NEWS2022年4月号 Vol. 33 No. 1(通巻377号)

令和3年度スーパーコンピュータ利用研究報告会を開催しました

  • 地球システム領域地球環境研究センター 研究推進係

地球システム領域 地球環境研究センター(以下、センター)は、2021年12月23日(木)に令和3(2021)年度スーパーコンピュータ利用研究報告会(以下、報告会)を開催しました。令和元(2019)年度までは毎年国立環境研究所(以下、国環研)内の会議室で開催しておりましたが、新型コロナウイルス感染症の流行状況を鑑み、令和2年度に引き続きオンラインのみでの開催といたしました。

国環研は、将来の気候変動予測や炭素循環モデル等の研究開発、衛星観測データの解析、その他基礎研究を支援する目的で、長年にわたりスーパーコンピュータ(以下、スパコン)を整備・運用し、所内外の研究者に計算資源を提供してきました。スパコンの利用・運用方針等は国環研に設置した「スーパーコンピュータ研究利用専門委員会」(以下、専門委員会)において審議を行っています。

利用を希望する研究グループは研究課題の申請を行い、規定に基づく審査と専門委員会の意見を踏まえて利用可否が判定されます。スパコンの利用が認められた場合、課題代表者またはその代理は、年に一度の報告会において成果報告を行うことが定められています。

令和3年度は7つの所内課題、2つの所外課題が採択されており、報告会では幅広い分野からの最新の研究成果が報告されました。その中のいくつかを紹介します。

「雲・降水プロセスに着目した気候変動予測の不確実性に関する研究」では、日本の気候モデルMIROCの中での雨の表現方法を改良した結果、対流圏の上層にある雲の量の変化を通して、温暖化が加速する効果の表現がより信頼できるものになったことが報告されました(図1)。

図1 大気上層の雲量と、雲による温暖化の加速効果の強さの関係(観測による大気上層の雲量が30%以上の領域で平均)。各点は、日本の気候モデルMIROCの雲・降水過程を改良する前と後、及び世界の研究機関で開発されている18個の気候モデル(CMIP5/6)を表す。衛星観測された現実の上層雲量は38.6%程度(オレンジ線)。MIROCでは、改良によって、上層雲量が観測に比べて過少だったバイアスが改善され、雲の高さが高くなることに伴う温暖化の加速効果の表現がより信頼できるものになった。(提供:廣田渚郎氏(国環研))
図1 大気上層の雲量と、雲による温暖化の加速効果の強さの関係(観測による大気上層の雲量が30%以上の領域で平均)。各点は、日本の気候モデルMIROCの雲・降水過程を改良する前と後、及び世界の研究機関で開発されている18個の気候モデル(CMIP5/6)を表す。衛星観測された現実の上層雲量は38.6%程度(オレンジ線)。MIROCでは、改良によって、上層雲量が観測に比べて過少だったバイアスが改善され、雲の高さが高くなることに伴う温暖化の加速効果の表現がより信頼できるものになった。(提供:廣田渚郎氏(国環研))

また、「閉鎖性水域における水環境・生態系への気候変動影響の予測と適応策に関する研究」では、気候シナリオに基づく陸域-海域シミュレーションを実施し、瀬戸内海の水環境が気候変動の影響によってどう変わるかについての予測結果が報告されました(図2)。

図2 現在気候(20世紀末)と将来気候(21世紀末)における、8月の瀬戸内海表層の水温と植物プランクトン(Chl.a)濃度。最も昇温傾向が強い気候シナリオ(RCP8.5)では、夏~秋に内海中央部や湾奥部において30℃を超える高水温となり、植物プランクトンの増殖が阻害されて一次生産が低下することを示唆している。(提供:東博紀氏(国環研))
図2 現在気候(20世紀末)と将来気候(21世紀末)における、8月の瀬戸内海表層の水温と植物プランクトン(Chl.a)濃度。最も昇温傾向が強い気候シナリオ(RCP8.5)では、夏~秋に内海中央部や湾奥部において30℃を超える高水温となり、植物プランクトンの増殖が阻害されて一次生産が低下することを示唆している。(提供:東博紀氏(国環研))

この他にも、大気汚染物質が気候変動にどのように影響するかについての研究や、地球全体の二酸化炭素収支を観測データを用いて逆解析する研究、陸面モデルに生態系・水資源・農作物・土地利用等のモデルを統合して将来予測を行う研究などの発表があり、それぞれスパコンの高い計算能力を活かして研究が進められていることが伝わる内容でした。

専門委員会には所外の3名の外部委員に参画頂いており、報告会において各研究課題のさらなる進展を促す貴重なご意見をうかがうことができました。また、専門委員会と国環研環境情報部から利用者に向けて、令和2年12月から令和3年11月までのスパコンの運用状況についての報告も行われました。令和2年3月から稼働を開始したベクトル型スパコンNEC SX-Aurora TSUBASAは大きなトラブルもなく順調に動いており、年間を通して60%以上(高い月では90%以上)の占有率で利用頂いていることが報告されました。

年の瀬のお忙しい時期にもかかわらず、課題代表者をはじめとするスパコンユーザーの皆様、所外の研究利用専門委員、所内各担当委員の皆様にご参加頂き、活発な研究議論を行うことができました。心より御礼申し上げます。

当日報告された内容の詳細については、センターのウェブサイト(https://www.cger.nies.go.jp/ja/supercomputer/)をご参照ください。サイトには、スパコンの紹介や、過去の報告会での発表内容に関する情報も掲載されています。