2015年6月号 [Vol.26 No.3] 通巻第295号 201506_295001

わが国の2013年度(平成25年度)の温室効果ガス排出量について 〜京都議定書の第二約束期間における最初の排出量の報告〜

  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 高度技能専門員 尾田武文
  • 地球環境研究センター 温室効果ガスインベントリオフィス 連携研究グループ長 野尻幸宏

1. はじめに

わが国は国連気候変動枠組条約(以下、UNFCCC)のもと、国際的な責務として日本国の温室効果ガスの排出吸収量の算定を行っています。国立環境研究所地球環境研究センター温室効果ガスインベントリオフィス(Greenhouse Gas Inventory Office of Japan 以下、GIO)では、環境省の委託を受け、わが国の温室効果ガス排出吸収量を算定し、それをとりまとめた目録(インベントリ)を作成しています。GIOと環境省は2015年4月14日に、京都議定書の第二約束期間(2013〜2020年)最初の年である2013年度の排出量を「2013年度(平成25年度)わが国の温室効果ガス排出量」として公表しました[1]。その概要を簡単に紹介します。

2. 温室効果ガスの総排出量

1990年度から2013年度までのわが国の温室効果ガスの排出量の推移を表に示しました。2013年度の温室効果ガス総排出量(各温室効果ガスの排出量に地球温暖化係数[2]を乗じ、CO2換算したものを合算した量)は14億800万トン(CO2換算、以下省略)となりました。これは2005年度排出量[3]を0.8%上回り、2007年度に続く過去2番目に多い値です。その要因としては、オゾン層破壊物質からの代替に伴い冷媒分野からのハイドロフルオロカーボン類(HFCs)の排出量が増加したこと、原子力発電所の稼働停止による火力発電の発電量が増えたことで化石燃料消費量(エネルギー起源CO2の排出量)が増大したことなどが挙げられます。前年度比では1.2%(1,730万トン)増であり、4年連続の増加となります。その要因は、火力発電における石炭消費量の増加、業務その他部門において電力等のエネルギー起源CO2の排出量が増加したことなどが挙げられます。

各温室効果ガス排出量の推移(1990〜2013年度、単位:百万トン)[クリックで拡大]

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*土地利用、土地利用変化及び林業(Land Use, Land-Use Change and Forestry: LULUCF)分野の排出・吸収量は除く。

3. 2013年度の各温室効果ガスの排出量

次にガスの種類別に排出量増減の詳細を紹介します。

(1) 二酸化炭素(CO2

2013年度のCO2排出量は13億1,100万トンであり、2005年度比で0.5%の増加、前年度比で1.2%の増加となりました。

部門別(電気・熱配分後)[4]では、産業部門からの排出量[5]が2005年度比で6.0%の減少、前年度比で0.7%の減少となりました(図1)。2005年度からの排出量の減少は、生産の減少等に伴い製造業において排出量が減少したためです。前年度からの減少は、主に機械製造業、食品飲料製造業等において排出量が減少したことによります。

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図1二酸化炭素の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移(1990〜2013年度)[クリックで拡大]

運輸部門からの排出量は2005年度比で6.3%減少、前年度比で0.7%の減少となりました。2005年度からの排出量の減少は、旅客輸送(乗用車等)における燃費改善と貨物輸送(貨物自動車/トラック等)における輸送量の減少等により、旅客輸送及び貨物輸送からの排出量が減少したためです。前年度からの減少は、旅客輸送において排出量が減少したことによります。

業務その他部門[6]からの排出量は2005年度比で16.7%増加、前年度比で9.9%の増加となりました。2005年度からの排出量の増加は、火力発電の増加により電力の排出原単位が悪化したことや、事務所や商業施設などの延床面積が増加したことによります。前年度からの増加は、電力や石油製品の消費量が増えたためです。

