RESULT2021年12月号 Vol. 32 No. 9(通巻373号)

最近の研究成果 気候変動の予測、影響評価、利用者の連携を推進するにはどうすればいいのか?

  • 高薮出(気象研究所 気候・環境研究部第一研究室 主任研究官)
  • 花崎直太(気候変動適応センター 気候変動影響評価研究室長)
  • 塩竈秀夫(地球システム領域 地球システムリスク解析研究室長)

日本では過去20余年にわたり、気候変動の予測と影響評価に関する膨大な研究が行われ、さまざまな予測情報と知見が得られてきました。しかし、これらの予測情報や知見が気候変動対策の意思決定に資する情報として、国・地方公共団体や事業者など(利用者)にまできちんと届き活用されてきたかといえば、まだ十分とはいえません。また、気候予測と影響評価の研究コミュニティの間でさえ、相互理解や意思疎通は簡単ではありません。

そのような状況を改善すべく、著者ら「気候変動予測及び影響評価の連携推進に向けた検討チーム」は2期4年間にわたり議論を重ねてきました。また、のべ160名の参加者を集めた2度のワークショップで幅広い分野の専門家からご意見をいただきました。そこで議論されたさまざまな課題や解決に向けた糸口についてオピニオンペーパーとしてまとめたのが本論文です。

2018年に施行された気候変動適応法によって、おおむね5年ごとに気候変動影響報告書を作成し、それに基づき適応計画を改定していくことが決まりました。本論文ではまず議論の前提として、この報告書の5年サイクルが予測研究、影響評価研究および政策決定においてもペースメーカーになりつつあることを紹介しています(図1)。この図で重要なのは、研究を行いその成果を公表するためには時間がかかるため、予測→影響評価→利用者という流れにはどうしてもタイムラグが生じるということです。コミュニティ間で十分な情報交換・意思疎通を行わなければ、予測から影響評価までで1世代(5年)、利用者に届くまでにはそれ以上の時間を要してしまいます。

そこで我々は、気候予測と影響評価のコミュニティ間の予測情報の流れやコミュニケーションの課題を整理し、現在直面する課題を出発点として、将来実現すべき姿を検討しました(フォアキャスト型の議論)。50以上の項目が挙げられましたが、その中から「実現は困難だが重要で、2030年の影響評価報告書において実現されているべき事項」を絞り込み、「不足しているのは予測情報や知見そのものというよりは、それらの円滑な伝達であり、そのための時間・労力・人手を割り当てなければならないということ」であるという結論を得ました。

次に、気候予測、影響評価、利用の理想像を描き、そこから逆算して、気候予測と影響評価の研究者は2030年と2025年の影響評価報告書までに何をすべきか、また利用者は何を望むのかというバックキャスト型の議論を行いました。その結果、そもそも利用者側(自治体など)がそのような長期のタイムラインを持っていないこと、そしてそのことに気候予測・影響評価コミュニティがこれまで気づいていなかったことが浮き彫りとなりました。これは、気候予測・影響評価コミュニティの長期計画が利用者と十分に共有されてこなかったことも一因です。予測情報や知見が創出される前の段階での相互の情報交換やすり合わせ(たとえば、いついつまでに情報が得られるということを前提とした中長期計画の政策検討や、研究の計画段階でほしい情報をリクエストするなど)の改善や、その実現のための制度や設備の整備が必要であることが示されました。

本論文を、問題の解決に向けた議論の出発点としていただき、コミュニティ間の連携を強めていければと考えています。

気候予測、影響評価、対策のおおよそのスケジュール感と関連性
図1 気候予測、影響評価、対策のおおよそのスケジュール感と関連性。2023年以降のスケジュールは仮のものです。