REPORT2020年6月号 Vol. 31 No. 3(通巻354号)

全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会の活動と酸性雨問題の転換期

  • 山口高志 (北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所)

1. はじめに 全環研の紹介

2020年2月4日から5日にかけて、国立環境研究所地球温暖化研究棟1階交流会議室で全国環境研協議会(以下「全環研)酸性雨広域大気汚染調査研究部会(以下酸性雨部会)の会議が開催されました。

全環研は各自治体の環境関係の機関、いわゆる地環研の地域ごとの支部で構成され、

  • 北海道東北支部(13道県市)
  • 関東・甲信・静支部(16都県市)
  • 東海・近畿・北陸支部(17府県市)
  • 中国・四国支部(10県市)
  • 九州支部(11県市)

の5支部となっています。また各課題に今回ご紹介する酸性雨部会をはじめ、環境生物部会、生物学的調査部会、精度管理部会が設置されています。

写真1 日本最北端の酸性雨測定所:国設利尻局。

2. 今までの調査の紹介

酸性雨は1960–70年代に欧米を中心に大きな環境問題として認識され、日本国内でも1970年代から関心が高まりました。1970年には環境庁設置の契機となった「公害国会」が開かれるなど、政治的にも社会的にも大気汚染物質に関心の高い時代でした。国内での被害としては、1973–1975年に関東近郊で雨が目にしみるなどの被害が報告され、作物にも被害が見られました。生活へ直結する淡水源である雨の汚染に関わるこれら事例は人々に強い懸念を引き起こしたと思われます。1980年代には環境庁により調査が開始され、全国的に酸性の雨が確認されました。

これを受けて1991年に酸性雨部会により酸性雨調査を開始し、現在に至るまで継続するとともに、その時々の問題を反映して新たな調査法の活用や、改良の検討を進めています。ここでの調査は、環境庁の酸性雨調査に比べて、より生活に近い場所での調査として、自治体が協力して立ち上げた草の根ネットワークと言う特徴があります。その活動の中で、調査方法なども改善がなされてきました。その内容は、詳しくは以下の表1のとおりですが、簡単に紹介します。

第1次調査(1991–1993)
全国の自治体により150以上の酸性雨調査地点で調査が実施され、空間分解能の高いデータを得ました。
第2次調査(1995–1997)
一日ごとの雨水サンプリングなど、より時間分解能の高いデータを得て越境大気汚染や火山などの影響について多くの知見が得られました。
第3次調査(1999–2001)
湿性沈着を乾性沈着と分けて捕集および評価するために、捕集部が常時開放されたバルク採取法から雨の降っているときだけ蓋が開く降水時開放型(ウェットオンリー型)が用いられるようになりました。また乾性沈着評価のためにフィルターパックによるガスや粒子の濃度の調査研究を進めるようになりました。
第4–6次調査(2008–)
2008年頃には中国の急速な経済拡大に伴う越境汚染の増大と、それに伴う高濃度オゾンの問題が認識されるようになりました。オゾンについては植物影響が懸念され、山岳部における高い空間分解能のオゾン濃度把握のため、電源を要しないパッシブサンプラーを用いた多地点モニタリングが行われました。また粒子状物質のより高精度な測定のためにフィルターパックとパッシブサンプラーを組み合わせた手法が検討されてきました。
現在行われている第6次調査では粗大粒子とPM2.5を分けて捕集し、PM2.5成分を把握すると同時に、全世界で影響が議論されている窒素沈着のより精度の高い評価に向けたフィルターパック法の改良について検討が続けられています。
表1 酸性雨調査研究部会による酸性雨全国調査の主な調査内容。拡大画像

3. 報告書の作成について

各支部から調査データの収集や整理を担う支部委員一名を選出しています。また自治体からの有志により解析委員が参加しています。解析委員はデータ解析と報告書の作成を行っています。

成果は全環研会誌に報告書として掲載されるほか、測定データは国立環境研究所の協力を得て、過去のものから継続的に酸性雨データベースとして公開されています(http://db.cger.nies.go.jp/dataset/acidrain/。このように積み重ねてきた測定データは学会や論文により発表されています。

4. 将来の課題

最近では中国の大気汚染物質排出量が抑制され、PM2.5やオゾン、酸性雨は長期的に改善傾向が見られます。酸性雨と並んで大きな地球環境問題の気候変動はその深刻さを増していることと比較すると、公害問題としての酸性雨へはうまく対処がなされてきたと言えるでしょう。それは同時に、公害対策としての酸性雨調査研究は転換期を迎えていることを示します。

近年では強い台風や大雨による水害が多く報告されるなど、気候変動の影響が大きくなってきています。私の住んでいる北海道では2016年には台風が相次いで上陸し、大きな被害がありました。2019年には5月に気温が40度近くの地点がでるなど、これまで経験したことのない事案が発生しており、気候変動の影響も疑われます。

これから取り組む課題として、ゲリラ豪雨などに代表される雨の量や降り方の変化に伴う酸性度など雨の質の変化が挙げられます。加えて粒子状物質やガスの挙動も気温上昇に伴って変化し、その影響度合いも異なってくると考えられます。これらは、まさにこれまでに培ってきたモニタリング体制や測定技術を活用して取り組んでいくべき課題と言えます。

雨や大気は人間の生存に不可欠で、生態系にも大きな影響を及ぼします。昨今ではSDGs(持続可能な開発目標)という言葉も広まってきており、各自治体の研究テーマとしても雨や大気は人間社会に対する直接的な影響監視から、より長期かつ広範囲にわたる人および自然生態系への影響モニタリングと対策の検討など、新たな視点から課題をとらえなおしていく時期であると思われます。

そういう意味からも今後とも調査を継続することが重要と考えられますので、関係者の皆様にはさらなるご協力、ご支援等よろしくお願い申し上げます。

※参考:酸性雨と酸性霧, 村野健太郎, 1993, 裳華房


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