わが国の2018年度(平成30年度)の温室効果ガス排出量について 〜総排出量12億4,000万トン、5年連続の排出量減少、1990年度以降最少〜
1. はじめに
わが国は国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change 以下、UNFCCC)等のもと、国際的な責務として日本国の温室効果ガスの排出・吸収量の算定を行っています。
国立環境研究所地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan 以下、GIO)では、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガス排出・吸収量を算定し、それをとりまとめた目録(インベントリ)を毎年作成し国連に報告しています。それと同時に、国内向けに排出量の公表を行っています。GIOと環境省は2020年4月14日に、2018年度の排出量を公表しました。その概要を含め、わが国の状況について紹介します。
2. 温室効果ガスの総排出量の推移と増減要因
1990年度から2018年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を図1および表1に示しました。
2018年度の温室効果ガス総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数*1を乗じ、CO2換算したものを合算した量)は12億4,000万トン(CO2換算、以下省略)となりました。これは前年度排出量と比べて5,100万トン(3.9%)の減少、2013年度*2と比べて1億7,000万トン(12.0%)の減少、2005年度*2と比べて、1億4,200万トン(10.2%)の減少となり、2014年度以降5年連続の減少、さらには、排出量の算定を開始した1990年度以降最少となりました。
前年度及び2013年度と比べて排出量が減少した主な要因としては、再生可能エネルギーの導入拡大や原子力発電所の再稼働等により電力由来のCO2排出量が減少したことや、省エネや暖冬によりエネルギー消費量が減少したことがあげられます。
ここで1990年度からの長期スパンでの変化について触れたいと思います。
1990年度に12億7,600万トンであった排出量は、17年後の2007年度の13億9,600万トンに至るまで、幾度かの増減を繰り返しながら緩やかな増加を続けました。2007年度の排出量は1990年度比で1億2,100万トン(9.5%)の増加となりました。この緩やかな増加は、経済活動の進展によるエネルギー消費量の増加が主な要因と考えられます。
しかし、この翌年から2018年度に至るまで、一転してドラスティックな変化が起こりました。2008年度後半に起きた世界的な金融危機(いわゆるリーマンショック)による景気後退の影響で生産活動が低迷したため、排出量はエネルギー消費量の減少に応じて一気に減少しました。2009年度までのわずか2年間に2007年度比1億4,500万トン(10.4%)減少し、2009年度の排出量は、1990年度を下回り、12億5,100万トンとなりました。
その後は、景気回復による経済活動の活発化や東日本大震災後の原発稼働停止により火力発電による発電量が増加したため、2013年度に至るまでは一転して4年連続で増加し続け、2013年度の排出量は過去最高の14億1,000万トンとなりました。4年間で1億5,900万トン(12.7%)の増加となりました。その後は先に述べました通り減少に転じ、2013年度から2018年度に至るまで下がり続け、今般の報告対象年である2018年度は1990年度以降最少となりました。
ここで着目したいのは、2015年度以降の減少が実質国内総生産(GDP)の動きと連動していないという点です。図2より、GDPがプラス成長を維持しているのに対し、排出量は減少していることが見て取れるかと思います。GDPの増加は排出量の増加に寄与する傾向にありますが、近年は電力の低炭素化や省エネの取り組み等の影響が上回り、排出量自体は減少となっている状況が連続して生じているということです。
3. 各温室効果ガスの前年度および2013年度からの排出量の増減要因
次にガスの種類別に前年度及び2013年度と比較した排出量増減の詳細を紹介します。
(1)二酸化炭素(CO2)
2018年度のCO2排出量は11億3,800万トンであり、前年度と比べて5,200万トン(4.4%)減少しました。また、2013年度と比べて1億7,920万トン(13.6%)減少しました。
部門別(電気・熱配分後)*3に見ていきます。表1および図3に部門別の推移を示しました。
2018年度の産業部門からの排出量*4は3億9,800万トンであり、前年度比で1,190万トン(2.9%)減少、2013年度比で6,500万トン(14.0%)減少しました。前年度からの減少は、製造業における電力のCO2排出原単位(電力消費量当たりのCO2排出量)の改善により電力消費に伴う排出量が減少したこと等によります。2013年度からの減少については、電力のCO2排出原単位の改善に加え、省エネ等によりエネルギー消費量が減少したことがあげられます。
2018年度の運輸部門からの排出量は2億1,000万トンであり、前年度比で300万トン(1.4%)減少、2013年度比で1,380万トン(6.2%)減少しました。前年度からの減少は、燃費の改善等によるエネルギー消費原単位(輸送量当たりエネルギー消費量)のさらなる改善のため、旅客自動車(乗用車等)からの排出量が減少したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、燃費の改善に加え、貨物輸送において輸送量そのものが減少したこと等があげられます。
2018年度の業務その他部門*5からの排出量は1億9,600万トンであり、前年度比で1,380万トン(6.6%)減少、2013年度比で4,170万トン(17.6%)減少しました。前年度、2013年度からの減少は、電力のCO2排出原単位が改善されて電力消費に伴う排出量が減少したことや、エネルギー消費原単位(第三次産業活動指数当たりのエネルギー消費量)が改善しエネルギー消費量が減少したこと等によります。