家庭部門からの排出量は2005年度比で11.9%増加、前年度比で1.3%の減少となりました。前年度からの排出量の減少は、省エネの取り組みが進展したことや、その前年度が全国的に寒冬であったことにより、灯油等の燃料消費量が減少したためです。2005年度からの排出量の増加は、火力発電が増えて電力の排出原単位が悪化したことや、世帯数が増加したことによります。

非エネルギー起源CO2排出量[7]は、2005年度比で11.1%の減少、前年度比で1.8%の増加となりました。2005年度からの減少は、工業プロセス及び製品の使用分野(セメント製造等)からの排出量の減少等によります。

(2) メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)、パーフルオロカーボン類(PFCs)、六ふっ化硫黄(SF6)、三ふっ化窒素(NF3

2013年度のCH4排出量は3,600万トンであり、2005年度比で7.5%、前年度比で1.0%の減少となりました。2005年度からの減少は、廃棄物埋立量が減り廃棄物分野からの排出量が減少したこと等によるものです。

2013年度のN2O排出量は2,250万トンであり、2005年度比で12.0%、前年度比で0.1%の減少となりました。2005年度からの減少は、化学工業製品の生産量の減少等により工業プロセス及び製品の使用分野における排出量が減り、同時に、ガソリン自動車に対する排出ガス規制に伴い燃料の燃焼分野において排出量が減少したことによります。

2013年のHFCs、PFCs、SF6、NF3のそれぞれの排出量は3,180万トン、330万トン、220万トン、140万トンとなりました。2005年比でそれぞれ150%の増加、62.0%の減少、57.2%の減少、8.9%の増加、前年比でそれぞれ9.2%の増加、4.5%の減少、5.8%の減少、8.4%の増加となりました。2005年からのHFCs及びNF3の増加は、それぞれオゾン層破壊物質であるハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)からHFCsへの代替に伴い冷媒からの排出量が増加したこと、半導体製造等で使用するNF3の生産量が増え、NF3製造時の漏出による排出量が増加したことによるものです。また、2005年からのPFCs及びSF6の減少は、それぞれ半導体製造時のPFCs使用量の減少等による排出量の減少、マグネシウム溶解量の減少等に伴う金属生産分野における排出量の減少等によります。

4. 第二約束期間における温室効果ガス排出量の算定方法について

温室効果ガス排出量はUNFCCCの下での温室効果ガス排出・吸収目録の報告について定めたガイドラインに基づき算定されますが、第二約束期間においてはこのガイドラインが改訂されたことを受け、対象ガスの追加(HFC-245fa、HFC-365mfc、NF3など)、排出源の追加(石油精製プロセスにおける流動接触分解装置及び水素製造装置からのCO2排出など)、算定方法の変更(稲作からのCH4排出量を推計するDNDC-Riceモデルの適用など)及び地球温暖化係数の変更[2]を行い、第一約束期間(2008〜2012年)で用いた方法論と比べ、より正確に排出量を算定できるよう改善を施しました。その結果、昨年度報告したわが国の2005年度及び2012年度における温室効果ガス排出量は、それぞれ13億5,000万トン及び13億4,300万トンでしたが、今回とりまとめた排出量では、それぞれ13億9,700万トン(4,820万トンの増加)及び13億9,000万トン(4,740万トンの増加)と再評価されています。

5. 吸収源活動の排出・吸収量

わが国は京都議定書に基づく吸収源活動の排出・吸収量についても算定を行い、インベントリの補足情報としてUNFCCC事務局に提出しています。第二約束期間においては、京都議定書で規定されるすべての吸収源活動(「新規植林」「再植林」「森林減少」「森林経営」「農地管理」「牧草地管理」及び「植生回復」)について報告しています。わが国では「新規植林」「再植林」「森林減少」及び「森林経営」における吸収源活動を「森林吸収源対策」と、「植生回復」における吸収源活動を「都市緑化活動」と呼称しています。

