Q5家庭における脱炭素対策
!本稿に記載の内容は2024年07月時点での情報です
家庭でできる脱炭素対策では、何をするのが最も効果的なのでしょうか。
金森 有子
(国立環境研究所)
暮らし方は多様であり、エネルギー消費量、二酸化炭素(CO2)排出量は世帯により大きく異なります。全ての家庭に共通する最も効果的な対策をズバリ示すことはできません。家庭部門では2030年度には2013年度と比較してCO2排出量を約1/3に、2050年度には実質ゼロにする必要がある中、エネルギー需要を削減するための住宅の断熱化を進め、使用する機器を高効率な電気機器に変えたうえで、太陽光発電を設置する等の費用がかかる取り組みも推進していくことが必要です。また、自分の世帯のエネルギー消費量を把握し、その特徴を理解して対策に取り組むことが大切です。
1削減目標の変化と家庭への影響
「ココが知りたい地球温暖化」では、「家庭でできる温暖化対策」という質問に2010年にも回答(注1)しました。当時の日本は、1990年比で6%の温室効果ガス削減が必要な状況でした。6%という数字に対して多くの議論があったと聞きますが、今から思うとあまりにささやかな削減目標です。その後、2015年に発表された目標では、家庭部門で2030年度に2013年度比で46%削減、そして2021年に決定された最新の目標では66%削減を目指すことになりました。前回の回答から15年ほどの間に非常に大きく状況が変化しました。
図1に家庭部門のCO2排出量の推移と削減目標を示しました(注2)。家庭部門からのCO2排出量は2013年度以降減少し、2022年度の家庭部門のCO2排出量は158MtCO2となりました。これは日本全体のエネルギー起源CO2(注3)排出量のおよそ16%です。2030年度の削減目標の達成には、2022年排出量の45%程度にする必要があります。
さて、家庭部門のCO2排出量は日本全体の排出量の16%程度であることを知ると、私たちの生活は日本のCO2排出量にあまり影響していないと思った人もいるかもしれません。家庭部門のCO2排出量とは、住宅内のエネルギー消費に伴うものだけを指します。例えば自家用車の使用に伴うCO2排出は含みません。また、私たちが生活するにはさまざまなモノが必要ですが、その生産や輸送時のエネルギー消費に伴うCO2排出量も家庭部門には含まれません。このような私たちの生活に起因するCO2も含めると生活に伴うCO2排出量は、日本の排出量の6割近くを占めるという結果(注4)も示されています。日本のCO2排出量の大幅削減に向けて、私たちの生活が、大きく影響しているということです。私たちが生活の快適さを維持しつつ、CO2を大きく削減する(カーボンニュートラルを目指す)には、生活におけるエネルギーとの関わり方を見直す必要があります。
2家庭のエネルギー消費量の特徴
この記事では、住宅内のエネルギー消費に伴うCO2排出量の削減に焦点をあてて説明していきます。家庭でできる脱炭素対策を考えるためには、家庭のエネルギー消費量の特徴を知っておくことが大切です。図2(a)に気候の異なる三つの地域(北海道、関東甲信、沖縄)における用途別とエネルギー種別のエネルギー消費量を示しました。3地域のエネルギー消費量には異なる特徴があることがわかります。例えば、北海道は日本で最も寒冷な地域であるため、暖房のエネルギー消費が非常に多いです。また、寒冷地特有の大きな灯油タンクを併設した住宅が多いことから、灯油の消費量も多いことがわかります。一方、沖縄は年間を通して温暖であり、他の地域と比較すると冷房需要が大きく、暖房や給湯の需要が小さいことがわかります。エネルギー種別に見ても、灯油やガスの消費量が少ないことがわかります。図2(b)には住宅の建て方別のエネルギー消費量を示しています。用途別では暖房や照明・家電製品等、エネルギー種別では灯油や電気の使用量に大きな差が見られます。このように何らかの世帯属性別にエネルギー消費量を見ると、エネルギー消費量の特徴を見出すことができます。
それでは、同じ属性の世帯のエネルギー消費量はほとんど同じになるのでしょうか?答えは「いいえ」です。図3は、2021年度の関東地方の世帯別エネルギー消費量を消費量が少ない世帯から順に表示したものです。同じ地域でも暮らし方によりエネルギー消費量が大きく異なることがわかります。
家庭でのエネルギー消費量は、地域(気候)別や住宅の建て方別など世帯を分類してみると、その特徴を見出すことができます。さらに同じ地域でも暮らし方によってエネルギー消費の特徴や消費量そのものが異なります。このことが、さまざまな暮らし方をしている読者の皆さんに共通する「最も効果的な対策」を示すことが難しい理由です。
3家庭が取り組むべき対策
「最も効果的な対策」を示すことはできませんが、脱炭素社会実現に向けて家庭からのCO2排出量を大幅に削減するために必要な対策は大きく三つのポイントに集約できます。①徹底したエネルギー需要削減、②電化、③エネルギーの脱炭素化です。家庭での三つのポイントに関する具体的対策を説明します。
