2014年8月号 [Vol.25 No.5] 通巻第285号 201408_285004

地球環境モニタリングステーション落石岬20周年 1 思い出 1:20年前を思い返す—再び落石岬ステーションを担当して—

  • 地球環境研究センター 主幹 福澤謙二
    1992年7月〜1995年3月、2010年4月から現在まで地球環境研究センター勤務

国立環境研究所では、1994年、北海道根室市落石岬に地球環境モニタリングステーションを設置し、温室効果ガスなどのモニタリングを長期間継続的に実施しています。今年、ステーションの竣工から20年を迎えました。

地球環境モニタリングステーション落石岬(以下、落石岬ステーション)は、主に地球温暖化に関する地球環境の変動の解析、長期変動予測、影響評価を行うための基盤となるデータを取得するために1992年度から整備が進められ、1994年に竣工しました。私が地球環境研究センターに最初に配属されたのは1992年7月、その後1995年3月まで観測第一係の係員として落石岬ステーション立ち上げの時期に温室効果ガスモニタリング事業を担当しました。そして2010年4月から現在に至るまで、再び地球環境研究センターで観測第一、第二係等を担当する主幹として落石岬ステーションの管理運営にかかわっています。

地球環境研究センターは、地球環境研究を国際的、学際的、省際的な観点から総合的に推進するために環境庁(当時)の附属機関である国立環境研究所内に1990年に設置された組織で、1992年当時は地球環境モニタリング、地球環境研究の総合化、地球環境研究の支援を研究者と行政官とが一体となって推進していました。地球環境モニタリングステーションはその名のとおり地球環境をモニタリングする観測所で、温室効果ガスを中心とする大気微量成分の高精度無人観測を行うために、南北に長い日本の地理的、気候的特徴を考慮して沖縄県と北海道に各一箇所設置されました。最初につくられたのは沖縄県竹富町波照間島の地球環境モニタリングステーション波照間で、こちらは私が異動してくる直前の1992年3月に竣工し、観測の開始に向けて準備中でした。

一方の落石岬ステーションは、まだ「北域ステーション」という一般名称で呼ばれ、検討会を設置していくつかある候補地の中から場所を選定している最中でした。局所的な汚染源の有無によって絞り込まれた候補地の中から、最終的には現地調査の結果と地権者の協力を含めたメンテナンスのしやすさを考慮して1992年秋に落石岬を選定しました。落石岬には天然記念物のサカイツツジの自生地があり、ほぼ岬全体が天然記念物を保護するための保護区域に指定されていたため、文化庁、北海道根室支庁(当時)、根室市(教育委員会)等の関係機関と協議を重ねました。1993年の秋頃に落石岬ステーションの建設を知った地元の自然保護団体との話し合いの結果、地元への約束事として導入されたのが通路を荒らさないように工夫されたクローラー車(写真)です。

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写真クローラー車

当時の落石岬ステーションまでの通路は、土がむき出しになった轍があるだけで、少しの雨でもぬかるむ悪路だったため、定期メンテナンスで車が入る場合、ぬかるみを避けて周辺の草地を車が走り、そこが裸地化するなど、植生への悪影響を懸念されていました。そこで定期メンテナンスに使用する車には落石岬の植生への影響を最低限にするための工夫が求められました。そんなときにたまたまホンダから軽トラックタイプで公道走行可能なクローラー車が発売され、早速飛びついたものです。以後、現在に至るまでメンテナンスにはこの車両を使い続けていますが老朽化や部品調達に問題が生じています。

落石岬ステーションの建設工事は、予算を当時の北海道開発局に支出委任し、北海道開発局で設計、入札及び施工管理等が行われました。建設工事は1993年秋から1994年春にかけて行われ、この間、北海道開発局との約束で施工状況の確認のためにほぼ毎月現場に出張しました。当時の記憶では、冬の根室地方は、雪はそれほど多くはありませんでしたが、地吹雪で視界が10m程度しかない道を走ったり、道にできた雪だまりが判別できずに突っ込んだりなど、つくばでは経験できない厳しさを体験しました。また、この地方では雪が降っても気温が低いため路面では融けず、かつ強い風で飛ばされてしまうので道路は乾燥した状態を維持していて意外と滑らなかったことが印象に残っています。こうして1994年6月に落石岬ステーションは竣工に至りました。

そして2010年6月に北海道根室振興局が主催するエコスクールの手伝いのため約16年ぶりに落石に行く機会に恵まれました。久しぶりに落石に行き、クローラー車がまだ現役だったこと、そして落石岬の道が随分と走りやすくなっていたことに驚きました。建設当時は岬のゲート付近に車を停め、長靴を履いて歩いて行くことしかできなかった悪路(轍)が、砂利が敷かれた立派な通路になって乗用車でも普通に走れるくらいの状態になっていたことには驚きました。しかし、現在では保護区域を管理する根室市教育委員会と相談の上で整備を実施していますし、エコスクールで小学生が歩くことや、車の走行経路を限定できることから通路を整備してきちんと維持管理した方が、かえって落石岬の植生への影響は少ないのかもしれないと思うようにしています。

すっかり変わってしまった通路の状況とは反対に、久しぶりに訪れた落石岬ステーションは昔のままという印象でした。太陽光パネルが設置されたりして外観はそれなりに変化しているのですが、おそらく周辺の環境がほとんど変わっていないため、ステーション周辺の景観も含めた印象としては20年前と同じようだと感じたのかなと思います。今後、ステーションの維持管理に携わる担当者の方達には、数年先にまた訪れた時に、「昔と変わっていないな」との印象がもてるようにステーション及び周辺環境の維持に努めてほしいと思います。

目次:2014年8月号 [Vol.25 No.5] 通巻第285号

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