Q3日本の再エネは遅れている?
!本稿に記載の内容は2024年03月時点での情報です
日本の再生可能エネルギーの普及が他国に比べて進んでいないと聞きましたが、本当ですか?
河原崎 里子
(国立環境研究所)
再生可能エネルギー(再エネ)の普及の進み具合の評価は、着目点によって異なります。再エネによる発電量(2021年)では、世界で日本は8位と上位にいます。一方、発電量に再エネ電力の占める割合(2021年)で見ると、日本は22%であるのに対し、世界全体では29%で、日本国内の再エネの導入は遅れていると言えそうです。
日本には、太陽光発電や風力発電、木質バイオマス等の利用可能な量(ポテンシャル)は現在の全発電量と比較して十分にあることが分かってきていますが、導入はゆっくりとしています。再エネの割合を増やしていくためには、各地方に存在する各種エネルギーのポテンシャルを確認しながら、さまざまな需要に対して、どのように組み合わせて利用したら持続的に安定供給できるか、考えていく必要があるでしょう。
1再生可能エネルギーとは
再生可能エネルギー(再エネ)とは、自然界に存在し、枯渇せずに補充されるエネルギーのことです。太陽光、水力、風力など、その種類は多岐にわたります(表1)。熱や原料などとして利用されることもありますが、多くは電気として利用されていますので、ここでは、再エネによる発電に限定して考えていきましょう。表1には、再エネの種類ごとの国内での導入状況と仕組みをまとめました。
再エネ以外のエネルギー(化石燃料など)は輸入に頼っていますが、再エネは、それぞれの地方の立地条件や自然環境によって生み出されるエネルギーであることから、「地方のエネルギー」とも呼ばれています。
2日本全体の発電量と再生可能エネルギーの発電量
日本全体では約1兆kWh/年の発電量(注1)があり、世界で5番目にあたる非常に多くの電力を利用しています。ちなみに、kWh(キロワット・アワー、または、キロワット時)とは、1kWの電力を1時間使用した場合の電力量の単位のことで、kWh/年は年間の利用電力量のことです。日本全体の電力需要の4分の1は家庭における需要(注2)で 、残り4分の3は、産業・事業所・輸送による需要です。今後、脱炭素を進めるためには再エネ電力を用いた電化の推進が考えられ、電力の需要はさらに増えていくでしょう。
日本の再エネ発電を他の国々と比較してみましょう。IRENA(注3)やUS-EIA(注4)の最新の世界統計によると、再エネの発電量は、世界全体では7兆8580億kWh/年、うち日本は2110億kWh/年で、世界213の国や地域の中での発電量順位は8位と上位にいます。日本の再エネの種別ごとの発電量とランキングは以下の通りです。
太陽光発電:860億kWh/年(3位)、水力発電:790億kWh/年(8位)、バイオマス発電:340億kWh/年(6位)、風力発電:90億kWh/年(24位)、地熱発電:30億kWh/年(10位)。
次に、全発電量に対する再エネ発電の占める割合を見てみましょう。世界では29%なのに対し、日本では22%であり、現段階では遅れをとっています。日本は工業国であり人口も多いことから、先にも述べたように年間約1兆kWh/年もの電力を使用するため、再エネ電力量が増加しても割合には表れにくい面があります。
全電力に占める再エネの導入割合の大きい国の例を挙げてみます。周囲を海に囲まれ、一年を通して強い偏西風が吹くデンマークでは風力による発電量が大きな割合を占め、80%に迫ります。ドイツの再エネは太陽光と風力が大半を占め、さらに水力とバイオマスを組み合わせていて42%となっています。イギリスやスペイン、イタリアなどの国々も40〜50%を占めています。カナダやノルウェー、スイス、ニュージーランドなどは、豊かな水量と地形を利用した水力発電が多く使われ、70%以上です。最近、太陽光発電を急速に導入している中国では29%です。その他にも、比較的小さな国々や電力需要自体が少ない国々の中にも自然環境を生かした発電を行い、再エネ電力が大半を占めるところがいくつもあります。
3再生可能エネルギーの将来の姿を考えよう
日本では、太陽光発電の半導体のエネルギー効率を向上させる研究で世界を牽引したり、台風や雷にも強い風力発電機を開発したりするなど、これまでに優れた取り組みもありました。一方で、急速な導入が自然環境に負荷を与えることもありました。将来的に再エネなくして脱炭素社会は実現できません。それでは、どのようなことを考えていけばよいでしょうか。
最初に、個々の再エネがどのくらい現実的に利用可能か、つまりポテンシャルを把握する必要があります。例えば、太陽光発電では、建物の屋根を全て発電に使うとともに、農地の上に発電パネルを設置して発電するソーラー・シェアリングを農地の2割で行うことができれば、自然環境に負荷を与えることなく、現在の発電量である約1兆kWh/年程度を発電することができると考えられます(注5)。風力発電については、環境省の調査(注6)によると、陸上と洋上のポテンシャルは合わせて約1〜2兆kWh/年と考えられ、太陽光発電と合わせると現在の発電量を大きく超えます。今後、人口が減少しても電力の需要が単純に減少するわけではありません。むしろ、電気自動車の普及やICT(情報通信技術)の発展で多くの電力が必要になると考えられます。それが一体どのくらいの需要となるか、常に近い将来と遠い将来を思い描き、最も良さそうな電力供給の姿を柔軟に探っていく必要があるでしょう。
