気に使用される割合も5割になっています。家庭の電力消費のなかでもっとも大きいのはエアコンで、次いで冷蔵庫、テレビの順です。次に、これらの製品の省エネ性能がどの程度向上しているかについてお話します。10年前と比較すると、20型のテレビとエアコンは年間消費電力量がかなり小さくなっています。冷蔵庫は、大きいサイズのものでも消費電力量が大幅に減っています。家電三品目の使用エネルギー消費改善率はかなり進んでいますから、もったいないから製品を長く使うということがかえってエネルギーを無駄に使ってしまい、「もったいない」状況を引き起こしてしまうこともあるのが今の状況です。

2. 製品の買い替え判断とライフサイクル・アセスメント(LCA)

(1) 買い替えをすることが決まっていて、どの製品がよいかを決める場合と、(2) 今使っている製品が使えるのに早めに買い替える場合、は似ているようで違います。(1) は新製品で統一省エネラベルなどを目安にして環境性能がよいものを選べばよいです。(2) の場合は新製品だけでなく、現在保有している製品の環境性能も考えないときちんとした評価ができません。今持っている製品があと5年間使えるので継続使用する場合と新しい製品に買い替える場合、各年の使用時の環境負荷量だけを考慮すればいいのではなく、製品のライフサイクルと環境問題を考慮しなければなりません。製品を作り、販売の流通経路をたどって廃棄するまで、それぞれのライフステージで環境への負荷が発生しています。ライフサイクル全ての環境負荷や環境影響を評価することを「ライフサイクル・アセスメント(LCA)」といいます。

製品のライフサイクルにおけるエネルギー消費を視野に入れて製品の買い替えを考えた場合、新しく購入する製品の使用時だけではなく、新製品の非使用時(製造・廃棄等)のエネルギー消費量、今持っている製品の廃棄によるエネルギー消費量を想定することになります。ちなみに、ライフサイクル全てにおけるエネルギー消費のなかで製造の割合は、家電が1割、自動車が2割と言われており、これを想定しなければなりません。継続使用する場合でも早めに買い替える場合でもいずれ廃棄するので、今持っている製品の廃棄やリサイクルに伴うエネルギー消費量に違いは出ないと考えることができます。新製品の製造等に伴うエネルギー消費量が買い替えの判断に影響を及ぼします(なお、平均で10年使う製品を5年で買い替えたという場合、新製品の非使用時のエネルギー消費量は使った年数分だけを割り当てた値を考慮します)。製品を買い替える場合、今持っている製品よりも(使用時の)年間消費電力量がほんの少し削減されただけ(例えば3%とか)では、製造等に伴うエネルギー消費量を考慮すると、省エネしたつもりが「増エネ」(エネルギー増加)になってしまうこともあります。

fig. 製品買替における環境負荷の発生の概念図

製品買替における環境負荷の発生の概念図

3. 大型製品とトップランナー機種への買い替え

28インチのブラウン管テレビを2008年に平均的な薄型テレビへ買い替える場合の年間電力消費量を考えてみたいと思います。使用時エネルギー消費量を新製品と現保有製品とで比較してみると、現保有製品の購入時期が5年以上前なら同サイズから5インチくらい大きいものに買い替えても省エネになります。しかし、10インチ以上大きいものに買い替えると増エネになりがちです。使用年数が10年以内の21インチのブラウン管テレビで同じように比較すると、同サイズから10インチ増まですべての条件で、増エネになってしまいました。

同種類の製品のなかで性能が最も優れている製品を「トップランナー(機種)」といいます。日本では、省エネ法により製品メーカー等に省エネ製品開発等の努力義務を課しており、その努力判断基準として、トップランナー機種の省エネ性能が用いられています。では、トップランナー機種に買い替える場合はどうでしょう。先ほど全て増エネとなった21インチのブラウン管テレビについてですが、これを2008年にトップランナー機種に買い替える場合、5インチ大きいものに買い替えるのであれば、今持っている製品を購入してから5年以上経過しているなら省エネになるので買い替えてよいです。しかし、すでに以前に当時のトップランナー機種を買っているなら、省エネ効果は大きく減少します。一方、冷蔵庫は省エネ技術が大幅に進んでいます。100リットル容量アップした場合でも、トップランナー機種からトップランナー機種に買い替えた場合でも、どちらも省エネになります。

4. よく使う製品、あまり使わない製品

テレビの一日の平均使用時間は実態ベースで約5時間、エアコンについては、冷房は約6時間、暖房は約5時間です。これは平日と休日の使用時間をもとに算出した平均使用時間です。しかし、その倍以上使う人も、その半分以下しか使わない人も存在します。製品買い替えにおけるエネルギー消費を考えた場合、よく使う製品は使用時のエネルギー消費量が多くなり、あまり使わない製品は小さくなることから、よく使う製品はより早めに買い替えてよいのですが、あまり使わない製品は買い替えると増エネになってしまう場合があります。

条件がいろいろあるとわかりにくくなってしまうので、製品買い替えの判別式を用いていろいろな条件で計算をしてみました。私どもの研究により、買い替えによる省エネ性能の向上と、使用時以外の環境負荷の寄与(製造等のエネルギー消費が大きいか)の二つのパラメータで環境面からの買い替え判断ができることがわかったので、それをもとに判別式を作成しています。エアコン(8〜10年経過後の買い替え[2.8kW])については、あまり使わないエアコン(年間500時間未満)は買い替えすべきではないという結果でした。ただし、平均機種からトップランナー機種に買い替える場合は、あまり使わないケースであっても買い替えすべき場合があります。また、テレビ(8〜10年経過後の28型ブラウン管から薄型)についても同様で、あまり使わないテレビ(1日2時間未満)については買い替えはお薦めできません。トップランナー機種もしくは同サイズのテレビへの買い替えであれば、あまり使わないテレビであっても買い替えすべき場合がありますが、それ以外は買い替えをお薦めできません。平均的な10インチ上のものへの買い替えであれば、よく使うものであっても避けるべきでしょう。

5. エネルギー以外の資源消費の考慮

エネルギー以外の資源消費を考慮することも重要です。テレビを作るときに、鉄や将来の供給が心配されている銅などを使います。エネルギー・温暖化問題と資源問題とどちらが重要かとなると科学的になかなか結論がでませんし、かなりの価値判断を含む問題です。それでもある程度の判断ができたらいいだろうと考え、製品買い替えの判別式を用いて計算してみました。冷蔵庫の資源総消費量とエネルギー総消費量が同程度に深刻な問題をもたらすと考えてみます。この場合、エネルギー以外の資源消費を考慮したとしても8〜10年経過した冷蔵庫を買い替え(新しい製品が351〜400リットル)すべきという結果は変わらず、買い替えは環境負荷の低減につながるという結果になりました。冷蔵庫については、エネルギー消費以外の環境問題を心配せずに買い替えしてよさそうです。

最後に、環境省の省エネ製品買換ナビゲーション「しんきゅうさん」(http://shinkyusan.com)をご紹介します。「しんきゅうさん」は現在使用している製品と買い替えたい製品についてさまざまな使用条件を考慮した比較ができますから、買い替えを判断する際に参考になると思います。ただし、今回説明した製造時等のエネルギー消費量のデータ取得に限界があり考慮できていませんので、「しんきゅうさん」の結果で電力消費や温室効果ガスの排出が10%以上削減できている場合を目安に、買い替えの判断をしていただくのがよいと思います。

(文責 編集局)

目次:2012年6月号 [Vol.23 No.3] 通巻第259号

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