2013年度の吸収源活動の排出・吸収量は6,100万トンの吸収(森林吸収源対策による吸収量5,200万トン、農地管理・牧草地管理・都市緑化活動による吸収量900万トン)となっており、2005年度総排出量の4.3%に相当します(うち森林吸収源対策による吸収量は3.7%に相当)。

6. おわりに

わが国は京都議定書の第一約束期間において、温室効果ガス排出量を基準年(原則1990年)と比べて6%削減するという目標を達成しました。続く第二約束期間では、わが国は京都議定書下における排出量の削減義務こそもたないものの、国際的な責務として引き続きカンクン合意に基づき自主的に排出量を削減していくとともに、温室効果ガスの排出量を算定しUNFCCCへの報告を行うこととなっています。わが国はこの度公表した排出量に基づき、本年末にパリで開催される締約国会議(COP21)に向け、2030年における削減目標を2013年度比−26%(2005年度比−25.4%)として国連に提出する予定です。

この度の算定によると、2013年度の温室効果ガス排出量は2007年度に続く過去2番目に多い排出量であり、2005年度比では0.8%、1990年度比では10.8%上回っています(図2)。排出量はさまざまな社会的・経済的要因によって増減します。一方でこの度の算定方法の改訂により算定結果は変化しており、昨年度の公表結果と比べて部門別排出量の推移などにおいて少なからず違った見え方になっています。今後もより正確な温室効果ガス排出量の推計を目指し、算定方法は継続的に改善されることとなっています。

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図2わが国の温室効果ガス排出量(2013年度確報値)[クリックで拡大]

本稿に使用した2013年度の温室効果ガス排出吸収量に関する情報をGIOのウェブサイト〈http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html〉にて公開しております。GIOでは、今後もウェブサイトや報告書において、より情報を利用しやすくするなどの公開情報の改善を図っていく予定です。

参考文献

脚注

  1. 第一約束期間における目標達成は昨年とりまとめた排出吸収量において既に評価済みであり、この度とりまとめた排出吸収量をもって再評価されないこととなっている。
  2. 地球温暖化係数(Global Warming Potentials: GWP):温室効果ガスが一定時間内に地球の温暖化をもたらす程度を、二酸化炭素の当該程度に対する比で示した係数。第一約束期間で用いたIPCC第二次評価報告書(1995)(以下SAR)に示される値に替えて、第二約束期間ではIPCC第四次評価報告書(2007)での値を用いる。CO2 = 1、CH4 = 25(SARでは21、以下同様)、N2O = 298(310)、HFC-134a = 1,430(1,300)、PFC-14 = 7,390(6,500)、SF6 = 22,800(23,900)、NF3 = 17,200(設定なし)などである。
  3. 第二約束期間においても基準年は原則として1990年とされるものの、ここでは日本が2020年における自主的な削減目標の基準としている2005年を比較対象としている。
  4. 発電および熱発生に伴うエネルギー起源のCO2排出量は、電力・熱消費量に応じて各最終消費部門に配分されている。また、廃棄物のうち、エネルギー利用分の排出量については廃棄物分野で計上している。わが国がUNFCCC事務局に提出している「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」では、2006年IPCCガイドラインに従い、これらの排出量が異なる分野・部門に計上されている。
  5. 産業部門(工場等。工業プロセスを除く)からの排出量は、製造業(工場)、農林水産業、鉱業および建設業におけるエネルギー消費に伴う排出量を表し、第三次産業における排出量は含んでいない。また、製造業の企業であっても、本社ビル等の部分は業務その他部門(オフィスビル等)に計上されている。特殊自動車(ブルドーザー、トラクターなど)は運輸部門ではなく産業部門に含まれる。
  6. 業務その他部門(オフィスビル等)には、事務所、商業施設等が含まれる。
  7. ここでいう非エネルギー起源CO2排出量は、エネルギー分野における燃料の漏出、工業プロセス及び製品の使用分野、農業分野及び廃棄物分野の排出量を合わせた値である。

2008年度以降の温室効果ガス排出量に関する記事は以下からご覧いただけます。

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