2018年度の家庭部門からの排出量は1億6,600万トンであり、前年度比で2,070万トン(11.1%)減少、2013年度比で4,210万トン(20.3%)減少しました。
前年度からの減少は、前年度に比べ全国的に冬の気温がかなり高かったこと等により、エネルギー消費量が減少したことや、電力のCO2排出原単位の改善により電力消費に伴う排出量が減少したこと等によります。2013年度からの排出量の減少は、電力のCO2排出原単位が改善したことに加え、省エネ等によりエネルギー消費原単位(世帯当たりのエネルギー消費量)が改善しエネルギー消費量が減少したこと等によります。
いずれの部門においても、電力のCO2排出原単位の改善および省エネの進展の影響が明確に現れました。
2018年度の非エネルギー起源CO2排出量*6は7,850万トンであり、前年度比で110万トン(1.4%)減少、2013年度比で320万トン(3.9%)減少しました(表1)。前年度、2013年度からの排出量の減少は、工業プロセス及び製品の使用分野からの排出量が減少したこと等によります。
(2)メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3)
CO2以外のガスについては、図1および表1に推移を示しました。
2018年度のCH4排出量(CO2換算)は2,990万トンで、前年度比で38万トン(1.3%)減少、2013年度比で270万トン(8.2%)減少しました。前年度からの減少は、廃棄物分野(埋立等)における排出量が減少したこと等によります。2013年度からの減少は、農業分野(稲作等)や廃棄物分野(埋立等)において排出量が減少したこと等によります。
2018年度のN2O排出量(CO2換算)は2,000万トンで、前年度比で42万トン(2.0%)減少、2013年度比で150万トン(7.0%)減少しました。前年度及び2013年度からの減少は、燃料の燃焼・漏出、および、工業プロセス及び製品の使用分野において排出量が減少したことによります。
2018年のHFCs、PFCs、SF6、NF3のそれぞれの排出量(CO2換算)は4,700万トン、350万トン、200万トン、28万トンでした。前年比でそれぞれ210万トン(4.7%)増加、3万トン(0.7%)減少、3万トン(1.3%)減少、17万トン(37.2%)減少、2013年比でそれぞれ1,490万トン(46.4%)増加、21万トン(6.3%)増加、3万トン(1.6%)減少、130万トン(82.5%)減少しました。
HFCs排出量の前年及び2013年からの増加は、オゾン層破壊物質であるハイドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)からHFCsへの代替に伴い、冷媒分野において排出量が増加したこと等によります。わが国の温室効果ガスの中で唯一、顕著な増加傾向にあるのが、HFCsとなっています。
4. 吸収源活動の排出・吸収量
ここまで、わが国の排出源における排出量の変動と変化要因について触れてきましたが、この節ではわが国の吸収源活動における目標値と現時点の状況について触れたいと思います。
2018年度の吸収源活動の排出・吸収量*7は5,590万トンの吸収(うち、森林吸収源対策(「新規植林・再植林」、「森林減少」、「森林経営」の合計値)による吸収量が4,700万トン、「農地管理」・「牧草地管理」による吸収量が760万トン、都市緑化等の推進(「植生回復」)による吸収量が120万トン)となっており、2005年度総排出量(13億8,200万トン)の4.0%、2013年度総排出量(14億1,000万トン)の4.0%に相当します。
吸収源活動の実施による吸収量をわが国の排出削減目標達成のために活用することとしており、カンクン合意下の2020年度目標では、森林吸収源対策により約3,800万トン以上、植生回復により約120万トン、農地土壌吸収源対策により約770万トン*8の確保を目標としています。
また、パリ協定下では2030年度目標に対して、吸収源活動により約3,700万トン(2013・2005年度の総排出量比2.6%相当(森林吸収源対策により約2,780万トン、農地土壌炭素吸収源対策および都市緑化等の推進により約910万トン))の確保を目標としています。
5. おわりに
2020年以降の地球温暖化防止の国際枠組である「パリ協定」は、産業革命以降の平均気温上昇を2°Cより十分低く抑え、1.5°C未満を目指す努力を追求するという世界共通の長期目標を掲げています。
パリ協定には京都議定書のように法的拘束力のある数値目標はなく、各国が自主的に決定する貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)を表明し、排出量や目標達成の進捗状況について透明性を担保した形で報告し、世界全体での進捗確認を繰り返すことで排出を削減するという考え方に基づいています。
わが国は、パリ協定の下で、温室効果ガス排出量を2030年度に2013年度比26%(2005年度比25.4%)削減するという目標を掲げています。この度の算定によると、2018年度の温室効果ガス排出量は前年(2017年)度比では3.9%、2013年度比では12.0%下回りました(表1)。これは、先にも述べましたが、再生可能エネルギーの導入拡大や原子力発電所の再稼働等により電力由来のCO2排出量が減少したことや、省エネや暖冬等によりエネルギー消費量が減少したこと等が理由に挙げられました。
排出量は、過去のトレンドでも触れたように社会的・経済的要因によって大きく増減します。2020年2月から拡大を続けている新型コロナウィルス(COVID-19)感染症により、世界中が世界恐慌以来の大きな経済的打撃を受けていると報じられていますが、温室効果ガスについても、経済活動の低迷による大幅な減少とその後の回復期の増加が見込まれます。
一方で、省エネや電力の低炭素化は排出量の減少に継続的に寄与します。今後の温室効果ガス排出量の推移への影響を注視していきたいと考えております。
本稿に使用した2018年度の温室効果ガス排出吸収量に関する情報をGIOのウェブサイトにて公開しております。GIOでは、この度(2020年6月〜)、ウェブサイトをリニューアルしました〈https://www.nies.go.jp/gio/index.html〉。今後もウェブサイトや報告書において、より情報を利用しやすくするなど、公開情報の改善を図っていく予定です。