2020年1月号 [Vol.30 No.10] 通巻第349号 202001_349005

【最近の研究成果】 メタン排出の起源を探る:大気中メタンの安定炭素同位体比の測定を開始

  • 環境計測研究センター 動態化学研究室 研究員 梅澤拓

メタンは重要な温室効果ガスであり、CO2と合わせてその排出削減に取り組むことが重要です。メタンは、化石燃料消費や農業(水田・畜産)など様々な人間活動のカテゴリーから排出されますが、湿原など自然起源の排出も存在します。人為排出の削減を効果的に実行するためには、メタンの排出源の分布や排出強度を、排出カテゴリー別に正確に把握することが必要です[1]。この課題に取り組む方法のひとつが、大気中メタンの安定炭素同位体比(δ13C)の測定です。メタンが排出カテゴリー別に特有の同位体比を持つことを利用して、異なるメタン排出源の寄与を観測データから推定することを目指します。しかし、メタンの安定炭素同位体比の高精度測定は、非常に複雑かつ高度な計測技術を必要とします[2]。本研究では、従来の分析手法で不可欠だった液体窒素などの冷媒を使用せずに新たな自動測定システムを構築し、大気観測に必要な高精度を達成した上で、冷媒の補充などの分析の手間を大幅に軽減することができました。今後、当研究所の大気モニタリングプログラムで取得される大気試料の分析を効率的に進め、メタン排出源のカテゴリー別推定に有用な観測データを提供できると期待しています。

本研究は、(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費課題2-1710「メタンの合理的排出削減に資する東アジアの起源別収支監視と評価システムの構築」(代表:伊藤昭彦)の一環として行われました。

 本研究で開発したメタンの安定炭素同位体比の測定システムの概略図。大気試料中のメタンを濃縮・分離し、酸化炉でCO2に燃焼させてから同位体比質量分析計(IRMS)で測定する。濃縮トラップ(T1とT2)を冷却するため従来は液体窒素などの冷媒が使用されていたが、本研究では冷凍機(FPSC)を使用することで自動化と労力軽減に大きな改善が得られた

本研究の論文情報

A cryogen-free automated measurement system of stable carbon isotope ratio of atmospheric methane
著者: Umezawa, T., Andrews, S. & Saito, T.
掲載誌: Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol. 98, No. 1, https://doi.org/10.2151/jmsj.2020-007, 2020

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