Q温暖化と極端な気象現象との関係
!本稿に記載の内容は2010年9月時点での情報です
猛暑だったり桜の開花が例年より早かったり、ちょっと変わったことがあると何でも地球温暖化のせいみたいな報道がされますが、本当なのですか。
原澤英夫 社会環境システム研究領域長
温暖化が進行し、すべての大陸とほとんどの海洋において、雪氷や生態系などが影響をうけていることがわかってきました。暑い日が増え、寒い日が減るだけでなく、干ばつや大雨などの極端な気象現象も多くなっています。ただし、個々の現象の発生には自然の揺らぎも関連するために、それが温暖化の影響なのか、自然の影響なのか判別することが難しい場合もあります。また、今後温暖化が進むとこうした極端な気象現象の頻度や規模が増加することが気候モデルなどの研究からわかってきています。
地球温暖化と極端な気象現象との関係
2007年2月2日に気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change: IPCC)第1作業部会の第4次評価報告書(気候変動2007自然科学的根拠)が発表されました。この報告書では、気候システムに温暖化が起こっていると断定するとともに、人為起源の温室効果ガスの増加が温暖化の原因であるとほぼ断定しています。地球の平均気温が過去100年に0.74°C上昇し(1906〜2005年)、最近の50年間では、過去100年の2倍の速さで温暖化が進んでいることがわかりました。また、極端な気象現象との関係もより明らかになってきました。IPCCでは極端な気象現象を特定地域において統計的な発生確率からみてまれな現象としていますが、「まれ」については定義がさまざまです。例をあげれば、極端な高温日・低温日から干ばつ、大雨、熱波、熱帯低気圧(ハリケーンや台風を含む)などの現象を含みます。日本では、こうした極端な気象現象を異常気象と呼んでいますが、気象庁では、異常気象をより厳密に「ある場所(地域)で30年に1回程度発生する現象」と定義しています。IPCCにおける「極端な気象現象」は、気象庁の「異常気象」を含みますが、より広い意味で使われています。
表1は、「極端な気象現象」のうち20世紀後半の観測から変化傾向がみられた現象の最近の傾向(A欄)、その傾向に対する人間活動の寄与の可能性(B欄)、21世紀の予測に基づく傾向の継続の可能性(C欄)を表したものです。たとえば、猛暑をおこす高温/熱波の頻度の増加に関しては、20世紀後半に起こった可能性が高く、人間活動の寄与の可能性は「どちらかといえば」と評価されています。気候モデルの予測からは、将来の温暖化により継続的な高温/熱波の頻度が増加することは、可能性がかなり高いと評価されています。
現象及び傾向 | (A) 20世紀後半(主に1960年以降)に起こった可能性 | (B) 観測された傾向への人間活動の寄与の可能性 | (C) SRESシナリオを用いた21世紀の予測に基づく傾向の継続の可能性 |
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ほとんどの陸域で寒い日や夜の減少と昇温 | 可能性がかなり高い | 可能性が高い | ほぼ確実 |
ほとんどの陸域で暑い日や夜の頻度の増加と昇温 | 可能性がかなり高い | 可能性が高い(夜) | ほぼ確実 |
ほとんどの陸域で継続的な高温/熱波の頻度の増加 | 可能性が高い | どちらかといえば | 可能性がかなり高い |
ほとんどの地域で大雨の頻度(もしくは総降水量に占める大雨による降水量の割合)の増加 | 可能性が高い | どちらかといえば | 可能性がかなり高い |
干ばつの影響を受ける地域の増加 | 多くの地域で1970年以降可能性が高い | どちらかといえば | 可能性が高い |
強い熱帯低気圧の数の増加 | いくつかの地域で1970年以降可能性が高い | どちらかといえば | 可能性が高い |
高潮の発生の増加(津波を含まない) | 可能性が高い | どちらかといえば | 可能性が高い |
一方、竜巻、ひょう、雷、砂じんあらしといった小規模な現象については、何らかの傾向が存在するかどうかを判断する十分な根拠がないと評価されています。
ところで、たとえば、2006〜2007年の冬は暖冬でしたが、こうした特定の地域や時期に生じる気象現象が温暖化のせいであるかどうかを直接的に証明することは容易ではありません。2007年に関しては、エルニーニョと呼ばれる地球規模の気象現象が大きく影響していると見られています。それに、温暖化の影響が加わっているかも知れません。つまり、温暖化すれば傾向としてはこうなるということはいえますが、個別の事象として、こうなるはずのことが起きたからといって、それがすべて温暖化のせいだとはいいきれない、ということです。
雪氷や生態系、人間社会への温暖化の影響
過去100年間に地球の平均気温は0.74°C上昇していることから、その影響がいろいろな傾向として現れています。2007年4月6日に発表されたIPCC第2作業部会の第4次評価報告書(気候変動2007影響・適応・脆弱性)では、影響に関する多数の研究論文を精査し、とくに20年以上の長期の観測データがあるものについて、地域の気温と相関性を分析した結果、現在すでに現れている温暖化の影響として、以下の現象をあげています。
- 山岳の氷河の縮小や後退
- 永久凍土の融解
- 河川・湖沼の結氷期間の短縮
- 中・高緯度地域の生長期間の延長
- 植物・動物生存域の極方向や高地への移動
- 植物・動物種の生育数の減少
- 開花時期、昆虫の出現、鳥の卵生の早期化
以前から報告されていた上記のような雪氷や陸域生態系への影響に加えて、第4次報告書では新たに次のような影響も報告されています。
- 海洋の酸性化
- 海洋・淡水生態系への影響(サンゴ礁の劣化・消失、北大西洋のプランクトンの北上など)
- 人間社会・経済活動への影響
- 農業への影響(アフリカのサヘル地域の干ばつによる穀物収量減少、ブドウ栽培への影響など)
- 人の健康影響(熱波の増加、生物媒介性・水媒介性感染症の増加など)
今後温暖化が進むと、上記のような影響がさらに深刻になったり、影響を受ける地域が拡大すると予測されています。
さらにくわしく知りたい人のために
- 環境省ホームページ、IPCC第4次評価報告書について http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th_rep.html
- 2007-03-30 地球環境研究センターニュース2007年3月号に掲載
- 2010-09-28 内容を一部更新