最近の研究成果 熱帯アジア域の干ばつ・森林火災・火災由来CO2・PM2.5排出量に過去と未来の温暖化が与える影響について
2015年、熱帯アジアでは干ばつに伴う大規模な熱帯林火災が発生し、膨大な量のCO2が排出され、また深刻な大気汚染がもたらされた。我々は気候モデルを用いて、「2015年条件での実験(現在実験)」と「海面水温等から産業革命以降の温暖化成分を取り除いた非温暖化実験」をそれぞれ100年ずつ計算し比較することで、過去の温暖化によって2015年の観測値よりも大きな干ばつ(図1aの破線より負に大きい降水量偏差)の発生確率が統計的有意に増加していたことを示した。
また、火災面積、CO2排出量、PM2.5排出量に関しても、過去の温暖化によって2015年の観測値よりも大きな値(図1b–dの破線より正に大きな値)になる確率が増す傾向がみられたが、その差は有意ではなかった。
「1.5°C温暖化実験」と「2.0°C温暖化実験」の結果から、たとえパリ協定の気候安定化目標(1.5°C/2°C目標)が達成されたとしても、干ばつ、森林火災、火災に伴うCO2排出量とPM2.5排出量が現在より統計的有意に増加することを予測した(2.0°C温暖化実験より1.5°C温暖化実験の変化が大きくなっているのは海面水温変化パターンの違いによる。詳細な説明は論文を確認されたい)。これらの影響を低減するためには、火災を防ぐ森林管理の強化などの適応策が必要になる。
現在の各国の温室効果ガス削減約束を合わせても3°C温暖化してしまうと指摘されている。「3.0°C温暖化実験」では、パリ協定の目標が達成された場合に比べて、干ばつ、火災、火災に伴うCO2とPM2.5の排出が悪化することもわかった。言い換えると、この差はパリ協定の目標を達成するために追加の温室効果ガス削減を行うことのメリットを示している。