REPORT2023年2月号 Vol. 33 No. 11(通巻387号)

第13回「KYOTO地球環境の殿堂」表彰式と国際シンポジウムに参加して

  • 地球環境研究センター研究推進係

1. はじめに

2022年11月14日(月)、国立京都国際会館アネックスホールにて、第13回「KYOTO地球環境の殿堂」表彰式と、京都環境文化学術フォーラム主催の国際シンポジウム「地球と人の未来につなぐ ~持続可能な地球・地域・暮らし~」が開催されました。本稿ではその概要を報告いたします。なお、当日の様子は「KYOTO地球環境の殿堂」公式ウェブサイト(https://www.pref.kyoto.jp/earth-kyoto/annai/index.html)からご視聴いただけます。

KYOTO地球環境の殿堂とは、「京都議定書」誕生の地である京都の名のもと、世界で地球環境の保全に多大な貢献をした方の功績を永く後世にわたって称えるものです。京都から世界に向けて広く発信することにより、地球環境問題の解決に向けたあらゆる国、地域、人々の意志の共有と取り組みに資することを目的として、気候変動枠組条約第3回締結国会議(COP3)が開催された、国立京都国際会館にその功績を展示します(KYOTO地球環境の殿堂ウェブサイトから引用)。

京都の伝統技術「西陣織」で織り上げられた西岡氏の肖像織
京都の伝統技術「西陣織」で織り上げられた西岡氏の肖像織

「KYOTO地球環境の殿堂」13回殿堂入り者*1として以下の三人が選ばれました。

■ヨハン・ロックストローム氏(ポツダム気候影響研究所長)
ロックストローム氏は人類が生存できる範囲の限界(プラネタリーバウンダリー)の概念を提唱するなど、地球環境問題の解決に資する画期的な学術研究で貢献しました。

■村上一枝氏(歯科医師、カラ=西アフリカ農村自立協力会代表)
村上氏は、砂漠化と疾病、貧困に苦しむ西アフリカの農村地域において、地域の人々に寄り添いながら、地域環境と人々の暮らしを両立させる持続可能な社会をローカルから支える活動(公衆衛生、環境保全、教育活動等)を継続的に実践しました。

■西岡秀三氏(公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)参与)国立環境研究所元理事。1990年10月から1996年3月まで地球環境研究センター総括研究管理官
西岡氏は30年にわたるIPCC、UNEP等での活動を通じて、日本の地球環境研究(主に気候変動分野)の国際貢献を推進し、洞爺湖G8サミットで日本が提唱した「国際低炭素社会研究ネットワーク構想」の運営により、アジア各国をはじめとする国内外の気候政策の科学基盤構築に貢献しました。

国際シンポジウムに先立って行われた殿堂入り者表彰式で、西岡氏は、「1990年の地球環境研究センター設立時に、初代センター長の市川惇信国立環境研究所副所長(故人)が、問題解決指向の自立分散ネットワーク型巨大科学における新たな知見という『ピース』を埋めていくジグソーパズルの板が地球環境研究センターの役割であると述べました。30年後の今、世界の地球環境研究は『自立分散ネットワーク型巨大科学』の様相を呈しており、「これはまさに先見の明だったといえます」と挨拶しました。

2. 国際シンポジウム

(1)殿堂入り者の想いを語った記念講演
表彰式の後、「KYOTO地球環境の殿堂」の取り組みと連携した国際シンポジウムが開催されました。

ロックストローム氏はエジプトで開催中のCOP27に参加していたため、現地からオンラインで講演しました。

プラネタリーバウンダリー(人類が生存できる範囲の限界)の最新の評価では、9つの指標のうち生物多様性、淡水、窒素、リンなど6つがティッピングポイント(物事がある一定の条件を超えると一気に拡がる現象、転換点)を超えており、これは非常に深刻なことで、地球がこうしたストレスに対応する力が弱くなっていると、ロックストローム氏は述べました。

