2015年10月号 [Vol.26 No.7] 通巻第299号 201510_299007

見えたもの、感じたもの —会議の傍らにて 桑年見聞録—

  • 地球環境研究センター 主幹 井桁正昭

この記事が出る頃は、秋の足音が着実に聞こえつつある頃と思いますが、私としては、(この記事を書いている現在)夏休みの宿題を駆け込みでやっている小学生のような気分です。ちょうど今日(執筆当日)のような照りつける夏の日差しでもあたりから吹き込む風は熱気や湿気を含んでいなく、そんな爽やかな風が身体を抜けると、まるでインドネシアの『あの時の』早朝の浜辺にいるような感覚を思い起こさせます。そうした感慨にひたりつつも、一方で必死に記憶を呼び戻しながら冷や汗と脂汗をかきながら原稿に向かっております。

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写真1朝の景色(会場隣接の海辺にて。海外にいたとあって、より一層幻想的な気分です)

そもそもこの私、今年の4月より現職を拝命いたしました。拝命早々に、「8月にインドネシア行ってもらうから…」と切り出され、人生初の「南半球」ということもありますが、何よりも英語がままならないこともあり、こうした場面ではいつも「有り難い」のやら「困った」ものやらの複雑な心境を抱きつつ行って参りました。私が思っていた北半球との違いは、水の流れる「渦」が自転の影響で右回りになったり(あとで調べたら、実際は影響しないとのことです)、日本で言う太陽が正午に真南にくる「南中」が南半球では北側に位置したりするのだと無意味に楽しんでいました。

今回のWGIA13の出張先のような会議場では一般的に「Wi-Fi」が利用されています。拠点が宿泊先と会議場一体で、会議場では会議用の個別IDが割り振られていたため問題はなかったのですが、会議場から一歩外に出ると宿泊客用Wi-Fiとなり、途端につながらないことがあり、特に時間外での必要なやりとりに苦労されている場面を多く目撃しました。早朝のプールサイドや夜遅くホテルのロビーで「夏休みの昆虫採集」ならぬ「Wi-Fiの電波取り」に一所懸命になっている場面に何度も遭遇いたしました。経験上、数多くの国際会議で会議以外での情報通信機器を利用した情報のやりとりは非常に重要であると学んでおりましたが、こればかりは何年経っても満足できる状況は難しいものなのだと思った次第です。

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写真2夕日(会場隣接の海辺にて。やはり海辺の夕日は絵になります)

しかしながら、私の予想に反したこともありました。それは過去に参加した会議は、全て侃々諤々、丁々発止の議論が行われていたものばかりで、今回も「殺伐とするのかなぁ」と思っていたのですが、むしろ学びの場という感じであり、穏やかに進行していたのがとても印象的でした。

ワークショップについての詳細は、別途報告されているので、私からお話しすることはありませんが、ここに集まるアジア各国の方々から「学び取ろう」とする姿勢に感銘を覚えました。それは、用意されたワークショップの中だけでなく、あちらこちらで話し合いの集いが見受けられました。残念ながら話している内容は私にはわかりませんが、食事をしながら気楽に、または、膝をつき合わせて真剣に打合せをしている場面を数多く目の当たりにしました。学ぶこととあわせて、楽しむことも必要で、ワークショップでは、様々な交流があり、皆さんが肩肘張らず楽しく学ばれていることも印象深く思いました。

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写真3穏やかに進行しつつも、真剣な面持ちでのワークショップ

その代表的なものとしてあげられるのが、ワークショップ後に行われたスタディーツアーではなかったかと思います。私も参加させて頂きましたが、一昔前の日本でも郊外に出かければ見慣れた、または知られたものが多くありました。スタディーツアーで見たものは創意工夫により環境負荷の少ない「地球に優しい」ものが多くありました。私が見たものとは、インドネシアにおける気候変動適応/緩和におけるローカル・イニシアティブ(Proklim)というものだそうで、この「Proklim」とは、総合的な気候変動緩和や適応に向けたアクションを実施するに当たって、地域のコミュニティの積極的な参加を評価するためのプログラムということで、国や地方レベルの温室効果ガス削減目標の実現に貢献し、気候変動の影響に対するコミュニティの適応能力を高めるそうです。

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写真4スタディーツアーで写真中央の説明者の話に聞き入る参加者の方々

こうした取り組みや技術は、あまり複雑ではなく、日常生活から意識的に取り組めば実施できるものばかりでした。我々が生活する中で、普段何気なく見聞きしているのに気がつかないことばかりですが、より強い好奇心や探求の意識を持てば、新たな発見や気づきが生まれ、それらをきっかけに学ぶことにより、新たな知識となって蓄えられ、そして伝えることにより知識共有につながっていくのだと思いました。このワークショップの目的とは別に、私自身はそうした集大成の一部に参加できたと勝手に思っております。

最後に残念なことと言えば、私としては、せっかくの好機に巡り会ったわけで、気持ちとしてはもっと積極的に話をしたかったのですが、何せ英単語が頭に全く浮かんでこなくて沈黙することが多くありました。ワークショップで巡り会えた方々ともう少し話ができれば、また自ら見える世界が変わっただろうと思ったことと、あらためて己の根性の無さを痛感し、秋から再開される英語研修後半戦に対して気持ちを新たに学ぶことをここに誓ったところです。

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