MAKSYUTOV, S., ODA, T., SAITO, M., TAKAGI, H., BELIKOV, D., VALSALA, V.
CGERリポート
CGER’s Supercomputer Monograph Report Vol. 25
要旨
温室効果ガスのインバースモデル解析は、観測濃度データから大気輸送モデルシミュレーションを介し温室効果ガスの吸収排出量を推定する方法として広く利用されている。日本の温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)の打上げ成功(2009年)により、温室効果ガスの観測網が強化され、全球の二酸化炭素(CO2)及びメタンの循環の観測に関する新たな可能性が広がった。GOSATによる温室効果ガスカラム平均濃度の大気輸送モデルによる再現には、成層圏でのCO2とメタン濃度の正確な高度分布シミュレーションが行えるようにしなければならない。また、インバースモデル解析を定常的に行うためには、吸収排出量先験値データや気象場の再解析データを定常的に更新することが求められる。人為起源排出の影響を受けていない大気だけでなく、影響を受けた大気も観測可能なGOSATには、排出源とその動向のモニタリングへの貢献が期待されている。こうした目的の達成のためにも、高分解の大気輸送モデル及びインバースモデル解析の技術が必要となっている。本モノグラフでは、GOSATレベル4プロダクト生成のために使われる大気輸送モデル、高分解CO2排出インベントリ及びインバースモデル解析アルゴリズムの開発と、発展型高分解大気輸送モデルの開発について報告する。
第1章では、成層圏における大気輸送シミュレーションの精度向上を目指し、ハイブリッドσ-θ鉛直座標系を使用するように改良した国立環境研究所3次元大気輸送モデル(NIES TM)を紹介する。NIES TMの性能評価のため、CO2、メタン及び六フッ化硫黄(SF6)の鉛直プロファイルのシミュレーションを複数年にわたって行い、三陸上空の気球観測データと比較した。

第2章では、年ごとに更新される高分解人為起源CO2排出インベントリについて説明する。このインベントリODIAC(Open source Data Inventory of Anthropogenic CO2 emission)では、発電所データベース(排出量及び地理的位置)並びに衛星観測夜間光データから排出量の空間分布を解像度1 × 1kmで推定している。

第3章では、GOSATと地上観測による大気CO2データから地域別CO2吸収排出量を推定する手法(GOSATレベル4 CO2データ処理システム)を紹介する。大気CO2濃度のモデル予測には、大気輸送モデル(第1章で説明)、人為起源排出量インベントリ(第2章で説明)、陸域生態系及び海洋のプロセスモデルによる吸収排出量データを用いる。全球を亜大陸規模に64分割した領域の月別CO2吸収排出量は、5度格子で月毎に平均したGOSAT FTS SWIRレベル2カラム平均濃度プロダクト(バージョン02)とGLOVALVIEW-CO2地上観測データから推定した。

4章では、上述のNIES TMをさらに発展させたオイラー・ラグラジアン結合型大気輸送モデルを紹介する。このモデルの高い分解能は、地上及び衛星データによる人為起源排出量の推定に適している。高分解の吸収排出量推定に必要となる随伴行列の計算コンポ―ネントは、NIES TMのコードから作成された。結合型モデルの利点は、オイラー型モデルの安定性、ラグランジュ型の正確さと高分解能といったそれぞれの特性の組み合わせである。