2015年6月号 [Vol.26 No.3] 通巻第295号 201506_295003

長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介— 10 紫外線を測りたい—その校正法とは—

  • (一財)地球・人間環境フォーラム研究業務部 次長 津田憲次

【連載】長期観測を支える主人公—測器と観測法の紹介— 一覧ページへ

紫外線(UV)を浴びすぎると肌や目には良くないと言われて、日焼け止めなどUVカットの製品を使いますが、一方で、紫外線を浴びるのが少なすぎるとビタミンDの生成量などの不安があります。ではそもそもこういった紫外線量の測定というものをどうやって行っているのか、特にB領域(290〜315nm​(1ナノメートル:1mの10億分の1))の紫外線量がここでの話題です。

地球環境研究センターは、全国で有害紫外線モニタリングネットワーク(UVネット)を各機関と協力しながら組織化し、国内の16機関21サイトで帯域型紫外線計(写真)による広域観測データを皆様にお届けしています。そのなかで、事務局として測定局間で精度のばらつきが生じないよう、設置方法から校正のタイミング、データの検証方法などを検討してきました。ネットワーク発足当初メーカーが行っていた校正法は、太陽光を利用して同型の測定器と比較測定を行い、その測定器と同等の出力が出るように内蔵の増幅器(アンプ、図1)を調整するというものでした。屋外で行う作業なので、「屋外校正法」とよばれます。屋外校正法の問題点は、天候に左右され、曇りや雨の日には作業ができないことです。屋外校正法は、強い太陽光を必要とするため、メーカーは夏の時期に校正を勧めますが、逆にユーザーは夏の強い紫外線を測りたいので、校正スケジュールの調整はいつも苦労します。

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写真UVネットワークで使用しているB領域紫外線放射計(MS-212W)の受光部 白く大きなプラスチック製の傘は日よけになっています。測定器内部が一定の温度に保たれているため、日よけが必要です。(出典:有害紫外線モニタリングネットワーク活動報告)

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図1B領域紫外線計の構造模式図と機能 [クリックで拡大] 光の入射角特性は石英ドーム内に設置された拡散版の配置で決まりますので、器差(測定器毎のばらつき)は大きくありません。また、温度特性に関しては、測定器自体が温度を調整して一定の内部温度を保持しているため小さく抑えられています。(出典:有害紫外線モニタリングネットワーク活動報告)

それでも観測開始から数年間は、後に述べるこの校正法の本質的な欠点に気付くことはありませんでした。しかし、観測実績を積む中で屋外校正法の問題点がはっきりと認識されるようになり、現在では全く別の校正方法(「屋内校正法」)が採用されています。

1. どうやって紫外線を測っているのか

ここで使われている帯域型の紫外線計は、図1にあるように太陽光をうけるドームのすぐ下に、太陽光がどの方向から来ても、均一に直下方向に光を誘導する拡散板というものがおかれています。その下にB領域の紫外線だけを透過させる光学的干渉フィルターというものでいらない光の領域をカットします。その透過した紫外線(ここではUV-B)を蛍光膜に当てます。蛍光膜は紫外線が当たると、蛍光灯のように可視光が発光するようになっており、その光をフォトダイオードで測定するというものです。

2. 内部アンプを調整せず、感度定数で管理する

長期観測にとって、測器の劣化をどのようにコントロールするかは大変重要な問題です。校正の度に感度の劣化を電気的にその都度調整するやり方では、データの連続性が失われてしまいます。そこで2005年から、UVネットでは校正時に電気的な調整をやめ、感度変化の情報を感度定数という数値で管理するようにしました。感度定数とは、測定器に当たるUV-B量 [W/m2] と、その時の出力電圧 [mV] の比で、校正完了時にメーカーから知らされていますが、校正時にこの値の変化として測器の状態を確認できるので、管理する立場からすれば好ましいことです。

さて、測器の感度の変化を、目に見える感度定数という数値で追跡できるようにはなりました。感度定数を使えば、測器の劣化の影響を補償することができますが、実はこの方法では屋外校正の条件により、見かけ上感度定数が10%程度も変化したようになるケースがあることがわかりました。なぜ、感度の変化がうまくモニターできないことがあるのか、それをすこし説明します。

