RESULT2023年6月号 Vol. 34 No. 3(通巻391号)

最近の研究成果 2016年5月18-20日の間に北日本上空で観測されたシベリアバイオマス燃焼による一酸化炭素とエアロゾルの長距離輸送

  • Tran Thi Ngoc Trieu(地球システム領域衛星観測研究室/衛星観測センター 特別研究員)(現所属 情報通信研究機構)
  • 森野勇(地球システム領域 衛星観測研究室長/衛星観測センター)
  • 内野修(地球システム領域衛星観測センター 客員研究員)
  • 堤之智(地球システム領域衛星観測研究室/衛星観測センター 高度技能専門員)
  • 大山博史(地球システム領域衛星観測研究室/衛星観測センター 主任研究員)

最近、シベリアにおいて比較的大規模な森林火災が頻発しているが、北日本におけるシベリア森林火災から放出された一酸化炭素(CO)等の影響はあまり多く知られていない。

シベリアバイカル湖東側で激しい森林火災が発生した数日後の2016年5月18-20日に、北海道陸別上空で地上設置のフーリエ変換分光計(FTS)測定による高濃度COとライダー測定による自由対流圏の高度1-6 kmにおける高濃度エアロゾル層が観測された。その際にCOのカラム平均濃度(XCO)が5月19日11:15-13:50(JST)には150 ppbに達し、エアロゾル光学的厚さ*1のピーク値が、5月18日15:40(JST)には1.41、5月19日11:20 (JST)には1.28となった。

後方流跡線解析*2の結果、図1に示すように5月16-17日の間にシベリア森林火災の上空を通過した空気魂が陸別上空を通過したことがわかった。更に、札幌におけるAERONET*3の光学的厚さ、MODIS*4から推定した火災地点データ、IASI*5全量CO気柱量分布図を組み合わせることにより、ライダー測定による陸別上空における増加したエアロゾル濃度とFTS測定による高いXCOは、シベリア森林火災から輸送された煙流によることが確認できた。

北日本上空のシベリア森林火災の影響は、発生の規模・頻度や気象条件に依存し、更に大陸の人為起源COの濃度が影響することが考えられる。本研究はケーススタディであり、シベリア森林火災のこれらの影響の包括的な理解のためには限界があるため、日本上空の長期的な大気微量成分のモニタリングとそれぞれの起源の継続的な調査を行うことが必要である。

図1 NCEP/NCAR*6 全球再解析気象データを用いた2016年5月18日7時(UTC)を起点とする5日間のNOAA ARL*7 HYSPLIT*8後方流跡線解析結果。陸別上空の高度 2 km(赤)、3 km(青)、5 km(緑)の空気塊を起点とした。シベリア森林火災地点(赤星)を比較のために示した。
図1 NCEP/NCAR*6 全球再解析気象データを用いた2016年5月18日7時(UTC)を起点とする5日間のNOAA ARL*7 HYSPLIT*8後方流跡線解析結果。陸別上空の高度 2 km()、3 km()、5 km()の空気塊を起点とした。シベリア森林火災地点(赤星)を比較のために示した。