2014年5月号 [Vol.25 No.2] 通巻第282号 201405_282001

雪にも負けず、酸性雨調査 —全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会に参加して—

  • 新潟県保健環境科学研究所 遠藤朋美

1. 日本全国から酸性雨のデータが集まる

地方公共団体の環境研究所を会員とする全国環境研協議会(以下、全環研)では、一部の支部において独自の手法で行われていた酸性雨の調査を、平成3年度からは、統一した手法を用いた全国調査として継続して実施しています。この全国調査を主導しているのが、全環研会員から選出された委員と酸性雨関係の有識者から構成される全環研・酸性雨広域大気汚染調査研究部会(旧酸性雨調査研究部会)です。この部会で調査実施計画や調査データ等の解析・報告などを共同で行っています。全国調査は第1次調査から現在の第5次調査まで3〜6年毎に新たな調査手法等を取り入れながら継続しています。北海道から沖縄県までの日本全国の調査地点から測定データが集まります。部会は、その測定データを取りまとめ、毎年全環研の会誌に報告書を掲載しています。

2. 新しい取り組み

平成26年1月29〜30日に、国立環境研究所の地球温暖化研究棟交流会議室において、全環研の酸性雨広域大気汚染調査研究部会の平成25年度第2回会議が開催されました(写真1、2)。会議では平成24年度酸性雨全国調査報告書の取りまとめや平成26年度の活動内容について議論しました。新たな取り組みとして、大気汚染物質がどこからどれだけ排出されているかを一覧にした排出インベントリ[注]に関する情報収集・評価チームの設置についても議論を交わしました。その他に、国立環境研究所の地球環境データベースや環境GISへの酸性雨全国調査結果の公表方法や、第6次調査についても話し合いました。

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写真1全国環境研協議会酸性雨広域大気汚染調査研究部会平成25年度第2回会議の様子

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写真2平成25年度の部会メンバー

部会メンバーは人事異動などで毎年のように入れ替わりますが、そんな中、酸性雨全国調査が20年以上も継続しているのは、新たな課題にも積極的に取り組んでおられる多くの先輩委員や、地方自治体および研究機関の担当者の皆さんの努力のおかげではないかと感じました。

3. 自然豊かな新潟県での酸性雨調査

ここでは、私が住んでいる新潟県での酸性雨調査についてご紹介します。新潟県では、酸性雨調査を昭和59年から開始しています。日本海に面する当県は、冬場の季節風による大陸からの越境大気汚染が懸念されています。降水(湿性沈着)やガス状・粒子状物質(乾性沈着)の調査に加えて、湖沼、土壌や森林などの生態系についての調査研究も実施してきました。環境省の長期モニタリング計画では、降水(湿性沈着)やガス状・粒子状物質(乾性沈着)のモニタリング地点として佐渡関岬(佐渡市)と新潟巻(新潟市)があり、陸水モニタリング調査地点として山居池(佐渡市、平成25年度で終了)、土壌・植生モニタリング調査地点として朝日(県北の村上市)があります。ほとんどの調査地点は厳しい自然環境の中にあります。例えば佐渡関岬は海岸に面しているため、冬季は風速20m/sを超える強風が吹き荒れることもあり、装置の故障や落雷による停電は頻繁に起きています。

新潟県独自の酸性雨調査としては、現在は、長岡、上越、南魚沼と新潟曽和(研究所の敷地内)で降水やガス状・粒子状成分の調査を実施しています。全環研の酸性雨全国調査には、長岡と新潟曽和のデータを長年提供してきました。長岡、上越、南魚沼は特に雪が多い地点で、冬季は、降水捕集装置まで雪かきをしなければたどり着けず(写真3)、降水捕集装置が雪に埋もれたこともあったそうです(写真4。どこに装置があるか分かりますか?)。現地の担当者には、大変なご苦労をかけながらも試料採取をお願いしています。

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写真3降水捕集装置(南魚沼)

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写真4雪に埋もれた降水捕集装置(南魚沼)

酸性雨調査とは直接関係はありませんが、佐渡関岬がある佐渡は、国際保護鳥で学名「ニッポニア・ニッポン」で知られるトキが飼育されています。現在は、野生復帰・定着に向けた取り組みがなされていて、100羽以上のトキが自然環境下に放されていますので、運が良ければトキに遭遇できるかもしれません。新潟巻測定所からは日本海に浮かぶ佐渡島を眺望できます。コシヒカリ、日本酒、寒ブリ、南蛮エビ、ノドグロ、へぎそばなど年中おいしい食べ物を楽しむこともできますので、是非新潟県にお越し下さい。

4. おわりに

新潟県では、平成19年5月に初の光化学スモッグ注意報を発令、26年2月26日には初のPM2.5注意喚起を行いました。環境基準が定められている光化学オキシダントやPM2.5は、私たちの健康を害する恐れがあるため、その対策が急がれます。それに対して、酸性雨調査はその目的が生態系への影響に注目していることもあり、長期的な視点での対応が必要となります。ただ、光化学オキシダントもPM2.5も酸性雨も、全て大気汚染に関わり、それぞれの対策がそれぞれの解決策となり得ると感じています。酸性雨調査をはじめ長期間継続する調査は、非常に労力を要するものですが、諸先輩方が長年汗水たらして採取、測定したサンプルからは多くの知見が得られ、日本の酸性雨調査の成果へと繋がっているものと感じます。部会で問題提起された、多くのことを勉強しながら少しでも前進できるように努力していきたいと思っています。

脚注

  • 排出インベントリについては以下を参照してください。
    アジア大気汚染研究センター, 排出インベントリとは何か?, 2007. http://www.acap.asia/acapjp/publication/index.html

全環研・酸性雨広域大気汚染調査研究部会の過去の記事は以下からご覧いただけます。

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