2011年9月号 [Vol.22 No.6] 通巻第250号 201109_250008

「ココが知りたい温暖化」講演会概要 家庭でできる温暖化対策

金森有子 (社会環境システム研究センター 統合評価モデリング研究室 研究員)

photo. 社会環境システム研究センター 統合評価モデリング研究室 研究員 金森有子さん

3月11日の東日本大震災の後、省エネが意識される機会が多くなりました。実際に省エネ活動をされている方も多いと思いますが、震災の影響だけではなくこれからも温暖化対策を続けていただくために、いろいろな温暖化対策を整理してお話してみたいと思います。

1. 増え続ける家庭からの二酸化炭素排出量

家庭からの二酸化炭素(CO2)排出量は統計を開始した1990年から増加し続けてきました。2007年度以降減少しているとはいえ、2009年度の排出量は1990年と比較すると約27%増えており、一世帯当たり年間5tにもなります。一方、産業部門では1990年以降大幅な削減が達成できていますから、私たちはもう少しCO2排出削減の努力をするべきではないかと思います。家庭からのCO2排出量の特徴としては、機器を動かすためのエネルギー(動力)消費や自家用乗用車に使用されるエネルギーからのCO2排出量が多いことがわかります。

fig. 家庭からの二酸化炭素排出量(用途別)

家庭からの二酸化炭素排出量(用途別)
出典:温室効果ガスインベントリオフィス(GIO), 日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2009年度)確定値

そもそもCO2排出量はなぜ増加してきたのでしょうか。まず、私たちの生活スタイルが変化したことです。生活スタイルの変化は必ずしもCO2排出量の増加につながるものばかりではありませんが、夜遅くまで起きている人が増えて、部屋の照明を使ったりしますから、それによりCO2排出量が増加したというのが理由の一つとして挙げられます。また、家庭内で電化製品が非常に増えていることも理由として挙げられます。現在では、テレビは一人一台、ルームエアコンは部屋ごとにあるという時代になってきました。

では効果的な温暖化対策は何でしょうか。ズバリ「これが効果的です」と言えたらいいのですが、ちょっと難しいのです。たとえば、北海道の家庭と関東の家庭を比較してみましょう。北海道は暖房の使用によるCO2排出量が大変大きくなっていますが、関東地方は北海道と比較すると小さいです。また北海道ではほとんど冷房を使用していないため、冷房の対策をしてもあまり効果がないでしょう。この例は地域差ですが、家族構成や生活スタイルによって電気やガスの使い方が全く異なります。その家で何のためにどのエネルギーを使っているのかをきちんと把握できないと、何が効果的と言い切れません。

これではあまりに説明不足なので、一般的な温暖化対策をご紹介します。温暖化対策には「省エネ」と「創エネ」の2種類があります。省エネは高効率機器の導入や生活で無駄なエネルギー消費を省くことにより、エネルギー消費量を削減することです。創エネは太陽熱温水器や太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入を進める方法です。省エネと創エネの両方の観点から、私たちの身の回りの温暖化対策をご紹介します。

2. 初級者編:身近なことからこつこつと

「エアコンの設定温度は、冷房を28℃に、暖房は20℃に」「冷蔵庫に物を詰め込みすぎないように」などという対策はいろいろなところで広報されていますし、びっくりしたことに学校でも教えているそうです。一つひとつの対策による削減は一世帯当たり年間5tのCO2排出量という数字に比べると小さめですが、まだ何も始めていないなら、いろいろな対策に取り組めばそれなりに効果があります。しかし一点注意が必要です。たとえばエアコンの設定温度を27℃から28℃にすると、12.4kgの削減になるとありますが、この計算は、外気温が31℃で2.2kWの性能のエアコンの使用時間が1日9時間、それを3.6カ月(6月2日〜9月21日の112日間)使用して1年間で一世帯当たり12.4kgのCO2が削減できますというものです。実際にはこんなに使用しないかもしれませんし、外気温がもっと高い日もあります。エアコンの種類もさまざまです。つまり条件によってこの数字は増減があります。しかし、27℃に設定していたものを28℃に変えれば間違いなく削減はできますから、家庭でできることを考えるのが重要です。

3. 中級者編:機器の買い替え時には省エネ製品を

機器の買い替えは有効です。そして、買い替えるときには是非「省エネラベル」をチェックしてください。省エネラベルでは、星の数が多いほど省エネ製品です。さらに詳しく知りたい人は、ラベルに書かれている年間消費電力量を比較して購入するといいでしょう。

ところで、本当に機器は省エネ製品に変わってきているのでしょうか。電気冷蔵庫の年間消費電力量の推移をみると、2000年度には年間800kWhでしたが、2010年度の製品は200〜300kWhとなり、10年間で60%もの省エネに成功しています。エアコンもテレビも照明もこの10年ほどで大幅な省エネに成功しています。「それなら自宅の古くなった機器を買い替えよう」と、今すぐ家電量販店に走るのは待ってください。最近の家電製品は大変大型化していますから、省エネ製品であっても大きな機器を使用したら効果はうすれてしまいます。各家庭に適したサイズや機能の製品を選んでいただきたいと思います。

