RESULT2022年4月号 Vol. 33 No. 1(通巻377号)

最近の研究成果 降水量変化予測の不確実性低減に成功

  • 塩竈秀夫(地球システム領域 地球システムリスク解析研究室長)
  • 廣田渚郎(地球システム領域地球システムリスク解析研究室 主任研究員)

21世紀末までの世界平均降水量変化予測には大きな不確実性がありますが、これまで誰もその不確実性を低減することが出来ませんでした。将来の降水量変化の主要因はたしかに温室効果ガスの濃度増加ですが、19世紀から現在までの気温や降水量のトレンド(変化傾向)には温室効果ガスの濃度増加だけでなくエアロゾル(大気汚染物質)の排出量増加の影響がかなり含まれており、過去の長期トレンドから将来予測の不確実性を低減するための情報を得ることが容易ではなかったためです。

我々は、世界平均エアロゾル排出量がほとんど変わらず気温や降水量のトレンドに影響しない期間(1980-2014年)に着目して、この期間の気候モデルと観測のトレンドを比較することで、エアロゾル排出量増加の影響を受けずに温室効果ガス濃度増加に対する気候応答の信頼性が評価できると考えました。図1の縦軸は67の気候モデルによる21世紀後半までの世界平均降水量の変化予測で、横軸は1980-2014年の世界平均気温トレンドです。両者の間には、統計的に有意な相関があり、近年の気温上昇が大きいモデルほど、将来の降水量増加が大きい傾向にあることが分かりました。近年のトレンドを観測と比較して過大評価するモデルは、将来予測も同様に過大評価すると考えることで、将来の降水量増加の予測幅の上限を引き下げることができました。

この研究によって、これまで多くの研究が行われてきた気温変化予測だけでなく、降水量変化予測の不確実性も低減できるようになり、気候変動の影響評価や対策の政策決定者に対して、より正確な情報を提供できると期待されます。

図1 縦軸は将来の世界平均降水量変化予測。横軸は世界平均気温の1980-2014年トレンド。回帰直線を破線で示す。横向きのバーは2種類の観測データ(GISTEMP4とHadCRUT4)の1980-2014年トレンド。バーの幅は、内部変動による不確実性を考慮した5-95%幅。×と◇は個々のモデル(第5次および第6次結合モデル相互比較計画(CMIP5, CMIP6)に参加した67モデル)を表し、紫色は1980-2014年の気温トレンドがHadCRUT4より大きく観測データと整合的でないモデルで、黒色はそれ以外のモデル。縦向きの黒い箱ひげ図は、67モデルの平均値(50%値)および正規分布を仮定した17-83%幅と5-95%幅を示している。色付きの箱ひげ図は、観測との一致度に基づく各モデルの信頼性評価を考慮した不確実性幅。観測データ間のずれを考慮した箱ひげ図(組み合わせ)も示す。
図1 縦軸は将来の世界平均降水量変化予測。横軸は世界平均気温の1980-2014年トレンド。回帰直線を破線で示す。横向きのバーは2種類の観測データ(GISTEMP4とHadCRUT4)の1980-2014年トレンド。バーの幅は、内部変動による不確実性を考慮した5-95%幅。×と◇は個々のモデル(第5次および第6次結合モデル相互比較計画(CMIP5, CMIP6)に参加した67モデル)を表し、紫色は1980-2014年の気温トレンドがHadCRUT4より大きく観測データと整合的でないモデルで、黒色はそれ以外のモデル。縦向きの黒い箱ひげ図は、67モデルの平均値(50%値)および正規分布を仮定した17-83%幅と5-95%幅を示している。色付きの箱ひげ図は、観測との一致度に基づく各モデルの信頼性評価を考慮した不確実性幅。観測データ間のずれを考慮した箱ひげ図(組み合わせ)も示す。