2015年10月号 [Vol.26 No.7] 通巻第299号 201510_299003

地球環境研究センターは創立25周年を迎えました 3 地球環境研究センター設立25周年によせて

  • 国立環境研究所理事長 住明正
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まずは、筆者が最初に国立環境研究所(以下、国環研)の活動に関係した思い出を語ろう。それは、地球環境研究センター(以下、CGER)発足後のスーパーコンピュータの導入(1992年)の時であった。スパコンを導入し、気候モデルの開発を行い、地球温暖化の予測に取り組みたい、ということが当時の国環研幹部の強い意向であったように思う。90年当時は、地球温暖化が非常に注目され、温暖化予測に取り組まなければ遅れてしまう、という時代的な雰囲気であった。といっても、実現したのはスパコンの導入と少数の研究者の採用であった。現実には、気候モデル開発を行うにしては研究者が少なく、前途多難な状況であった。そのようなときに、当時大気圏環境部長だった鷲田伸明さんに、「うちの研究者を東大で自由に使っていいから一緒にやってくれ」と言われた。「組織の人間として大胆な発想をする人がいるな」と思った印象がある(どの組織も他機関のコントロールが自分の組織に入ってくるのを嫌うのである)。丁度、東大に気候システム研究センターが発足し、何人かの気候モデル開発の研究者を採用することができたので、共同して活動しIPCCの第2次評価報告書(1995年)の計算にもギリギリ間に合うことができた。その後、世界最速のスーパーコンピュータ(当時)としての「地球シミュレータ」が海洋開発研究機構に設置されて稼働を開始し、ひょうたんから駒のような状況で「地球フロンティア研究システム」が動き出した(1997年)。同時に、「地球シミュレータ」の運用に関連して「人・自然・地球共生プロジェクト」が発足した(2002年)。そして、それぞれの思惑を持ちながらも、東京大学-国立環境研究所-海洋開発研究機構の連携が実行に移された。「共生プロジェクト」が動く中で、なんとしても最新の成果を出さねば、というプレッシャーの中、何とか、温暖化に関する気候モデルの開発ができ、成果を出すことができたことを懐かしく思い出す。現在問題となっている課題に挑戦するには、個々の研究者の努力だけでは無理で、多くの研究者の協同が不可欠になる。言い換えれば。個々の研究者をまとめ上げ、引っ張っていくリーダーシップが必要とされるのである。

CGERは、当初は、国際的・学際的・省際的な総合的な研究を推進する場として想定されてきた。テーマ的には、時代の変遷により、変化してきたように思う。例えば、気候モデルの開発などを国環研だけで全面的に担うことは難しくなり、東大、気象研、海洋開発研究機構などにその役割を渡し、主として、解析などに力点が移っている。成層圏オゾンの問題も、一時の熱気はなくなってきている。また、社会科学的な研究や生態系などの研究は、別の研究センターとして発展してきている。一方、地球環境モニタリングやデータベースなどは継続的に行われている。

現在は、地表面でのフラックス観測や、航空機、船舶、そして、人工衛星と、全球の炭素循環の観測・解析に大きな力点が置かれるようになった。同時に、地道な努力で続けられてきたインベントリオフィスも、重要性をますます増している。また、Future Earthとして喧伝されている科学と社会のかかわり方の問題などが新しい課題として登場してきている。

以上のように、テーマは、時代とともに変化してゆく。萌芽期をCGERで過したものも、他に移り花開いたものも多い。このような中で、CGERの特質とはなんであろうか? それは、組織性を生かして新しいテーマに挑戦してゆく場ということであろう。人工衛星のセンサーを、SOFISから、GOSATによる温室効果気体の観測に切り替えて推進してきたことなどは、その典型といえる。

しかしながら、時間の経過とともに、過去の遺産が大きくのしかかってくる。成果が出れば出ただけ、維持しなければならない仕事が増大することになる。予算・定員が大きく伸びない中で、過去からの仕事を維持しつつ新しい研究を展開するという困難に直面することになる。

現在では、単なる知識の集積のみならず、具体的な課題に対する寄与、現実的な有効性が問われる状況にある。全球炭素循環の解明は、実は、人為的排出源の推定の精度向上のために不可欠なのである。その先には、どのように全球的に炭素の排出を管理するのか、そのような国際的な枠組み作りや、国内法などの政策的な対応が待っている。このような場面にも出てゆく必要がある。一方、基礎的な研究、将来を見据えた研究の種を発展させることも不可欠である。特に、「CGERには基礎的な研究をやってもらいたい」という社会の期待には大きいものがある。この世間の期待に応えるのも我々の仕事であろう。目先の仕事の向こうに長期的な目標を見据える必要がある。

「さて、次の25年に花開くテーマがいくつあるのだろうか?」自問しつつ、次の25年のCGERを担う研究の芽が大きく育つことを願う次第である。

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