そして、地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定の1.5℃目標(世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて 2°Cより十分低く保ち、1.5°Cに抑える努力をする)を実現するためには、二酸化炭素(CO2)の排出量を2050年までに実質ゼロにしなければならないのだが、これまでの排出量から計算すると許される排出枠は400Gtしかないこと。1.5℃に抑えても、グリーンランド氷床や永久凍土の融解などティッピングポイントを超える可能性があるので、急速な対策を行う必要があると強調しました。そのためには、化石燃料を使わないものへの取り組みなど、科学的に可能なことをすべて行い、変革を起こし、ティッピングポイントを超えない安全なところに地球を戻さなければいけないと結びました。

パパイヤをとりに野菜園に集まったマリの子どもたち(配布資料より)
パパイヤをとりに野菜園に集まったマリの子どもたち(配布資料より)

1989年から西アフリカのマリ共和国の村で、地元の人の自立した生活の支援を行ってきた村上氏からは、過酷な環境に生きながらも、少しずつゆっくりと確実に暮らしを変えていくことの大切さが述べられました。

村上氏は、最近は、マリでも湖の水が干上がったり、雨季が早まったり、気温が高くなるなど、自然環境が変化していると説明しました。これまでの活動のなかで、日本の外務省の資金で村に小学校を建設して子どもたちに教育の機会を作ったこと、染物などの手仕事により、女性が収入を得られるようになったことが紹介されました。

また、病気を自分で治すことができるように、あるいは、病気にかからないようにするため、そうしたことを指導できる女性を200人近く育成したと述べました。特に重要なのは、日本からは最低限の援助に留め、現地の材料を使い現地の人の能力で進めることであり、幅広い知識を村民に伝え、教えられた人が各村に戻り、他の村民に教えていくことだと話しました。

西岡氏はスクリプス海洋研究所のロジャー・ルベル教授の言葉「人類は今、過去には起こり得なかったし、将来にも再現できない地球物理学大実験を始めている」を引用し、地球温暖化大実験を終わらせるための人類全員参加の歴史的大プロジェクトが進行中であると述べました。そしてこの地球大実験を止めるには、ゼロエミッションにするしかないこと、より良い新たな社会に変えるチャンスと捉えて前向きに取り組む覚悟が必要であり、今できることで今すぐ温室効果ガスの排出を大幅削減すること、「賭け」はできないこと、目標からさかのぼって最善の手を見極めることが重要と話しました。

気候安定化に向けた世界のチームワーク(人類全員参加の歴史的大プロジェクトが進行中)(西岡氏のスライドより)
気候安定化に向けた世界のチームワーク(人類全員参加の歴史的大プロジェクトが進行中)(西岡氏のスライドより)

西岡氏は最後に、われわれは新たな世界の創造というexcitingな時代におり、地球温暖化大実験を止められたら、世界の全人類参加の問題解決という最初の成功例ができると強調しました。

(2)さまざまな視点から議論したパネルディスカッション
ジャーナリストの国谷裕子氏がコーディネーターを務め、村上氏、西岡氏、山極壽一氏(総合地球環境学研究所長)がパネリストとなり、「地球の限界を知った私たちには何ができるのか」をテーマにパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションはさまざまな視点から議論が行われた(左から、国谷氏、村上氏、西岡氏、山極氏)
パネルディスカッションはさまざまな視点から議論が行われた(左から、国谷氏、村上氏、西岡氏、山極氏)。(「KYOTO地球環境の殿堂」公式ウェブサイト(https://www.pref.kyoto.jp/earth-kyoto/annai/index.html)動画より)

パネルディスカッションでは、気候変動や生物多様性の劣化などに対して、科学の声がなかなか一般の人に伝わらないのは、政治家と科学者との連携がうまくできていないからではないかという意見が出されました。社会を変えていく鍵は、太陽光など自然エネルギーを利用した地域発電などその地域の人の利益になるような事業を進めていくこと、そして、どうしていい方向に進まないかという理由を確認し、個人の意識を変えていくことにあるという話がありました。また、日常生活で無駄をしないとか、お金を稼ぐためだけに農業をするのではなく、みんなが楽しく食料を生産し、みんなで分配して食べることが農業の原点であることなど、途上国から学ぶこともあるとの説明がありました。