買い替えたいけれど省エネ製品はちょっと高いと思っている人もいるでしょう。確かに省エネ製品をつくるために多くの技術が投入されていますから価格が非常に高くなることがあります。しかし、購入時の価格は多少高くても、使用時の費用(エネルギー消費による費用)も考えると、使用期間全体では安くなることもあります。「何年使えば、もとが取れるかな?」という視点で商品の価格を見てみることも大切です。

4. 上級者編:住宅の断熱性を上げるリフォームや建て替え、再生エネルギーの利用

さらにお金がかかる対策ですが、住宅のリフォームや建て替えのときに住宅の断熱性や機密性を上げることです。窓ガラスや屋根・壁・床など外と接している面を断熱化するのは費用がかかりますが、検討してほしい項目です。

ITの技術を利用して、住宅のエネルギー管理を行うHEMS(Home Energy Management System)というシステムをご紹介します。HEMSは、家の壁にパネルのようなものをつけてエネルギー消費量の「見える化」を行ったり、エネルギー消費量の制御(センサが感知して使用していない部屋の照明を切るなど)を自動的にしてくれます。

これまでは「省エネ」の観点からお話してきましたが、「創エネ」という対策もあります。再生可能エネルギーを利用し、太陽光発電や太陽熱温水器を設置するのが創エネです。残念ながら現在はまだ大変高額です。平成21年度の住宅用太陽光発電システム平均設置価格(機器・工事費込)は、1kW当たりの平均価格が60.6万円です。実際には3〜4kWhの太陽光発電を設置することが多いので、導入に200万円以上かかることになります。補助金制度がありますが、それでも基本的に高いものです。しかし余った電力は余剰電力固定価格買取制度(自宅で使用する電力より多くの電力を発電した場合は、電力会社に買い取ってもらえる)も整っています。太陽光発電より少し安く導入できるのが太陽熱温水器です。他の再生可能エネルギーを利用するよりも低コストで導入(30万円程度で設置可能)でき、各都道府県などで補助金を受けられます。

5. 食材の選び方や企業の選択も温暖化対策の一つ

いままでは直接的な対策をご紹介してきましたが、誰にでもできる簡単な温暖化対策を二つご紹介します。食材を選ぶときにどこの産地のものか、季節のものかなどを考えてみてください。産地については、遠方で作られたもの(特に外国)は輸送で多くのエネルギーを消費します。季節ではないものを育てるのは、ビニルハウス等で栽培しますから、生産に多くのエネルギーを消費しています。ですから、産地や季節を考慮しないで食材を購入すると、結果的にCO2排出量は増えてしまうことになります。地産地消・旬産旬消は家庭部門の省エネに見かけ上はなりませんが、私たちが取り組める温暖化対策の一つです。また、温暖化対策の取り組みを積極的に行っている企業の製品を使用するのも直接私たちの省エネ効果としてあらわれませんが、有効な対策になるのではないでしょうか。

6. 研究所で見つけたちょっとした工夫

私が職場で行っている省エネ活動をご紹介します。私は私の研究室と周りの人たちの研究室の室温を測定しています。夏は朝6時頃から外気温が上がり出し、私と隣の人の研究室は窓が東側を向いているので、朝、出勤してくると室内はサウナのようになっていて、外気温より温度が高くなっています。その中で、私の研究室は隣の研究室より温度が1℃くらい低いのです。夜帰宅するときに窓のブラインドを光が入らないようにしっかり下ろして、温度が上がらないよう工夫しているからです。また、9時頃出勤してくると、外気温は上がっているのに部屋の温度の上昇はとまります。私たちの研究室が面している廊下はとても涼しいので、朝出勤すると廊下側のドアを開け放って冷気を取り込むことで、室温の上昇を防げるのです。皆さんも家の構造を把握して、室温変化の特徴をつかむことで、快適かつエネルギー消費の少ない室温調整ができそうです。これらは簡単に実行できるものですから是非取り組んでみてください。

7. 見えると進む温暖化対策

講演の最初に温暖化対策をするのに、家庭で何にどんなエネルギーを使っているか把握することが重要とお話しました。最後に、実際に消費電力を測定してみる試みをご紹介します。エコワットという機器を使うと、どれくらい電気を使ったかが見えます。また消費電力測定機能付きタップは、電気の使用量が表示されます。環境家計簿をつけてみるのもいいでしょう。電気やガス、水道の使用量を入力すると、CO2排出量を表示してくれます。環境省では「CO2みえ〜るツール」(http://mieeeru.go.jp/)を作成しています。

いろいろと対策をご紹介しましたが、自分の家で取り組める温暖化対策を考えてみてください。そして無理なくできそうなことから、少しずつ取り組んでみてください。

(文責 編集局)

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