NAKAYAMA T.
CGERリポート
CGER’S SUPERCOMPUTER MONOGRAGH REPORT Vol.20
東アジア地域では急激な経済成長の一方で環境劣化も著しく、多様かつ複雑な水問題を抱えている(図1)。持続可能な発展のためには統合的な手法を用いて生態系変化の動態を定量化するとともに劣化した自然環境の積極的回復に向けた適応戦略が必要である。

本モノグラフ(Part IV, CGER-I114-2014)はVol.11(Part I, CGER-I063-2006)、Vol.14(Part II, CGER-I083-2008)、及びVol.18(Part III, CGER-I103-2012)の後続版である。統合型流域管理NICE(National Integrated Catchment-based Eco-hydrology)モデルは3次元グリッド型の水文生態系モデルであり、衛星データ・現地観測及び統計解析と統合されており、水循環・地形変化・植生動態間での非線形作用をインタラクティブにシミュレーションすることが可能である(図2)。NICEには灌漑・都市用水・河道結合・ダム/運河等のサブモデルも存在し、自然-人間系システムの開発や人為活動が水文生態系の変化に及ぼす影響の解析が可能である。

本モノグラフでは、NICEの拡張により中国の長江・黄河流域を含む大陸スケールへ適用した結果について紹介している。この両流域では三峡ダム及び南水北調という2つの大きな国家プロジェクトが進行中であり、洪水リスクの低減及び環境資源の不均衡の改善が期待されている。例えば、黄河流域における荒地から灌漑域への土地改変に伴うシナリオ評価(図3)、長江流域における表面流と地下水流の相互作用の解明(図4)、更には三峡ダム及び南水北調に伴う長江中流域での洪水発生頻度に及ぼす影響の予測(図5)、等について紹介している。



本モノグラフで紹介している中国における水・熱・物質循環の解明は日本の国家安全保障や国際貢献のためにも重要である。この統合的手法は、水循環及び生物地球化学循環の観点から引き起こされる複雑な機能の解明のためのみならず、世界で多発している水資源の不均衡に対する効果的な越境問題の解決に対しても有効である。