次に、電力を安定供給する仕組みを考える必要があります。太陽光発電や風力発電のポテンシャルは大きく、今後、主力電力となっていくでしょう。しかし、これら二つは日射や風況に左右される変動電源です。安定的な電力供給を行うためには、一定の出力を持続できる水力発電などと組み合わせたり、発電量に余剰があるときいったん蓄電し、電力が不足する時に放電して使用したりすることが必要です。蓄電の仕組みとしては、鉛蓄電池やリチウム電池などの各種電池、揚水発電、水素などがあります(注7)。変動電源の導入を進めながら、それに見合う蓄電と安定供給の仕組みも同時に準備して、電力システムとネットワークをつくっていくことが求められます。
日本は、幸いいずれの地域でも、種類や量は違いますが再エネのポテンシャルがあり、利用することができます。すでに実績のある大型水力発電や近年導入の続いている太陽光発電・陸上風力発電と、既存の蓄電池や揚水発電所をどのように組み合わせていくか、というところから始めて、近い将来、どの程度の洋上風力が実現できるか、それらの電力を蓄電するには何を使い、どこに配置すればよいか、などいろいろなシミュレーションをした上で、良い選択をしていきたいものです。また、この記事では触れませんでしたが、再エネの熱や原料としての利用に関しても、実用に向けての開発を重ねていきながら、電力と組み合わせていくことが重要です。これらの取り組みを進めていくことで、地域ごとに独自性のあるエネルギーシステムが作られ、それらがネットワークで繋がるようになることでしょう。ネットワークを繋げていくことで、日本での再エネ活用が進展することを期待します。
4誰もがいつでも安心してエネルギーを使える将来へ
冒頭に再エネを「地方のエネルギー」と書きました。2011年の東日本大震災で、エネルギー供給がままならない生活を私たちは経験しました。それぞれの地方にある再エネポテンシャルを十分に生かせるシステムを作ることで、誰もがいつでも安心してエネルギーを使える将来を実現させたいものです。
各地方のエネルギーを生み出す独自の環境は、その地方に住む人々によって長い年月をかけて守られ、維持されてきたものです。そのことに思いをはせながら地域ごとの独自性を互いに尊重したエネルギーシステムづくりを進めていきましょう。それは、今を生きる私たちから将来世代への贈り物となります。海外の人々は、私たちに少し先んじて、それぞれの国にあったエネルギーネットワークを検討し、実現に向けてチャレンジしています。私たちも2050年の脱炭素社会の実現に向けてこの課題に取り組みましょう。
- 注1
- 2022年度エネルギー需給実績(速報). 経済産業省.
https://www.meti.go.jp/press/2023/11/20231129003/20231129003-1.pdf - 注2
- 家庭でのエネルギー消費について. 家庭部門のCO2排出実態統計調査. 環境省.
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/kateico2tokei/energy/detail/01/ - 注3
- Renewable energy statistics 2023. 国際再生可能エネルギー機関 (IRENA: International Renewable Energy Agency).
https://www.irena.org/Publications/2023/Jul/Renewable-energy-statistics-2023(2021年の電力量と順位を参照) - 注4
- International data on electricity generation in each country. 米国エネルギー情報局(US-EIA: US Energy Information Administration).https://www.eia.gov/international/data/world(2021年の再エネ比率を参照)
- 注5
- 国土の有効利用を考慮した太陽光発電のポテンシャルと分布. 科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター.
https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2021-pp-03.pdf - 注6
- 再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS). 環境省.
https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/ - 注7
- 蓄電池にはさまざまな種類がありますが、再エネとの組み合わせでは鉛蓄電池やリチウム電池、NAS電池(ナトリウム・硫黄電池)、酸化還元型のレドックスフローなどが使われています。自動車に使う鉛蓄電池やスマートフォンに使うリチウム電池は小型タイプもありますが、NASとレドックスフローは大掛かりな施設タイプです。希少で高価な素材の入手、リサイクル方法の確立が課題となっています。一方、上池から下池に水を落下させることで発電する揚水発電は、再エネの余剰電力で下池から上池に水をくみ上げ、電力が不足する時に発電することで、蓄電池と同じ機能を持ちます。ほかに再エネの余剰電力で作られた水素も蓄電効果があります。
さらにくわしく知りたい人のために
- 小澤祥司 (2013) エネルギーを選びなおす. 岩波新書.
- 第1版:2024-03-22
第1版 河原崎 里子(社会システム領域・脱炭素対策評価研究室 特別研究員)