RESULT2020年9月号 Vol. 31 No. 6(通巻357号)

最近の研究成果 屋根上太陽光発電と電気自動車を組み合わせた都市の新たな電力システムの可能性

  • 小端拓郎 (地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 特別研究員)

人為起源のCO2排出に伴い大気中のCO2濃度が上昇し、地球温暖化に伴う異常気象がますます頻繁に起こり始めています。将来の気候変動を最小限にするためには、最も経済的な手法で、大規模に脱炭素化を行っていく必要があります。これには、通常は大きく変動する再エネ電源を安価で自由に使いこなすことができる仕組みを作ることがカギとなります。

本研究では、2030年に向けて価格が特に安くなると予想されている太陽光発電(PV、電気自動車(EV)を京都市全体に導入し、EVを蓄電池として用いた場合(SolarEV Cityと呼びます、どのような経済的メリットおよび脱炭素化をもたらすか試算を行いました(図。試算においては、プロジェクト期間25年、割引率3%(将来の価値を現在の価値へ換算する際に用いる年率)を用いました。PV容量は、京都市内の建物屋根面積の70%使用を最大とし、経済性が最も高くなる容量を計算しました。

その結果、2018年の時点で屋根上PVはすでに経済性がありましたが、2030年にはPVとEVを組み合わせたシステムが最も経済性が高く、CO2排出削減につながることがわかりました(図

特にPVの容量が最大となるケース(京都市の屋根面積の70%にPVを設置)では、すべての乗用車をEVとし蓄電池(バッテリー容量の半分を使用)として用いることで、京都市の1年間の消費電力と同量の電気を発電することが可能であり、電力の需要・供給バランスを考慮しても70%の電力需要をこのシステムから市内に供給できます。また大容量のPV(7.4 GW)にも関わらず、PV発電量の70%を市内で消費が可能となります。

また、このシステムを導入した際の、現在の電気料金・ガソリン価格をベースとしたコスト削減率は、2030年に25–37%となります。そして、電力・ガソリン消費に伴うCO2排出は、システム導入により74%削減できます。このシステムを実現するためには、PV、EVの普及とともに、分散型電源システム(コミュニティー内での電気のやり取りが可能となるシステム、これが可能となる規制改革(託送料金等)や、コミュニティーの合意形成などが重要となります。

本研究は、総合地球環境学研究所の実践プロジェクト・予備研究「次の千年の基盤となる都市エネルギーシステムを構築するためのトランジッション戦略・協働実践研究」代表:小端拓郎)の一環として行われました。

 京都市における「PVシステム(2018年は青、2030年は橙PV + EVシステム(緑EV充電のみ(赤」を導入した際の、コスト削減率(左)とCO2排出量削減率(右。Sellは、余剰電力の買取あり(9円/kWh、no sellはなし。+1%は、プロジェクト期間中に電気料金が毎年1%上昇、0%は、電気料金が変わらない場合を想定しています。