3. 屋外校正法の限界

問題は、UVと言ってもその波長は100〜400nmまでいろいろな光の集まりだということです。そして、測定器はその測りたい紫外線の全ての波長域にわたって感度が同じではありません。その特性を帯域型紫外線計の分光感度(図2)と言います。しかも、この分光感度は、一つひとつの測定器毎に異なります。それが大きな問題です。さらに分光感度は、劣化と共に変化するので、なおややこしいわけです。太陽光を使って、基準となっている装置と、校正するべき装置を比較して、この二つの測定器の出力を合わせることになるのですが、校正する時間や季節により太陽光のUVの波長の特性が一定ではないので、ある時に合わせたものでも、時間や季節を変えて校正すると互いの関係性が変わってしまいます(ペクトルミスマッチ誤差とよばれる)。これらのことが、UV計の感度の連続性が保証されない大きな原因でした。こうして、この屋外校正法が長期観測に向かない校正法であることが次第に明らかになってきたのです。そこで、発足10年を目前にして、本格的な屋内校正への準備が始まりました。当ネットワークの技術支援機関の一つである東海大学総合技術研究所と測器メーカーでもあり、校正作業も行っていた英弘精機(株)の協力を得て、屋内校正法の確立に向けた作業が開始されました。

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図2B領域紫外線放射計(MS-212W)の相対分光感度の一例 [クリックで拡大] 相対分光感度とは波長305nmの分光感度を1として、それに対する比をとったもの。波長に応じて感度が変化する様子を表している。(出典:有害紫外線モニタリングネットワーク活動報告II)

4. 屋内校正法

屋内校正では、スペクトル照度が既知の標準ランプが使われます。例えば、NIST(米国標準と技術の研究所)の標準ランプが代表的で、気象庁高層気象台でも使われています。しかし、帯域型紫外線計では、標準ランプのスペクトル照度に対応した感度定数しか付きません。太陽光と標準ランプのスペクトル照度は大きく異なるので、単に標準ランプを照射して感度定数を決めただけでは使いものになりません。理論的には、太陽光を人工的に再現できるソーラーシミュレーターの光を使えば、簡単に最適な感度定数を付けることができます。太陽光発電の普及に伴いソーラーシミュレーターという言葉を聞く機会は多くなりましたが、紫外線計の校正システムとして考えた場合には、(1) 標準ランプに比べ紫外域の精度が良くない (2) コストが高いという理由から、まだ現実的ではありません。標準ランプを使い、なおかつ、既定の太陽光に対する感度定数を付ける方法が必要となりました。

5. UVネットワークで使える屋内校正法の構築

標準ランプに対する感度定数を求めることは比較的簡単です。測器に標準ランプを照射し、その時の出力電圧を測定すれば良いのです。では、標準ランプの代わりに、スペクトルのわかった太陽光を当てた時の出力電圧を、計算で求めることは可能でしょうか? 実は、測器の分光感度がわっていれば可能です。このカラクリを数式で説明します。式 (1) は、標準ランプの光:Lamp(λ) を照射した時の帯域型紫外線計の出力電圧を表しています。

電圧(Lamp) = α∫Lamp (λ)∙ρ(λ) (1)

ここで λ は波長、ρ(λ) は測器の分光感度を意味しています。積分の範囲は干渉フィルターで除去されない全波長域です。α は内臓アンプの特性を表す定数です。

この α は、測器の分光感度 ρ(λ) とランプの波長特性 Lamp(λ) がわかれば、基準ランプを照射して得られる電圧から計算できることがわかります。

基準ランプは、太陽光とは異なる波長分布をしているので、それを太陽光に当てはめてUV-Bを算定することを以下のように行っています。

まず、基準の太陽光を、衣類の紫外線防御指数としてよく知られているUPF(Ultraviolet Protection Factor)の計算に用いられる太陽光スペクトル(ここでは仮に SunR とする)を用います。このスペクトルは1990年にメルボルン(オーストラリア)の南中時に測定されたものです。この式を書き直すと、基準の太陽光:SunR(λ) の出力電圧は、

電圧(SunR) = α∫SunR (λ)∙ρ(λ) (2)

となります。分光感度 ρ(λ) と α が求まっていれば、基準太陽光のスペクトルがわかっているので、出力電圧が計算できます。この出力電圧と基準太陽光のUV-B(Sun) [W/m2] 量の比から、測定器の感度定数:κ が求まります。

こうしていつでも同じ基準太陽光に対する感度定数が計算でき、この感度定数を使って測定器の電圧値から、その時のUV-B量が計算され、校正前後で感度の連続性が保証できるようになりました。

6. 残された課題

上記の方法は、長期観測を支える校正法として観測の連続性という観点から成果を挙げています。しかし現状でも、基準の太陽光と日々の実際の太陽光のスペクトルの違いによるスペクトルミスマッチ誤差などは取り除くことはできません。将来、各測器の分光感度のばらつきをコントロールする方法(決まり)、つまりは国際的な校正法が整備されれば、トータルで精度を保証する仕組みもできるでしょう。

帯域型紫外線計は手軽に紫外線が測れるため、“ほとんど手入れ不要” という大変優れた測器である反面、“だから精度は期待できない” と言われないよう、しっかりとした管理が必要です。

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