① エネルギー需要削減:今までと同じ快適さをより少ないエネルギーで得られる対策です。例えば、住宅の断熱工事、高効率機器への買い替え、徹底した無駄の削減が挙げられます。
② 家庭における電化:灯油やガスの使用から電気の使用に変えることです。具体的には灯油ストーブからエアコン、ガス給湯器からヒートポンプ給湯器、ガスコンロからIHクッキングヒーターに変えるといった対策です。機器効率が高まることに加え、③のエネルギーの脱炭素化についても同時に取り組むことにより、家庭内の機器や設備の使用に伴うCO2排出を大きく減らすことに貢献します。
③ 家庭でできるエネルギーの脱炭素化:大きく2種類の方法があります。一つは自宅に太陽光発電を設置する等の創エネを実施することです。もう一つは、電気の契約を見直し、より低炭素な発電方法による電気を購入することです。
各家庭のエネルギー消費の特徴により、どのポイントに取り組むことがより効果的な対策となるかは異なりますが、カーボンニュートラルの実現に向けて基本的には全て進めることが重要です。既に部分的に取り組んでいることもあると思いますが、それだけに満足せず、残りの対策についても取り組むことが必要です。
上の三つのポイントで示した対策の実施には、多くの場合費用がかかります。負担感があり対策を受け入れがたいと感じる人も多いでしょう。しかし私たちが目指すべき脱炭素社会は、ここに示した対策を全ての人ができる限り取り組む状況となることで、到達可能な道筋が見えてきます。
この負担感は、対策の捉え方を少し変えると軽減するかもしれません。例えば、住宅の断熱対策は部屋間の温度差が小さくなりヒートショックを防ぐといった健康面でのメリットがあります。また高効率機器は購入価格は少し高いですが、運転時のエネルギー消費量が小さいため、運転時に必要となるエネルギー代は安くなります。機器の寿命全体で考えれば、必ずしも高い買い物ではないかもしれません。太陽光発電の設置は購入電力価格の急な変動の影響を受けないといったメリットもあります。このような脱炭素に向けた対策は国や自治体も支援しています。機器や設備の購入には補助金が出ることもあります。こういった制度をうまく活用すれば、よりお得に便利で快適な脱炭素生活に移行することができます。
なかには、賃貸住宅に住んでおり、自由に設備や機器の更新ができない人もいるでしょう。最近は優れた断熱性能をセールスポイントにした賃貸住宅もあります。住宅の設備や機器の性能を事前に確認して住宅を借りると、脱炭素だけでなく、エネルギー代削減の観点からも優れた選択ができます。
4カーボンニュートラルに向けてあるべき生活の姿とは
ここまでは主に家庭部門、すなわち住宅内のエネルギー消費に伴うCO2排出量の削減対策について説明してきましたが、はじめに説明したように私たちの生活がCO2排出量に及ぼす影響はこれだけではありません。移動での交通手段の選択は、運輸部門のCO2排出量に影響します。買い物の際の、商品選択は業務部門や産業部門のCO2排出量に影響します。より脱炭素社会への取り組みを進めている企業に投資するといった対策も挙げられます。日本のCO2排出量を削減するためには、私たちは頭の片隅に常にカーボンニュートラルを意識しながら、行動を選択していくことが必要です。カーボンニュートラルを実現し持続可能な社会を構築するには、まだまだ多くの取り組みが必要です。特に機器の買い替えや住宅の選択は削減目標達成の成否に大きく影響します。私たちの選択は脱炭素への意思表示となります。私たちの力で生活と社会の変革を促すことが必要です。
- 注1
- ココが知りたい地球温暖化「Q10 家庭でできる温暖化対策」.国立環境研究所.
https://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/26/26-2/qa_26-2-j.html - 注2
- 家庭部門からのCO2排出量には、間接排出量(発電や熱の生産に伴うCO2排出量を、家庭部門の電力や熱の消費量に応じて配分したもの)を含みます。
- 注3
- エネルギーを消費、利用するために、化石燃料を燃焼する際に発生するCO2排出量
https://www.eic.or.jp/ecoterm/index.php?act=view&serial=4914 - 注4
- 脱炭素型ライフスタイルの選択肢. 国立環境研究所.
https://lifestyle.nies.go.jp/index.html
さらにくわしく知りたい人のために
- 日本温室効果ガス排出量削減目標達成に関するAIMモデルによる分析結果. アジア太平洋統合評価モデル(AIM).
- 脱炭素型ライフスタイルの選択肢. 国立環境研究所.
- 第1版:2024-07-17
第1版 金森 有子(社会システム領域・脱炭素対策評価研究室 主幹研究員)