2014年10月号 [Vol.25 No.7] 通巻第287号 201410_287007

【最近の研究成果】 気候変化と水力発電

  • 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室 特別研究員 眞崎良光

水資源は、飲用、農業生産のみならず発電にも使われ、現在、全世界の発電量の16%が水力発電でまかなわれている。将来の気候変化によって降水量が変われば、水力発電に使うことができる水資源量も変わる。そこで本研究では、将来の気候変化にともなう河川流量の変化が水力発電に与える影響を、2つの観点(理論包蔵水力、流況に基づく水力発電量)から調査した。前者は、年間に賦存される水資源量の重力エネルギーを損失なく電気エネルギーに変換したときの電力量を、後者は、河川流量の変化の影響を受けやすい流れ込み式による水力発電を想定したときの電力量を、それぞれ評価したものである。

理論包蔵水力は、将来の降水量変化を反映した変化傾向を示した(図1)。全球総和した理論包蔵水力は、最も温暖化が進行する高位参照シナリオ(RCP8.5)の下で、前世紀末に比べて今世紀末には4%ほど増加する。一方、流況に基づく水力発電量も全球総和としては増加傾向を示すものの、その増加率は包蔵水力の増加率より小さい。水力発電で用いられる2つの発電効率の将来変化をもとに、気候変化による水力発電への影響を4つに類型化し、その地域分布を示した(図2)。

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図1理論包蔵水力の将来変化。1960〜1989年に対する2070〜2099年の値を比で表したもの(不変 = 1)。将来の降水量変化を反映し、降水量変化の地理的分布と概ね一致する。なお、灰色の地域(アフリカの一部、中東、インド、南米の一部など)は予測の対象外となっている

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図2流況に基づく水力発電量の推定において、発電効率の将来変化をもとに気候変化による水力発電への影響を4つに類型化した全球分布。発電効率は、河水利用率(年間に賦存された水資源量に対して発電に利用した水資源量の割合)と流量設備利用率(設置した発電設備を通年にわたりフル稼働させたときの電力量に対する実際の水量での電力量の割合)の2つを用いた。4類型のうち青色(赤色)の地域は、将来の気候変化が水力発電にとって好条件(悪条件)となる地域と解釈できる

本研究の論文情報

気候変動にともなう理論包蔵水力と流況に基づく水力発電量の将来変化
著者: 眞崎良光, 花崎直太, 高橋潔, 肱岡靖明
掲載誌: 土木学会論文集G(環境), 70(5), I_111–I_120, 2014.

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