パネルディスカッションの終わりに、シンポジウムに参加している高校生など若い世代に、パネリストとコーディネーターからメッセージが送られました。その内容は、「世界中の人たちともっと交流してさまざまな文化に触れながらこれまでにない新しい価値を見出してほしい。未来はきみたちの手にかかっている(山極氏)」「いい社会は必ずくるし、社会が若い人の力を求めている。そういう社会がくるということを念頭におきながら、努力してほしい(西岡氏)」「自分で見て感じて選んで進んでいくことが大事(村上氏)」「大人たちに自分たちの声を突き付けてアクションを起こす力となっていってほしい(国谷氏)」というものです。

(3)未来を担う若者である府内高校生と村上氏、西岡氏とのトークセッション
最後に、京都府内の高校生を対象に実施されている「気候変動学習プログラム」*2を通じて気候変動について理解を深め、ビデオメッセージ作成などに取り組んだ府内高校生のなかから5名が選ばれ、阿部健一氏(総合地球環境学研究所教授)がコーディネーターとなり、村上氏と西岡氏とのトークセッションが行われました。

高校生からの質問に殿堂入り者の二人が丁寧に対応。(「KYOTO地球環境の殿堂」公式ウェブサイト)
高校生からの質問に殿堂入り者の二人が丁寧に対応。(「KYOTO地球環境の殿堂」公式ウェブサイト(https://www.pref.kyoto.jp/earth-kyoto/annai/index.html)動画より)

マリ共和国という国を知らなかった高校生のなかの一人が「途上国はこれからどのように発展していき、人々の暮らしがどうなっていくべきか」を尋ねたところ、村上氏は「他の国にできるだけ世話にならずに、自分たちの環境に適合した生活をして、基本的には自分たちの力で生きていく道を探って国づくりをするのが理想」と答えました。「脱炭素社会の実現において、若い世代に何を求めるか」という質問には、西岡氏が「若い人たちは今脱炭素社会のフロントラインにいて、将来はいろんな方面で自分の能力が役に立つのだから、まずは好きな分野の学習をしてほしい」と伝えました。

また、「温暖化対策を楽しく感じる方法はないか」という質問に、西岡氏は「どうしてみんな暗い世界だと思うのか。次の世界は絶対によくなると思う。今よりもっと楽しく暮らせると自分たちで信念をもってほしい」と答えました。「一人ひとりが温暖化対策をしてもあまり効果がないのではないか」との疑問については、「地球温暖化はみんなに責任があるのだから、一人ひとりの対策が重要」と、将来への不安ともとれるような高校生の発言に、西岡氏がポジティブに回答しました。登壇した高校生からは一人ひとりの小さな積み重ねがとても大事だということに気づいたという感想が聞かれました。

時間はあっという間に過ぎてしまい、まだまだ語り足りない雰囲気ではありましたが国際シンポジウムは終了しました。最後に殿堂入り者の二人と一緒に勉強会に参加した高校生たちとの記念撮影が行われました。

表彰式のオープニングと国際シンポジウムの休憩時間にはアンサンブルジャパン(尺八演奏家が代表を務め、バイオリンとピアノのユニット)の演奏が行われ、美しい音色の音楽が参加者を温かな気持ちにさせてくれました。

このほか会場内にはブースが設けられ、脱炭素社会の実現に資する企業・団体が先進的な取り組み等を発信していました。また、屋外ではEVの試乗や外部給電デモを、屋内では電動車いすやe-モビリティの試乗を実施していました。一日を通して、参加者が持続可能な地球に関する知識を得、自分たちに何ができるのかを考えることができるいい企画になっていたと思います。