ココが知りたい温暖化

Q5森林の減少と二酸化炭素吸収量

!本稿に記載の内容は2010年3月時点での情報です

世界で森林破壊が進んでいるというのに、植物による二酸化炭素の吸収量は増えているとも聞きました。いったいどちらが本当ですか。

三枝信子

三枝信子 地球環境研究センター 陸域モニタリング推進室長 (現 地球環境研究センター 副センター長)

世界の森林面積が全体として減少しているのは本当です。ただし、熱帯林が急速に減る一方でヨーロッパやアジアの温帯林が少しずつ増えるなど、森林面積の変化は地域によって大きく異なります。また、植物による二酸化炭素吸収量が過去に比べて増えているかについては、正確な答えは得られておらず、現在も研究が進められています。

森林破壊は進んでいる

森林破壊とは、人間が森林を過度に伐採したり焼いたりすることにより、森林が自然の力では回復できなくなり、森林面積が減少することをいいます。世界の森林面積を把握するために広く用いられている世界森林資源調査(Global Forest Resource Assessment: FRA)によると、現在の森林面積は陸地の約30%にあたる40億ヘクタール程度であり、2000年から2005年の間に、1年あたりおよそ730万ヘクタールの速さで世界の森林面積が減少したと推定されています。これは、北海道よりやや狭いくらいの面積の森林が毎年失われていることを意味します。すなわち世界の森林破壊は進んでいます。

ただし、森林面積の減少は世界のどこでも同じように起こっているのではありません。南アメリカ、アフリカ、東南アジアの熱帯地域では森林面積が急速に減少しています。一方で、ヨーロッパや東アジアの一部では、積極的な植林や、耕作する人がいなくなった農地や牧草地で自然に森林が回復したことなどにより、森林面積がわずかながら増えていると報告されています。

森林面積が減っても森林による二酸化炭素(CO2)吸収量も減るとはかぎらない

世界の森林面積が減少すると、樹木の葉・枝・幹・根などに蓄えられていた炭素が、燃焼や分解により大気へ放出されます。また、それまでCO2を吸収していた森林が失われるのですから、世界の森林によるCO2吸収量も減少すると予想する人も多いでしょう。ところが必ずしもそうとは限りません。

植物の葉は昼間に太陽の光を利用して光合成を行い、CO2を吸収します。一方、植物の葉・枝・幹・根は昼も夜も呼吸を行い、CO2を放出します。また、土壌の中に棲む微生物は、落ち葉などの有機物を分解することにより、昼も夜もCO2を放出します。森林はCO2をたくさん吸収すると同時にたくさん放出するため、それらの差し引きである正味のCO2吸収量を正確に求めるのは大変難しいことです。正味の吸収量は、日射量・気温・降水量といった気象条件、大気中のCO2濃度、樹木の種類や年齢などによって増えたり減ったりする量なので、世界の森林面積が減ったからといって、世界の植物によるCO2吸収量も減るとは限らないのです。

植物によるCO2吸収量が増えているかどうかは未解明

現在、地球全体でのCO2収支の実態を理解するため、大気・海洋・陸上植物の間で、どれだけのCO2が交換されていると考えれば全体的につじつまが合うかを調べる試みが行われています。最近までに、化石燃料消費などによって放出されたCO2のおよそ半分が大気に蓄積され、残りが海洋または陸上植物に吸収されていると推定されています(図1)。化石燃料消費量と大気中の蓄積量については比較的正確に見積もることができますので、海洋または陸上植物がCO2をある程度吸収していると考えざるをえません。海洋や陸上植物が吸収する量は、場所によっても時間によっても変化しますから正確に求めるのは難しいのですが、数多くの研究結果から総合的に判断すると、どちらか一方だけが吸収すると考えるには無理があり、海洋も陸上植物もともに吸収していると推測するのが妥当であるようです。もしこの推測が正しいとしたら、世界の森林面積が減少しているのは確かですから、森林減少によって放出される量を上回る量のCO2を陸上植物が吸収していると考えないとつじつまが合いません。

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図1人為起源の炭素放出が世界の炭素収支に与える変化の推定結果(2000〜2005年)

出典:IPCC第4次評価報告書第1作業部会技術要約[気象庁訳]にもとづき作成

陸上植物はそれだけのCO2を吸収できるのでしょうか? 実は、同じ種類の植物で比べると50年前や100年前の植物に比べて現在の植物の方がCO2をたくさん吸収しているのではないかと主張する研究結果が報告されています。そうした研究では、植物によるCO2吸収量が増える理由として、(1) 大気中のCO2濃度上昇による施肥(せひ)効果、(2) 人為起源の窒素酸化物による施肥効果、(3) 地上気温の上昇による効果などがあるのではないかと推測しています。

(1) のCO2濃度上昇による施肥効果とは、光合成の原料であるCO2の濃度が高いほど植物はCO2を吸収しやすいため、光合成が促進される効果をいいます。(2) の窒素酸化物による施肥効果とは、人間活動の影響によって大気に放出された窒素酸化物が、雨に溶けるなどして森林に降り注ぎ、植物の利用できる窒素肥料が増えるために成長がよくなる効果をいいます。(3) の地上気温上昇による効果とは、特に高緯度帯や高山帯などの寒冷地で生育する植物にとって、気温上昇により光合成速度が上がったり、1年のうちで光合成を行う季節が長くなったりする効果をいいます。

CO2や窒素の施肥効果を実験的に調べる研究も行われています。たとえば、野外で生育する樹木や農作物にCO2の濃い空気を吹きかけて植物の反応を調べるFACE(Free-Air CO2 Enrichment experiment: 開放系大気CO2増加実験)という実験が世界各地で行われていますが、その結果によると、大気中のCO2濃度を現在(およそ370ppm)の2倍程度にすると、樹木の成長量や農作物の収量が10〜30%程度増えるといった施肥効果があること、土壌中の窒素濃度が高いほど施肥効果が上がることなどがわかっています。その一方で、植物の種類や年齢によって効果の程度が違うこと、施肥開始から年数がたつと成長量や収量が増えなくなる場合があることなどがわかっており、世界の陸上植物が施肥効果をどれだけ受けているかについてはまだ正確には把握できていません。

CO2の吸収量を正確に計測するための研究

植物のCO2吸収量が地球規模で本当に増加しているかどうかについてはまだ正確な答えがありません。現在、世界中の森林のCO2吸収量の変化を調べるため、植物生態学・林学・気象学といったさまざまな分野で研究が進められ、樹木の年輪を調べる方法、樹木の直径成長量を計測する方法、気象学的な方法で大気から森林が吸収したCO2量を計測する方法など、さまざまな計測技術の開発が進められています。将来は世界中の植物によるCO2吸収量の総量をより正確に求めることができるようになるでしょう。

さらにくわしく知りたい人のために

  • 寺島一郎, 彦坂幸毅, 竹中明夫, 大崎満, 大原雅, 可知直毅, 甲山隆司, 露崎史朗, 北山兼弘, 小池孝良 (2004) 植物生態学. 朝倉書店.