2015年1月号 [Vol.25 No.10] 通巻第290号 201501_290008
【最近の研究成果】 Lauderにおけるプジェウエ火山噴火によるエアロゾル層のライダー観測結果について
2011年6月4日、南米チリにあるPuyehue-Cordon Caulle(プジェウエ)火山(40.6°S, 72.1°W) が、1960年以来半世紀ぶりに噴火した。大規模噴火で、航空機の運航に支障をきたす可能性があったため、ニュージーランドLauderに設置されている地上ライダーを用いて連続観測を行った。このライダーは、1992年から観測運用されていたものを、GOSAT(Greenhousegases Observing SATellite)の検証用に2009年に改良したものである。本研究では、この連続観測の地上ライダーデータを解析し、この噴火による火山性エアロゾルの特徴を把握し、GOSATプロダクツへの影響を考察することを目標としている。
解析に用いた地上ライダーデータは、532nmと1064nmの2波長で観測されたもので、532nmによる偏光成分も用いた。その結果、532nm後方散乱比[1]の鉛直分布とそこから導出されたエアロゾル層の光学的厚さの時系列から、観測期間中(6月11日から7月6日)にLauder上空をエアロゾル層の流れが3回通過したことがわかった(図1)。また、光学的厚さの値が大きく、532nm偏光解消度[2]の値も観測期間中に大きな値を維持していたことから、プジェウエ火山の噴火によるエアロゾル層全体における非球形粒子の割合が大きいこともわかった(図2a)。さらに、今回は532nmと1064nmの2波長で観測できたことで、後方散乱係数の波長指数を得ることもできた(図2b)。解析の結果、エアロゾル層の波長指数[3]は1.0付近の値を示していることから、粒径の大きい粒子を多く含んでいたことがわかった。以上の結果を、Ota et al. (2008) に示されたエアロゾルのGOSATプロダクツに対する推定誤差の結果と合わせて、GOSATのXCO2が約2%程度過小評価される可能性があることが明らかになった。
脚注
- 後方散乱比R
R = (βA + βM) / βM
βA:エアロゾルの後方散乱係数、βM:空気分子の後方散乱係数
(後方散乱係数βはFernald (1984) によるライダー方程式によるものとする)
後方散乱比は、エアロゾル粒子の屈折率や粒径分布が高度に対して一定であると仮定した場合、大気中のエアロゾルの混合比に比例する物理量で、値が大きいほど大気中に含まれるエアロゾルの量が多い。 - 偏光解消度δ
δ = P⊥ / (P∥ + P⊥) × 100%
P∥:偏光面に対して平行な成分、P⊥:偏光面に対して垂直な成分
δの値が0に近ければ粒子の形が球形(液滴)に近く、δの値が大きいほど非球形粒子(雲粒子や黄砂など)であることを示している。 - 波長指数(オングストローム指数)Aβ
Aβ = −ln(β532 / β1064)ln(532 / 1064)
β532:波長532nmでの後方散乱係数、β1064:波長1064nmでの後方散乱係数
波長指数は、エアロゾル層にどの程度の粒径の粒子が多く含まれているかを表す指数で、値が小さいほど大粒子が多く、値が大きいほど小粒子が多い。先行研究から、火山灰の波長指数は1.0付近の値を取ることがわかっている。
参考文献
- Ota Y., Yoshida Y., Yokota T. (2008) Study of retrieving column amount of carbon dioxide from satellitebased near-infrared observation of solar scattered light in clear sky condition-error estimation and optimization of vertical pressure grid, J. Remote Sens. Jpn., 28, 152–160.
本研究の論文情報
- Lidar observation of the 2011 Puyehue-Cordón Caulle volcanic aerosols at Lauder, New Zealand
- 著者: Nakamae K., Uchino O., Morino I., Liley B., Sakai T., Nagai T., Yokota T.
- 掲載誌: Atmos. Chem. Phys., 14, 12099–12108, DOI: 10.5194/acp-14-12099-2014.